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第17話::駿河祭~クラス活動催し編~

 午後からは、クラス発表の当番。結局、喫茶店は平良先輩のクラスがするので、俺達のクラスは極普通に出店で決定していた。中庭にテントを張り、そこで売る。2、3年生の希望が優先なので、第三希望のたこ焼き屋。俺達生徒会は、明日の宝探しがあるため、店の当番を今日にしてもらっていたんだ。教室に用意してある材料を持って、中庭に移動する。中庭には、既に一般客や、生徒が集まっていた。 「明都くん、やっぱりあの格好で店番すれば、客寄せになったのに」  朋成くんが突然、そんな事を言い出しては、制服姿の今の俺を頭から足元へと、目線を流してきた。俺はそんな朋成くんに対して、首を左右に思い切り振ってしまっていた。 「……恥ずかしいから、やだよっ!」 「五十嵐が鼻血噴くしな?」  首を振りながら俺が言い告げると、治弥は昭二に向かって言っていた。昭二を視界を向け確認すれば、鼻の頭を押さえて上を向いていた。 「いやっ……、明都、スカート捲るとは思わなくて」 「あの格好だと、チラリズム全開になるしな……」  スパッツ……、履いてたのに……。  治弥は昭二の首の後ろを叩いてあげながら、そう言葉を漏らしていた。なんだかんだ言いつつも、最近の二人は仲が良く見える。 「昭二、変態」  俺は昭二を見上げながら言い放つ。上を向いたままの昭二は、俺の言葉が耳に届いたのか、俺に目線だけを向け、頬を赤くすれば直ぐに目線を外された。  な、なんで!? 「花沢……わりぃ、俺、トイレに行く」  昭二は治弥に向かってそう言うと、屋台の中から抜け出しては中庭を後にしていた。 「明、あんまり昭二を煽るな」  そんな昭二の後ろ姿を見ていると、治弥は俺の頭を軽く二度叩いては、そう告げてくる。俺……、何もしてないのに……。 -1-  どんな、妄想をしたんだ……あいつは……。なかなか戻って来ない五十嵐をほっといて、俺達は店を始める事にした。開会式で目立った明のもとには、野郎共が群がる。  明に裏方をやらせたいが、不器用な明にはたこ焼き作りは到底無理な話。接客をさせれば、色目を使ってくる野郎共、腹立つなぁー……。 「治弥……、接客用の笑顔が段々と引きつってる」  隣でたこ焼きを焼いている朋成は、目線を俺に向けると、すぐにたこ焼きを焼いている手元へと目線を戻しては、呆れた口調でそう告げられた。  いやっ、だってな? わざと釣りがあるように出して、釣りを受け取る時に明の手を握り締めてんだぜ? それって、許せるかい? 「あ、あのっ?」  明の様子に目線を向けつつ、たこ焼を焼いていると、接客をしてる明の方じゃなく、焼き方をしている朋成と俺に話しかけてくる人物がいた。その声に反応して俺は顔をあげると、そこには見覚えもない男子が立っていた。この駿河学園の生徒ではないそれだけは、服装が私服だということで理解は出来た。 「この、クラスに……、五十嵐 昭二って……、いますか?」  その男子は、俺と朋成に向かってそう問い掛けてくる。口調は不安気で、眉尻も下げ、シドロモドロと言葉を繋げている。ただ、五十嵐の名を呼ぶときだけは、ハッキリとした口調だった。五十嵐の知り合いか? 「居るけど、今席外してる」  俺が返答の言葉を口にすると、その彼は瞼を一度瞬かせるが、直ぐに頬を緩ませて、先程までの表情を思い出せない程の笑みを浮かべていた。  その笑顔を見て思った、笑い方が明に似てる。顔の造りが似てるとかじゃなくて……、笑い方が。 「あ、ありがとうございます!」  礼の言葉を述べると、彼は勢いよく頭を下げては、直ぐにその場を立ち去って行った。その様子に呆気を取られ、俺と朋成は思わず顔を見合わせてしまっていた。なんだったんだ? -2-  俺達のクラスの屋台の前には、人だかりが出来ていて、なんとか一列に並んでもらってはいるけど……。  ここだけお客さん凄いの気のせい?  一番最後尾に目線を向けるが、どこまで続いてるのか確認が出来ない。治弥と朋成くんは、焼き方に必死。焼き終われば並んでる生徒を、前から順番にたこ焼を渡しながら会計を済ませて行く。出来立てのたこ焼は直ぐに底を付き、焼き上がるまでまた待ってもらうの繰り返しで、焼いても焼いても足りないんだ。 「治弥ぃー、お釣り足りない」  釣り銭を入れてある金庫を覗くと、お札ばかりが増えていき、100円玉の小銭がなくなりそうになっていた。俺が治弥に声をかけると、治弥はたこ焼を焼きながらも、金庫の中身を覗き込み確認する。 「ったく、五十嵐はいつ戻ってくるだよっ!?」  そう言いながら、治弥はスマホを取り出して、昭二に連絡を取ってるみたいだった。 「五十嵐が持ってくるから、それまではちょっと待ってもらって」  電話での会話を終わらせると、治弥はスマホをポケットに仕舞いながら、俺に向かってそう言い聞かせてくる。今は丁度、たこ焼が焼き上がるのを待っていてもらってる状態だから、丁度いいのかもしれない。 「ん、判った」  暫くして、昭二は釣り銭を手に持ち中庭へと戻ってきた。 「もう、大丈夫?」  戻ってきた昭二は接客の方を手伝ってくれるみたいで、俺の隣へと来てくれる。俺が昭二の顔を覗き込み問い掛けると、絡み合った目線を離さずにいたが、昭二は直ぐに両目を手で覆っていた。 「……五十嵐、お前は焼き方やってろ」 「その方が有り難い」  その様子を見ていた治弥は、呆れたように昭二に対して言い告げると、昭二は屋台の中へと移動して行った。治弥がテントの前に立つと、俺達の店の前は更に一般客も加えて、人だかりが出来てしまった。  うっ……、治弥の周り女の子いっぱい。  治弥はそんな様子の一般客にも、気にした素振りもせずに、並ぶように促している。話し掛けてくる女の子には、笑みを向けて対応をしていた。 -3-  この列……、どこまで続いてるんだ……。そんなにうまいのか、このたこ焼き……。 「あと……、何分だっけ当番」  途方もない列の量に、俺は思わず接客をしながら言葉を漏らしてしまっていた。 「んー……、二時までだから、あと20分」 「まだそんなにあるのか……」  たこ焼きを焼き続けている朋成は、俺の問いに目線を手元に向けたままで答えていた。焼き終わるのを待たなくては、この並んでいる客をさばけないので、俺は屋台へと身体を向けて朋成と話を始めていた。 「そろそろ、明都くんの我慢が切れそうだけどね……」  焼いている間にも、明は丁寧に客として来ている生徒に対応している。話し掛けられてそれに答えているのが、視界に映る。そんな明の様子を見ながら、朋成は言葉を漏らすもんだから、俺も明へと目線を向けていた。 「明は言い寄られるのに慣れてないからな……」 「そっちじゃなくて……」 「え……?」  明に言い寄ってくる奴らを、俺は明にバレない様に防いできたこともあり、明は対応に慣れていない。元々、他人に対して悪意を持たない性格の明だから、余計にどう接し返していいのか判らないのだろう。朋成が言ってる意味がそういう意味だと捉えた俺は、朋成に言い告げたが、返答は否定の言葉だった。 「明都の笑みが、作り笑いになってきてる」 「ん?」  俺と朋成の会話を聞いていた昭二まで、朋成が言おうとしている意味を理解しているのか、明に目線を送りながら言葉を言い告げていた。 「ヤキモチ爆発させなきゃいいけど」  ヤキモチ……。いつ、だれが……、どこで……、そして誰に? 「……どこにヤキモチ?」 「女子客の対応してるのを、チラチラ見てたぞ」  俺は疑問の言葉を投げかけると、昭二は笑いながらそう知らせて来ていた。明都くん……、ヤキモチ妬いてたのですか……。というか、同時に俺らヤキモチ妬いてたのかよ……。 「それ……、で!?」  俺は、接客をしている明へと目線を向けたが、そこには見知った顔の人物が、明に話し掛けているのを視界に捉えてしまった。 「明ちゃん見付けた!」 「叶羽さん!?」  これは……、どういう事だ……。なんで、叶羽さんが居るんだ、この学園祭に……。叶羽さんと言えば、もちろんその傍らには南兄の姿があった。 -4-  接客をしていると、声を掛けられ、その方向に目線を向けると、そこには手を振る叶羽さんと南兄の姿があった。  やっぱり、治弥。南兄達に文化祭教えてたんだ。 「な、な、な、なんで!? 南兄達が居るんだよ!?」 「え?」  暫く朋成くん達と話をしていた治弥は、叶羽さんと南兄の二人の存在に気付いたのか、二人を交互に指差しながら叫んでいた。それは、驚いた表情を浮かべて、瞼を何度も瞬かせている。 『桃先輩に、教えてもらった』  南兄と叶羽さんは二人で、右手でブイサインを作り、こちらへと向けては、驚いている治弥に対して笑顔で言い切っていた。その返答を聞いた治弥は、明らかに落胆な表情を見せる。 「治は、いくら聞いても教えてくれないから」 「明ちゃんの女装姿も、バッチリ抑えたよ?」  開会セレモニーから来てたんだ……。バッチリと言った叶羽さんの手の中には、手のひらサイズのデジカメが……。  え? まさか!? 「撮ったんですか!?」  俺がそう言うと、叶羽さんは笑顔でデジカメの画面を見せてくれた。その中には、アップから全体まで何枚も……。治弥に横抱きにされてステージに出た時のまでも、デジカメに収まってしまっている。  は、恥ずかしい……。 「叶羽さんっ!!」 「何? 治くん?」  治弥は接客そっちのけで、叶羽さんの腕を引いては屋台の脇へと連れて行き、なにやら俺に背中を向けた。そんな治弥の様子も気になったけど、俺は接客を続けることにした。 「それ全部プリントして俺に回して下さいっ」 「治弥!? 聞こえてるよ!!」  接客していると、治弥の声が異常に耳に入ってしまい、そんな約束をされる前に、俺は止めていた……。 「……俺も欲しい」 「昭二っ!?」  昭二まで何言ってんの!? 「じゃ……、二枚ずつプリントするね?」 「叶羽さぁーん!?」  本当に、それ抹消して欲しいです……。 「……俺も」 「南飛はダメ」  南兄も申し出てたけど、叶羽さんに即座に却下されていた。 -5-  いやぁ……、だってさ? 生徒会の仕事で、写真なんて撮ってる暇なかったわけじゃん? 面と向かって、撮らせてくれるわけないだろうし? こんな機会がなければ、女装だってしてくれないし。 「明ぃー? 一枚ぐらいいいじゃん?」 「やだっ!」  クラスの当番の仕事も終え、今日は後は自由時間。朋成は彼女が来るからと、校門で待ち合わせをしに、五十嵐は疲れたからと、生徒会室にサボりに行った。明日は一日宝探しでつぶれるから、今日の内に学園祭を楽しみたいと思っていたわけですが……。明は叶羽さんに抱き付いて離れません…。 「治くんは、明ちゃんには弱いんだね?」 「明は俺の全てですから」  明の頭を撫でながら言う叶羽さんに、俺はそう返した。隣には、明ごと叶羽さんの肩を抱き締めている南兄の姿。俺達は、生徒会の先輩方のクラスの出し物を見に来ていた。いやっ、あの人達に来るように言われてたので、行かなかったら、後でなに言われるか判らない。  喉が渇いたという、叶羽さんの申し出に、取り敢えず2年F組。平良先輩の元に。 「お待たせしましたぁ!」  予想通り猫耳付きのメイド平良先輩が、飲み物を運んできた。 「ありゃー……、治弥のお兄さん、そっくりだね?」  俺と南兄の顔を交互に見ながら、平良先輩は呟いていた。本当………、似てると言われなかった事は、まずないな。 「……で、なんで明ちゃんはこの美人さんに抱き付いてんの?」  その問いに俺は平良先輩の耳元で、事の事情を話した。 「あの写真欲しいんだ? 治弥?」  あっ……、なんか、にやついた笑い方してますよ? 平良先輩?  俺の話を理解出来た平良先輩は、目を瞬かせたが、口角を上げて、それは得意気な表情へと変わる。 「じゃぁ~ん!!」  おもむろにポケットからスマホを取り出した平良先輩は、軽快にスマホを操作してから、俺の視界に入るようにスマホの画面をちらつかせた。 「い、いつの間に!」  平良先輩のスマホの画面には、あの女装の姿で上目遣いで笑ってる明の写真が!  しかもこれは、叶羽さんの写真とは違い、貴重なカメラ目線! 「平良先輩! 写メ送って!」 「治弥ぃーー!!?!?」  はい。直ぐに明に怒られたのは、言うまでもない。 -6-  平良先輩のクラスで軽く食事を済ませてから、メイド喫茶を後にし、次に向かった先は、2年B組。咲先輩のクラスだ。咲先輩のクラスは、お化け屋敷らしい。……でも、咲先輩、紛い物だって言ってたんだよね? 「あぁーきぃ?」  俺は叶羽さんの腕を掴んだまま、離れずに廊下を歩いていた。別にもう怒ってるわけじゃないんだけど……。叶羽さんが、治弥の反応が面白いから、このままでって言うから。俺達の後ろを俯きながら、覚束ない足取りで着いて来ている治弥。 「治弥?」  ちょっと可哀想になって、俺は叶羽さんの腕を離し、振り向いては治弥に声をかける。 「うわっ!?」  声を掛けると治弥は、俺に目線を向け、ゆっくりとした足取りで傍まで来ると、そのまま何も言わずに、俺を抱き締めてきた。 「は、治弥っ!?」  ここ廊下! 一般の人とか、生徒とかいっぱいいるから!? 「明、口聞いてくれないかと思った」  治弥は俺を抱き締め、俺の肩に顔を埋めると、小さくそう呟いてるのが耳に届いた。  もうーー……。  俺はそのまま、治弥の脇のYシャツの裾を掴んで、されるがままに抱き締められる事にしていた。 「朋成くん! あれが噂の幼馴染みカプ?」 「………弥生(やよい)ちゃん、声大きいよ?」  突如、声が聞こえて、俺はその声の方角に目線を向ける。 「と、朋成くん?」  そこには朋成くんと、傍らに手を繋いで、髪をツインテールに束ねている女の子が、俺達の方を見て笑っていた。 -7- 「初めまして、藤森 弥生(ふじもり やよい)と言います」  二人の声を聞いて慌てて身体を離した俺達に、一礼をして彼女は自己紹介を始めていた。 「あ、泉 明都です」 「朋成の彼女?」  明が、慌てて自己紹介を返しているのを脇目に見ながらも、俺は朋成に問い掛けていた。クラスの当番が終わった後、彼女と待ち合わせをしていると言っては、校門に向かった朋成から察するに、彼女だと予想を立てるのは自然な事だろう。俺の問い掛けを耳にすると、朋成は苦笑いを浮かべながら頷いていた。  その彼女は、明を頭の天辺から足元まで、ゆっくりと目線を流しながら凝視している。そんな様子に明は、後退りをしながらたじたじになっていた。 「女の子みたい……、可愛い!」  彼女にそう言われて、明は目を丸く見開いて、困惑の表情を浮かべる。目線を朋成に向けると、どこか助けを求めるている様だった。 「弥生ちゃん……、明都くん困ってるから」  朋成がそう言いながら彼女へと手招きをすると、彼女は朋成の元へと行き傍らに収まった。彼女がその後、目線を向けた先は南兄達。  南兄達は、俺達の突然の出来事に、ただ呆然と目線を送ってきていた。 「美人さんですね?」  叶羽さんに言ったのであろう彼女は、今度は叶羽さんを観察するように凝視している。 「え? ……お、俺?」 「当たり前だ、叶羽は初代ミス駿河だから」  はい? 南兄がサラリと延べた言葉に耳を疑った。 「叶羽さん? 俺と一緒?」 「うん、一緒」  伝統ともなっている駿河学園のミスコンは、南兄達の代から始まったらしい事を、後で俺は二人から説明を聞かされた。   -8-  なんだかんだと朋成くん達と話をしつつも、咲先輩のクラスに向かう。辿り着いた咲先輩のクラスは、言われた通りにお化け屋敷が開催されていた。二人一組での参加になる、このお化け屋敷のルールに則り、俺達はそれぞれに別れてお化け屋敷へと足を踏み入れた。 「うっわぁ!?」 「明?」  只今、暗闇の中、俺は、誰かに腕を引かれました。  南兄と叶羽さんが先に入って行って、俺は治弥と入ったんだ。道順を順序よく歩いていると、後ろから腕を引かれた。暗闇で視界がまだ慣れて来てないうちの出来事だったために、何が起こったのかよく判らない。 「はっ、んんん!?」  体をしっかりと後ろから抱き締められて、身動きが出来なく治弥に声を掛けようとすると、口を手で押さえられた。そのまま引きづられて、近くの暗幕のカーテンがしてある中に連れて来られると、漸く体を解放された。俺は直ぐに連れてきた人物を確認する。 「さ、咲せんっ!?」  その人物は咲先輩だったんだ。咲先輩の名前を驚いて言おうとすると、俺の口の前に咲先輩は人差し指を立てた。 「しぃっ……、治弥くんに気付かれちゃうよ?」  咲先輩は、口許に人差し指を立ててを添えると、小さい声でそう言葉を発していた。 「何してるんですか?」 「だから、お化け屋敷の紛い物って言っただろ?」  俺は咲先輩が言ってる意味が判らずに、ただ首を傾げた。咲先輩はカーテンを少し開けて、治弥の様子を伺っている。俺も一緒になり、カーテンから治弥の様子を伺うように、そちらを覗き込んだ。治弥は冷静に回りを見渡して、観察している様だった。 「紛いもの……?」 -9- 「うっわぁ!?」 「明?」  突如、明の声を聞いて俺は辺りを見渡す。視界も慣れてない暗闇のせいで、何が起こったのか確認が出来ない。ただ、さっきまで側に居た明が、もう側に居ない事だけは判った。 「明ー?」  明を呼んでも返事がない。何が起こってるんだ? 咲先輩のクラスだ、ただのお化け屋敷じゃない事は判る。  俺は辺りをとりあえずと見渡すが、暗幕カーテンに寄って道順は、暗闇が続いている。衝立で仕切られている特別教室、ここは元は音楽室に当たる場所。衝立を使用して道順を作り、竹やぶやらを着飾り立派なお化け屋敷へと変貌を遂げていた。 「あぁーきぃ?」  辺りを見渡しながら、明を探すことにし、俺は道順に添って足を進める。 「治っ!?」  その時、道順を戻ってきたであろう、慌てた様子の南兄が俺の側に駆け寄ってきた。視界が暗闇に慣れてきた事もあり、なんとか近付いてきた南兄の姿が確認出来た。 「南兄?」 「叶羽が消えた」  叶羽さんが居なくなって慌てているらしい。って叶羽さんも!? 「……明ちゃんも居ないのか?」  俺の側に明が居ない事が判ったのか、南兄は確認を取ってくる。俺は苦笑いで頷いていた。  その時、俺達の頭上に一枚の紙切れが、空気に乗って花びらの様にヒラヒラと落ちてきた。俺はそれに気付いて拾い、4つに折られている紙を開いて中身を確認する。 “互いのパートナーを探せ” 「???」  暗闇でも読める様にと、A4用紙の大きさに、その用紙の全体を使って、大きな字でそう書かれていた。  咲先輩……、何考えてるんですか……。 -10- 「治弥くんは冷静だなぁ」  咲先輩は、カーテンから治弥の様子を見ては、そう呟いていた。 「つうか、何なんだよ……」  俺の後で咲先輩のクラスメイトに連れて来られた、叶羽さんが椅子に座り、足を組みながら、ぶつぶつと言葉を投げ掛けている。 「……あれ? 初代ミス駿河?」  咲先輩は叶羽さんの顔を確認すると、驚いた表情を浮かべてはそう呟いた。なんで知ってるんですか!?  俺はさっき知ったばっかりだというのに、咲先輩は叶羽さんの顔を見ただけで、判ってしまっていた。そんな状況に驚いて、咲先輩へと目線を向けると、咲先輩は俺を見てからまた叶羽さんに目線を戻す。 「有名でしょ? 白薔薇と言われていた人。へぇー、治弥くんの知り合いだったんだ」  有名? 白薔薇? 何?  咲先輩は、叶羽さんに目線を向けたままで、次々と言葉を繋げていくが、どうも俺には理解が出来ない事ばっかりだった。 「……勝手に皆が言ってただけだ」  叶羽さんは、咲先輩の言葉を耳にしては、小さく言葉を漏らしていた。 「咲先輩? 何するつもりなんですか?」  ただ、叶羽さんの白薔薇も気になるけど、今の状況も気になって仕方がない。俺が咲先輩に問い掛けると、咲先輩は口角を上げて笑っていた。 「彼ら二人が、君らを暗闇でも探せるか?」  そう俺の問い掛けに答えると、咲先輩は俺の腕を掴んでくる。俺は思わず、その腕へと目線を向けてしまっていた。 「さ、咲先輩?」 「さぁ……、移動するよ?」  治弥達が置き去りにされた表の道順とは別に、裏道が作ってあるらしく、俺を誘導しながら、咲先輩は治弥達を先回りした。その後を叶羽さんは黙ってついて来ている。 「……拘束とかは、しないんだな?」 「して欲しい?」  叶羽さんの疑問に、咲先輩はにやつきながら答えている。 「……なんだよ、この手は?」  咲先輩は俺の腕を離したかと思えば、叶羽さんの元へと行き、両肩に手を置いて顔を覗き込む。 「白薔薇を拘束出来るなら、俺は喜んでするよ?」 「咲先輩!?」  咲先輩が叶羽さんの腰に手を回そうとするから、俺は急いで止めた。  どこまでが本気なのか、判んないよ!? -11- 「闇雲に探してもどうにもならないから、とりあえず出口を探そう?」 「治……、冷静だな?」  どうせ、咲先輩が、絡んでるのは判っている。あの咲先輩だ、簡単には見付ける事なんて出来ない場所に、二人を匿っているに違いない。この、一本道になっている衝立で区切られた道順も、きっと何か仕掛けがあるのかもしれない。  とりあえず、心配なのは、手を出してないだろうか……、ということ。  俺は道順を辿りながら、出口を目指した。お化け屋敷なだけあって、こんにゃくが飛んできたり、火の玉に見立てた光がちらついたりしていた。 「うわっ」  俺の後ろを歩いていた南兄の声が耳に届き、俺は振り向いて確認をする。 「……南兄?」 「……」  南兄は、お化け役の生徒と、ぶつかってしまったみたいで……。ぶつかったのはなんとなくわかったけど、それはいいんだけど、なんで見つめ合ってんだ……。 「おーい? 南兄?」  俺は呆れた声で呼んでも、南兄はその生徒を見つめたままだった。そう言えば、南兄って年下好きだっけ? 「君、怪我はない?」 「あっ……、はい」  お化けの衣装であろう、白装束を身に纏った生徒。足元は下駄を履き、それでも並んでいる南兄よりも身長が低い彼。南兄は彼の両肩に手を添えて、顔を覗き込みながら、言っていた。 「可愛いのに、顔に怪我したら大変だよ? 気を付けな?」 「あ、ありがとうございます!」  甘いフェイスをちらつかせながら、南兄が言うもんだから、相手の生徒は顔を赤らめてしまった。 「……タラシの南飛くん?」  その時、聞き慣れた声を聞いた。  あぁーあ……俺、しーらねっ。 -12-  俺達は咲先輩の案内で、裏道を使い出口付近まで辿り着いていた。上手く作られている裏道には、お化け屋敷の仕掛けや、脅かす為のお化け役の生徒等が行き交っていた。狭い通路で、二人が擦れ違うのにやっとの幅。所々に暗幕カーテンがあり、表の道順へと行けるようになっている。表の道順からはこちらは、設置してある竹やぶ等で隠されていて、準備した咲先輩達にしか、判らない様になっているらしい。 「治弥くん逹、来たみたいだよ?」  出口付近の暗幕カーテンを少し開いては、表の道順を覗き咲先輩は言っていた。咲先輩が覗き込む様に手振りで促してくるから、俺と叶羽さんは、一度目線を合わせてから、二人でそのカーテンから覗き込む。 『!?』  覗き込むと予想だにしてない情景が視界に映り、俺は思わず目を見開いてしまっていた。それは、会話は聞こえないけど、南兄がお化け役の生徒と、なんだか思いもよらないただならぬ雰囲気。お化け役の生徒の両肩に手を添えて、その彼の顔を覗き込んでは、優しく微笑んでいる南兄の姿。  俺は横にいる叶羽さんを横目で流し見ると、叶羽さんらしくない、とっても怖い顔。 「治弥くんの兄貴って、面白いね?」  咲先輩……、他人事? 「白薔薇? 行ってもいいよ?」  咲先輩は面白がって、叶羽さんを行かせる様に促した。叶羽さんは、咲先輩の顔に一度目線を向けると、カーテンを握りしめていた。 「……あの馬鹿……、ふざけんな」  そう低い声音で言い漏らし、叶羽さんは治弥逹の方へと、カーテンを掻き分けて向かって行った。 「……タラシの南飛くん?」  冷静さを装いながら叶羽さんは、南兄に話しかけていたけど、後ろからでも判ってしまう怒りのオーラを漂わせていた。発した声音は、冷たい印象を受けてしまう。  叶羽さんのこんなに怒った所なんて、初めて見たかも? -13- 「叶羽!? 待てって」 「うるせっ! ついてくんな!?」  咲先輩のクラスのお化け屋敷から、あの後直ぐに出て行った叶羽さんは、何故か明の腕を引いて廊下を歩き続ける。その後ろを南兄が、声を掛けながら追い掛けていた。 「叶羽さーん……、2年C組に向かって下さいね?」 「……ん」  追い掛けている南兄の後ろを歩きながら、俺は叶羽さんに声を掛けると、反応したように小さく頷いていたのを確認出来た。 「治弥くんの兄貴は、いつもあんななのか?」 「大体はあんなです」  叶羽さんを怒らせるのに関しては、右に出るものは居ないんじゃないかと思う。毎回、叶羽さんを怒らせては喧嘩してるよな……。次は牧先輩達のクラスに俺らが行く事が判ったので、咲先輩はクラスの当番を他所について来ていた。 「花沢くん? 一つ聞いていいですか?」  俺達の更に後ろをついてきている、朋成とその彼女の弥生ちゃんは右手を上げて、問い掛けてくる。朋成は咲先輩のクラスで、最初から何かを察知していたらしく、お化け屋敷の中には入らずに、俺らが出てくるのを廊下で彼女と待っていた。 「どうぞ?」 「あのお二人は、同棲してるんですか?」 「え? あぁ……、うん」  俺がそう答えると、弥生ちゃんは満面な笑顔になった。その瞳はまんまるく興味津々とばかりに輝かせている。 「同棲ライフ!」 「……は?」  俺は意味が判らずに、朋成へと目線を向ける。そんな朋成は、ただ苦笑いを浮かべてるだけだった。 「詳しくお話を聞きたい!」 「二人の状況を、見て言おうね? 弥生ちゃん?」  暴走寸前の弥生ちゃんを、朋成はいつもの事の様に言いくるめていた。朋成が対応に慣れてる辺りで、いつもの事なんだろうな……。 -14-  俺は叶羽さんに腕を引かれて、2年B組の教室の前に来ていた。 「どれ? 牧はちゃんと仕事してるかな?」  いつの間にか追い付いていた咲先輩は、入り口のドアに手をかけていた。牧先輩のクラスだからか、表情は嬉々としていて、声音も明るく言い告げている。 「デジカメ写真館?」  俺の後ろに立って、治弥は看板を見上げながら言っている。俺も同じように、その看板を見上げる。入り口の上には、“デジカメ写真館”と大きく書かれた看板が飾ってあった。 「何するところだろ?」 「桃ちゃん愛用の尭江先輩メモリーだったら、面白いのに」  それは、ないと思うよ? 治弥? 「それを教室中に飾ってるのとかだったら、尭江が発狂しそうだな」  咲先輩は話を聞いていたのか、俺達に笑いながら話し掛けドアを開けていた。 「いらっ!?」  牧先輩が受付担当だったらしく、笑顔で挨拶をしようとしたが、咲先輩の顔を見て、一度瞼を瞬かせると直ぐにドアを閉めてしまった。 「牧……、いい度胸してんな?」 「おめぇはくんな!?」  牧先輩は内側から、ドアを押さえているみたいで、咲先輩は必死にドアを開けようとしている。どちらも一歩も譲らない感じだった。 「会長……、客が遠退く」  教室の中から、尭江先輩の声が聞こえてきたかと思ったら、ドアが静かに開き、そこには尭江先輩が姿を現していた。  今頃、気付いたけど……、南兄の姿がないんだよね? 叶羽さんも気にしてるのか、辺りを見渡して探してるし……。 どこ行ったんだろ?   -15-  尭江先輩によって、教室の中に招き入れられ、中に入ると教室内には、ずらーっと色々な種類の衣装が並べられていた。 「好きな衣装を着て、記念にデジカメで写真を撮るんだ。一枚100円!」  尭江先輩はデジカメを構えながら、片目を瞑りウインクをしてみせると説明をしてくれる。 「凄い、いっぱいある」 「明ちゃん、着てみる?」  明と叶羽さんは衣装を手に取りながら、話していた。叶羽さんの問い掛けに、明は物凄く首を横に振り断っていた。 「牧は着ないのか?」 「着ねぇーよ! 俺は撮る方だっつの!?」  牧先輩は、咲先輩に肩を抱かれながらも、必死に抵抗している。 「叶羽さん? これなんか似合うんじゃないですか?」  尭江先輩が一着の衣装を持って、叶羽さんの前に差し出した。 「……尭江くん? 俺に着ろと?」  叶羽さんが後退るのも、気持ちは判る。尭江先輩が差し出した衣装は、女物。確かに叶羽さんに似合いそうな、純白のワンピース。 「そうです! 皆さん! 衣装を着て撮影会をしましょう?」 「や、弥生ちゃん!?」  今まで、黙って見ていた朋成の彼女、弥生ちゃんは目を輝かせて期待に満ちた表情を浮かべれば、そう元気良く、言葉をハツラツとした調子で発していた。 -16-  勢いのついた弥生ちゃんには、逆らえる事が出来ずに、それを朋成くんも止める事が出来なく。  結局、本日、二回目の女装です。 「治弥くん、もうちょっと、明都くんにくっついて?」 「こう?」  治弥は弥生ちゃんの言いなりのまま、俺の頬に手を当てて、額同士を重ねてくる。スマホを手に持ち、こちらに向けている弥生ちゃんは、あれは写真を撮っている。 「……顔近いぃーー」 「要望要望」  間近な距離の治弥は、今までにないくらいの満面な笑顔で、今の状況を楽しんでいる……。楽しそうに、弥生ちゃんの要望へとノリノリな勢いで答えている。 「このまま、キスしてもいいよ?」 「~~っ!?」  口角を上げて笑みを浮かべると、治弥はそう口にしていた。その言葉に俺は、顔に籠る熱を感じる。 「きゃぁぁぁ!! 是非、して下さい!」  治弥の言葉と同時に、弥生ちゃんの雄叫びが耳に届いてきた。 「了解」 「治弥!? 治弥! 治弥! 治弥ぃー!!!!!???」  段々と近付いてくる治弥の顔。力では敵わず、俺の治弥の肩を押す手は、意味のないものだった。 人前でキスするなんて、恥ずかしくて出来やしないのに、弥生ちゃんの手にはスマホが持たれてて、写真を撮る気満々……。写真まで撮られたら、俺恥ずかし過ぎて死んじゃう……。 「叶羽っ!?」  唇と唇が重なり合う寸前、大きな声量の声が耳に届いてきた。その声に治弥も驚いたのか、近寄ってくるのが止まっていた。大声を上げて教室のドアを開けたのは、南兄。教室の入口に全員が注目する。  た、助かった?  南兄の右手には、一輪の黄色い花。南兄……、なんで? 花? 「バカ南飛……、それ探しに行ってたのか?」 「あ、あぁ」  教室の端で椅子に座る叶羽さんが、南兄に話しかけると南兄は叶羽さんに近寄った。 「叶羽……、なんでそんな格好?」  この状況が今一読み込めない南兄は、叶羽さんを抱き締めながら言った。  叶羽さん……、そう言えば、純白のワンピースだったね? -17- 「南兄、俺ら明日の打ち合わせで、集まんないといけないから」  弥生ちゃんの気が済むまで、撮影会をしていたら、気付くと生徒会の集まる時間になっていた。 「明日って、なんかやるのか?」 「泉のキスを懸けた宝探しを、生徒会主催でやるんですよ」  南兄が疑問を投げ掛けると、尭江先輩はサラッと答えてしまっていた。  あっ……、それ言っちゃったら………。 「叶羽……、明日も来るぞ?」 「はぁぁぁぁ!?」  ほらっ、言わんこっちゃない。南兄は目をギラギラと輝かせて、表情は口角を上げ満面な笑みを浮かべている。こいつ……、明に反応しやがった。 「叶羽に南飛? やっぱりお前ら来てたのか?」 『桃先輩!?』  その時、なかなか集まらない俺達を呼びに来たのか、桃ちゃんが入口から教室を覗き込みながら声をかけてきた。 「桃先輩、尭江くんに会いにっ」 「だぁぁぁぁぁ!?」 「愛しの尭っ」 「わぁぁぁぁぁあ!?」  南兄と叶羽さんの言葉を必死で遮る尭江先輩。尭江先輩……、必死だなー……。生徒会以外では教師と生徒の関係だから、隠してるからな?  桃ちゃんはそんな尭江先輩を見て、苦笑いを浮かべていた。南兄と叶羽さんは面白がってるし……。 「花沢……、おめぇの兄貴達なんとかしろ!?」  なんとか言われても? 尭江先輩……多分、からかわれ体質なのかと……。  そんなこんなで、駿河祭一日目は終わりを告げる。明日は、嫌な嫌な……、宝探しだ。 -18-

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