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第16話:駿河祭~開会セレモニー編~
あっ、……平良先輩可愛い。
「明ちゃん、ジッとしてて?」
「はい」
俺は平良先輩に言われて大人しく、ゆっくりと瞼を閉じた。平良先輩は俺の顎に手を添えて、口紅を塗りつける。
はい、只今、開会式の準備中です。
平良先輩はクラスでするメイド喫茶の衣装を身に纏い、頭には和くん仕様の猫耳を付けて、俺に化粧を施していた。準ミスの平良先輩がメイドの格好だからと、俺まで女装をさせられてます。
「んー! やっぱり、明ちゃん可愛い!」
全ての準備が終わり、平良先輩は遠目になりながら俺に目線を送り、そう告げてくる。 平良先輩の方が、可愛いと思いますが……。
平良先輩のメイド服は、生徒会合宿の時に着ていたメイド服とはまた違うもので、クラスでわざわざ用意したらしい。全体的に水色を基調とし、背中は編み上げられている白いリボン、腰元にはレースで縁取られた大きめなリボンが着飾ってあり、長くもなく短くもない膝までのスカート。頭はウィッグを付けてるわけでもないけど、水色のヘッドドレスが凄く可愛い。さらに、猫耳のヘアピンで左右の髪を留めている。クラスの皆が平良先輩専用に作ったらしい……、それをノリノリで着こなしている平良先輩。
「明、準備っ……!?」
着替えを済ませ、準備が整った頃、生徒会室の扉を開け放ち、その場で立ち尽くす治弥。声が聞こえ扉へと目線を向けると、俺を呼びに来たであろう治弥が、扉を開けるなり、準備室と化している生徒会室の入り口で固まった。
「治弥? ……うわっ!?」
固まったかと思ったら、治弥は俺に目線を送り、漸く生徒会室の入り口から動き出したと思ったら、椅子に座っている俺の方に近寄ってきて、そのまま無言で抱き締めた。
「……誰にも見せたくない」
俺を抱き締めては、耳元に唇を寄せて、小さくそう呟いてきた。
「どうだ! 平良様仕様は!」
平良先輩はそんな俺らを見て、腰に手を当てて、胸を張り、得意気な表情を浮かべながら、自慢気に言い告げている。
「平良先輩が威張る事じゃない、明が可愛いのは元から」
俺を抱き締めたままの治弥は、平良先輩に目線を送ると、抱き締めている力が更に増したのを感じる。俺を抱き締めたままで、平良先輩から目線を外すとそう告げていた。
「言ってくれちゃったよ! この人!?」
-1-
明の格好といったら、清楚なイメージを膨らませられる。
膝丈20センチの紺と水色の青系チェック柄ミニスカート、上には白いブラウスのカッターシャツに、襟元にはスカーフ生地の紺色リボン。首に付けられたリボンとお揃いのチョーカーがかなり可愛い。肩に掛かる程度の長さのウェーブウィッグを、両サイドに紺色の紐タイプの小さいリボンを付け、軽く結んでいる。薄く化粧も施されていて、どっからどう見ても、女の子。
「なんか、スゥースゥーする」
体育館に向かうため、廊下を歩いていると、明は短めのスカートの裾を掴んで言い始めた。
「掴むなって」
中見えるって……。
明の手を振り払って、俺は止めさせた……。トランクスだとチラリズムが萌えないとかで、明はボクサーパンツの上に短めのレース付きスパッツを履かされてるらしい……、見てないから知らないけど。そんな格好で廊下を歩いていれば、視線は集中させられる。文化祭だから、特別教室を使うクラスも多く、生徒会室のある第二校舎にも生徒達は朝から準備の為、訪れている生徒は多かった。
「美男美女のベストカップル?」
俺達の後ろを歩いていた平良先輩は、こちらにも聞こえるように、言葉を突如述べ始めた。廊下をメイド服のスカートをなびかせる様に歩いてる平良先輩は、一緒に歩いてる俺達の前へと移動すると、後ろ向きで俺達に向き合うように歩き目線を向けてくる。
「あっ、違った、甘ちゃんカプだった」
……甘ちゃんカプってなんだ……。
「平良先輩の方が、可愛いと思いますよ?」
そんな平良先輩に対して明は、そう言い告げていた。
「俺が可愛いのは生まれつき」
明の言葉に平良先輩は、腰元に両手を当てると、誇らしげに言葉を言い切っていた。
取り合えず、後で和に預けとこう。
-2-
体育館に着くと、舞台袖で忙しなく準備を確認している執行部員達がいた。開会セレモニーの時間も迫ってきていて、体育館には徐々に生徒達が集まり出している。駿河学園の文化祭は、一日目の今日、土曜日でも一般客は入場が自由とされていて、開会セレモニーも観る事が出来る。二階観客席にと案内された一般客も、ちらほらと集まっていた。
「明都くんはそういう格好すると、本当、女の子にしか見えないな?」
「うっわぁー! 本当だ」
舞台袖に来た俺を見ては、咲先輩は観察するように目線を頭から足まで流すと、染々とした感じで言ってきていた。
それに反応した牧先輩と尭江先輩にまで、まじまじと観察されてしまった。
「平良はやり過ぎ」
「猫耳は和が付けたんだよ?」
牧先輩が平良先輩を見て言い告げると、平良先輩は和くんに目線を向けると、そう返していた。
「どこで服を調達したんだ?」
「和の妹の服」
「えっ!?」
その光景を見ていた昭二は、何気なしに疑問を口にすると、平良先輩が口角を上げそう口に漏らしていた。
この服、和くんの妹のなんだ?
「どっかで見たと思ったら、和の妹か?」
朋成くんは妙に納得して、俺を見ていた。
平良先輩は、舞台袖に用意されていた、近くに置いてある椅子に座り、俺も座る様に促した。素直に俺も平良先輩の隣に座る。
「せっかくなら、5位まで女装させれば、良かったのに」
咲先輩は尭江先輩をからかう様に言い出しては、尭江先輩の方に目線を送る。5位は尭江先輩だったから。
「ぜってぇ~やだ!!」
「って、断固拒否するから、諦めたよ」
尭江先輩は、拒否を続けて俺と平良先輩だけになったんだ。平良先輩は一日この格好らしいけど……。
俺もいやなのに……。
「時間だ。開会式始めるぞ?」
桃ちゃんの言葉と同時に、牧先輩はマイクを手に持ちステージへと向かって足を踏み出していた。
-3-
「尭江先輩はまだ行かないんだ?」
「…………」
牧先輩がステージで開会の挨拶をしている中、ミスコンの発表のスタンバイをしながら、俺は尭江先輩へとそう声を掛けるが、無言で睨まれてしまった。
「尭江は、自分の順位になってから、ステージに上がる手筈」
出番までまだ時間がある平良先輩は、舞台袖に用意しているミスコン入賞者用のパイプ椅子に座り、そう言葉を投げかけて来ていた。
「上がりたくねー」
開会の挨拶を済ませた牧先輩は、ミスコン発表へと上手く移行させていた。そんな様子を舞台袖から、ステージへと覗き込むように目線を向けながら、尭江先輩は嫌そうに言葉を漏らしていた。
「今からでも間に合うんじゃね?」
舞台袖のカーテンを掴み覗き込んでいる尭江先輩の後ろへと、おもむろに移動した咲先輩は、尭江先輩が掴んでいるカーテンに手を掛けて、カーテンと咲先輩自身で、尭江先輩を包み込むようにしながら言い告げている。
「なにが……でしょうか、咲さん……、で、なんで俺を押さえるんですか」
突如背後に訪れた咲先輩の気配を感じたのか、カーテンに包み込まれた尭江先輩は、身体の向きを咲先輩へと振り向き変えては、若干、尭江先輩より背の高い咲先輩を見上げている。
「女装?」
「しねーって言ってんじゃん!」
「尭江、肌白いしさ……、映えるように真っ赤なワンピースとか……、どうだろう」
「…………、そんな衣装どこにもねーよ、残念でした」
尭江先輩の首元に指を這わせながら、言い告げている咲先輩。咲先輩の表情は、口角を上げ、からかってるのが楽しいっていう顔付きになっている。
「実家になら妹が持ってそうだけど……、尭江先輩にサイズ合わないかもしれない」
カウントダウン式でミスコンの発表が進む中、順番に入賞者をステージへと誘導している和は、二人の会話を聞きながら、目線をそちらへと向けると、そう言葉を発していた。
「ほら! 大道もそう言ってるし!」
和の発言に尭江先輩は、安堵の表情を浮かべると、カーテンを持っている咲先輩の手を、平手で何度も軽く叩きながら言い述べていた。
「メイド服なら生徒会室にあるんだけどね……」
「平良様ーーー!!」
平良先輩が追い打ちの様に言うと、思わずといった調子で発してしまった、尭江先輩の声が体育館に響いていた。
-4-
「舞台袖が大変うるさくて申し訳ありません……」
尭江先輩の声が響いてしまい、ステージに居る牧先輩は舞台袖の方を流し目で視線を向けると、こちらを軽く睨んでいるようだった。
「続きまして、ミスコン第7位の発表になります」
牧先輩の声を聞いて、ようやく尭江先輩を解放した咲先輩は、つまらなそうな表情を浮かべると、舞台袖の壁へと立ったまま寄り掛かって居た。
「後で尭江、牧に怒られそうだな……」
「俺のせいじゃないだろ……」
そんな咲先輩の様子を見て、尭江先輩もステージを覗き込むのを止め、カーテンの傍を離れていた。
「でもさ、尭江……、8とかいいだろ」
おもむろに言い出した咲先輩の言葉を耳にすると、尭江先輩はスタンバイしているミスコン入賞者へと目線を流して確認しているようだった。
「……俺、3かな」
「そんな好みだったのか……、桃ちゃんタイプでは全然違うぞ」
「桃は別」
俺には先輩達が何を言ってるのか判らずに、ただ会話している内容を聞いて居る事しか出来なかった。
「治弥くんと和くんは?」
咲先輩が急に話題を、進行に従って入賞者をステージへと促している治弥と和くんへと、問い掛け始めている。
「……え?」
「2とか言ったら面白くないんですよね……」
問い掛けられた二人は、顔を見合わせている。治弥は目を見開いて、瞼を瞬かせていたが、和くんは冷静に言葉を返していた。
「それはもちろん」
「2以外でって言うなら、7かな」
全く話している内容が理解出来ずに、隣に座っている平良先輩へと目線を向けると、平良先輩は判っているのかただ頷いて笑みを浮かべていた。
「あー、そんな感じする、治弥くんは?」
「…………、1」
「以外」
「可愛い過ぎて、それしか目に入らないんですけど……」
「それじゃ、面白くない」
往生際が悪い様子で治弥が言い出していると、咲先輩はそれを許さないといった感じで、治弥に回答を求めている。
「なら、6」
「うわっ……、らしい!」
ようやく治弥が答えると、尭江先輩と咲先輩はミスコン入賞者の方へと目線を向けてから、同時に声を漏らしていた。
「…………なんの話ですか」
どうも、俺には何の会話なのか理解出来なくて、皆に問い掛けてしまっていた。
「どの子が可愛いかって話」
俺が問い掛けると咲先輩は、なんの悪ブレもなく、平気に俺の問い掛けに答えていた。
「え? 6……?」
俺は咲先輩の返された言葉を聞いて、思わずミスコンで6位に入賞した生徒へと目線を向けてしまっていた。
-5-
咲先輩が答えると明は、目線をミスコン入賞者の方へと向けていた。俺はそんな明の頬を両手で包み込み、自身の方へと目線を変えさせる。
「一番は1だって」
「二番があるんだね」
俺がそう言うと、明は俺を睨みながら言葉を返してくる。うん、拗ねてますね。これは……。
「だってあれは! 咲先輩が選べって言うから」
「治弥くーん、ダメだよ、人のせいにしちゃ」
俺は弁明の言葉を明に対して述べるが、当の事の事態の犯人は、簡単に遮ってくる。
「6位の子……、可愛いね」
だからと言って、咲先輩の相手をしている余裕はない。だって、明が拗ねてるから……。明は俺に頬を撫でられているのを、嫌がる素振りは見せないにしても、表情は不機嫌といってもいいほどのふくれっ面。
「明の方が、断然に可愛い」
「俺は可愛くない」
「明ー……」
「んっ」
頬を包み込み、明の目線に自身の目線を合わせるが、明は目線を伏せて逸らしてしまう。俺は座ってる明を屈みながら抱き締める。
「んんん」
抱きしめると唸り声を上げつつも、明が俺の背中に両手を回してくれたのを感じては安堵した。
「誰よりも明が可愛いって」
「可愛くないの」
俺の胸元へと顔を埋めると、明は小さい声で言葉を言い切って来ていた。
「ヤキモチ可愛い」
「…………うるさい」
明のヤキモチは本当……、可愛くて仕方がない。素直に言葉を漏らすと、明は背中に回してきた両手で、そのまま背中を叩かれてしまった。
「だから、甘ちゃんカプって言ってるのに……」
「お二人さん二人の世界だしな」
そんな俺達を今までただ黙って見ていた平良先輩と咲先輩は、こちらにも聞こえるように言葉を投げ掛けられた。もちろん、今ここが生徒会メンバーとミスコン入賞者がいるという状況だった事に、今の言葉で気が付いた明に、俺は思い切り吹っ飛ばされた。
-6-
皆の前で抱き合ってしまった……、恥ずかしい。
「続きまして、ミスコン5位は……、総票数73票、我が生徒会執行部書記、他生徒に口説かれても冷たくあしらうと噂の高い、ツンデレで有名な2年C組、滝口尭江!」
舞台袖でそんなこんなな出来事をしていると、ミスコンの発表はいつの間にか5位の発表まで進んでいた。
「……ツンデレってなんだ」
「そのままっ」
牧先輩が台本を読みながら紹介した、尭江先輩の紹介文に、紹介された本人は目を瞬かせて溜息交じりに言葉を漏らすと、咲先輩はその反応が面白かったのか、笑いを含みながら尭江先輩に言い告げていた。
「誰考えたんだ……、あれ」
それでも納得がいかないといった様子の尭江先輩は、呆然としたままで言い続けていた。
「尭江先輩、なんでもいいので早くステージ上がって下さい」
「…………はい」
いつまでも動かない尭江先輩に治弥が声を掛けると、 尭江先輩は渋々といった感じで、ステージへと向かい足を進み出した。ステージに尭江先輩が上がると、観客席からは歓声の声が響き渡る。尭江先輩は煩さからか両耳を抑えて、ステージの中央にいる牧先輩の方へと歩いていた。
「……お前ら、うっさいぞ!」
牧先輩の元へと辿り着くと、尭江先輩は用意していたマイクを受け取り、開口一番に発した言葉はそれだった。
「もうちょっと愛想良く出来ないのか、尭江は」
「愛想良くして何か得でもあるのか」
「得しないとやらないのか……、だからツンデレって咲に言われんだぞ」
ステージの上で交わされている会話が、舞台袖のこちらまで届いてくる。
「あの紹介文は咲が考えたのか……」
「ほら、5位になった喜びのコメントを」
「嬉しくもなんともない、俺に投票した奴は素直に申し出ろ、可愛がってやるよ」
二人のやり取りがなんだか面白くて、椅子に座っていた俺は立ち上がり、ステージの方を覗き込んでしまっていた。
「……逆に可愛がられたりしないのか……、祈っといてあげるね」
「はあ!?」
「襲われないように」
尭江先輩が観客席に向かって、コメントらしくないコメントを言うと、牧先輩はそれに対して言葉を交わしてきていた。目を見配らせている尭江先輩の反応もなんだか面白かった。
「…………犯罪は止めて下さい、で、俺このまま司会に入ればいいんだろ?」
脱線しつつあった司会の進行も、うまい具合に戻しているのを見ると、尭江先輩と咲先輩が司会という役目になった理由も納得してしまう。
「そう、次の発表は4位になります」
「ミスコン第4位、総票数86票、軽音部所属のボーカル、その歌声に魅了された生徒も多いはず」
「軽音部の殿と大事にされている、1年D組、殿宮 黄綺(とのみや こうき)くん!」
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「なんだあの漫才……」
ステージで繰り広げられている、牧先輩と尭江先輩の漫才とも言える掛け合いは、観客の生徒達をも巻き込んでいる雰囲気を醸し出している。観客席の方からは、微かに笑っている声も届いてくる。
「同室だからか……、あの二人はああいう掛け合い上手いんだよな」
「だから、司会にしたんですか」
「本当……、無駄に仲良くなりやがって腹立つよね」
咲先輩は、二人の様子を見つつも、そう言葉を漏らしていた。咲先輩が尭江先輩をからかったり、遊んだりするのには、そんな裏の気持ちもあったりするのだろう……。
「殿宮……、出れるか?」
「ありがとう……和、大丈夫」
和は、今紹介された彼に声を掛けると、彼は和に笑みを向けて、頷き答えると促されるようにステージへと足を向けて進みだした。
「和の同室なんだっけ」
ミスコン4位となった彼は、確か和の同室だったはず。それを確認すると、和は頷き答えてきた。
「ん? ああ」
「殿宮くんってなんかあれだな」
彼、殿宮 黄綺くんは、身長もさほど低いわけでもないが、長身というわけでもない。顔立ちは、女の子とまでもいかなく、中性的な顔立ちをしている。ミスコンに入賞するだけはあり、男というよりは確かに可愛い部類には入るのかもしれない。
「……、結構色々あるみたいだからな」
何度か廊下ですれ違った事もあるが、彼の笑みを見た事はない。いつも目線は伏せていて、他人へと目線を向けるという行為は好まないタイプな印象だった。同室の和が言う様に、きっと何かを抱えている……、そんな印象を受ける。
「なんか、影があるな」
「そういうのが溜まらないって奴らの、票数が集まったんだろうな」
俺が彼を見ながら言葉を漏らしていると、咲先輩もそう感じていたのか、同意するように言葉を返してきていた。
明が可愛がって構いたくなるタイプであるなら、彼は守ってあげたくなるタイプ……、そんなところだろう。
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次々とミスコン入賞者の発表は続けられて、俺は徐々に緊張を始めていた。
「次はベスト3に入ります」
「こっからはもう、女ですって言っても疑われないだろうな……」
牧先輩の声の次に、尭江先輩の声が耳に届く。緊張を始めた俺は、ステージを覗き込むのを止めて、椅子へと座り直した。ステージ見てるとなんか緊張感が増えてくる。
「えっと、ミスコン第3位、総票数128票、演劇部所属、文化祭ステージ発表では主演に抜擢されてる演劇部期待の星」
「駿河学園に舞い降りた天使、1年B組、染谷 凜(そめや りん)くん!」
牧先輩と尭江先輩の声が、ミスコン発表の続きを知らせる。
「……天使」
「平良とかなんて言われるんだろうか、気になってきた」
俺は緊張を紛らす為に、視界を天井へと向けていると、紹介文を耳にした治弥の声が耳に届き、治弥へと目線を向けていた。言葉を漏らした治弥に目線を向けた和くんは、継いだように言葉を言い放つ。
「紹介文考えたのって、咲先輩でしたっけ?」
「各所属部の部長から聞き取り調査して、それを軽く纏めた感じかな」
治弥は咲先輩へと、質問を投げかけると、ステージへと目線を向けていた咲先輩は治弥に目線を向け直しては、問い掛けにそう答えていた。
「俺のも考えたんですか?」
その様子を見ていると、なんだか気になって、俺は咲先輩へと問い掛ける。
「明都くんのも考えたよ、バッチリバッチリ」
俺の問い掛けを聞くと、咲先輩は目元を緩め笑みを浮かべながら、そう返された。そのバッチリと言い放つ、自信満々な表情が、逆に自分が何を言われるのか、不安が込み上げてくる。
「……なに言われるんだろう……、俺」
咲先輩が考えるっていう事は、咲先輩からの俺への印象なんだろう……、他人からの印象ってどうなのか気になると同時に、相手があの咲先輩だから、不安な気持ちもあって……、ちょっと怖い。
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「では、次は準ミスですね」
予定通りに順序よく、ミスコンの発表は続けられる。
「準ミスは、総票数164票、なんとミスとの差は1票となりました。我が生徒会執行部副会長、執行部の我が儘猫にして、2年F組の教祖と慕われている」
「これは……、咲捻りすぎ」
台本に書かれている平良先輩の紹介文を、尭江先輩が抑揚を付けて読み上げると、続きを読むはずだった牧先輩の口からは、呆れた様子での言葉が漏れていた。
「……あれ?」
尭江先輩と牧先輩の掛け合いを耳にしながら、舞台袖で俺は平良先輩の姿を目線を走らせ探した。あの人ステージ脇に居ないんです。和に目をやると、目線で観客席の一番後ろ、入り口を示し教えられる。五十嵐は照明係だから、段取りとして入っていたのか、観客席の一番後ろを照らし出す。
「様を付けたくなるな」
「じゃー、様付けで」
またも、尭江先輩と牧先輩は、台本にはないアドリブでの掛け合いを始める。お互いで目線を合わせ、確認し合うと、続きの紹介文を読む手筈の尭江先輩は、大きくを息を吸い込んでいた。
「小悪魔な笑顔に騙されるな、2年F組、奥村平良様!」
尭江先輩が平良先輩の名前を叫ぶように呼ぶと、ライトによって照らされた、観客席の一番後ろ。そこには平良先輩が大きくステージに向かって両手を振っている。その観客席の一番後ろから、歓声の中、体育館の真ん中の観客席で作られた通路を、駆け足でステージに走り出す平良様、……もとい、平良先輩。
何やってんだ、あの人は!?
メイド服を身に纏って、そのスカートは走るスピードにより、ふわふわと風に乗ってなびいている。ステージ前までくると、段差の下からステージに両手を掛けて、そのままの勢いでステージの上へと飛び乗った。
あんた、メイド服着てんだから、ちょっとは汐らしくしろよ!
「はぁあーい! 平良様でぇーす!」
ステージへと飛び乗ると、一旦その場を自身を軸に回転して回ると、尭江先輩からマイクを受け取り、片手を上げて平良先輩は元気良くそう言った。もちろん、アイドル並みの決めポーズは忘れずに……。
あんた……、アホでしょ?
-10-
「………」
なんて言うか……、言葉が出てこない。舞台袖でステージを覗き見る。平良先輩のお陰で、観客席は異様に盛り上がっている。
「では、最後になりましたが、ミス駿河の発表をしたいと思います」
「平良がこの格好なので、勘のいいのは気付いてるかな?」
牧先輩がそう言うと、煩い位の歓声が上がった。その歓声に、更に緊張は増すばかり。
「明? 大丈夫か?」
俺は、無意識に隣に居る治弥の袖を掴んでいた。顔を覗き込まれながら、治弥に問い掛けられ、なんとか無言のままで、俺は首を縦に振り頷いていた。
「今年のミス駿河は、総票数165票、我が生徒会執行部のマスコット的存在」
「いつも振り撒く可愛い笑顔に、ほだされた奴は数知れず、駿河学園のアイドル、1年A組、泉 明都!」
牧先輩に継いで尭江先輩の紹介文が耳に届きながらも、っていうか、なんかすっごい、色々言われてるけど、俺にはそれにツッコミを入れている余裕がなかった。
だって、緊張で足が動かない。治弥の背中に、抱き付き顔を埋める。
「……もしもぉ-し、明都くん?」
いつまでも、俺がステージに上がらないから、牧先輩は急かす様に俺を呼ぶ。呼ばれてるのも耳には届いてるけど、緊張で足が動いてくれない。
「明?」
治弥が心配そうに声を掛けてきながら、抱き付いている俺の手を握り締めてくれる。
「明ちゃぁーん! お・い・で?」
平良先輩も、牧先輩の持ってるマイクを使って呼んでいる。その声も耳には届いてるけど、やっぱり足は動かない。俺は治弥に、更に力を込めて抱き付いてしまっていた。
「花沢……、連れてこい」
今まで黙って様子を伺っていたであろう、尭江先輩の声が最後に響き渡った。
―――――え? えぇぇぇぇ!?
-11-
「!?」
俺は尭江先輩の、ステージから掛けられた言葉に絶句した。この状態で、俺と一緒にステージ上がったら、多分、観客煩いぞ?
ステージにいる平良先輩と牧先輩に視線を向けると、目線で連れてこいと言ってるようだった。
「……、治弥、このままだとステージスケジュール狂ってしまう」
和にも肩を叩かれて、明を運ぶように急かされる。
「あー、もー! しんねーよ俺!」
「は、治弥!?」
俺は背中に抱き付いている明の腕を引き、向かい合わせればそのまま明を横抱きに抱えた。
「恥ずかしいなら、俺に顔を埋めてな?」
「う、ん」
明は、素直に俺の首に腕を回して、顔を肩に埋めてきた。その状態のままで、ステージに向かう。ステージに上がれば歓声と罵声が体育館に響き渡り、その声に耳が痛くなる。
五十嵐!? なんで、照明をピンクにしてんだよ!? 朋成まで音響の曲変えてんじゃねーよ、結婚式でよく使われるとか言われてる、歌手のCD流してるんじゃない!? どいつもこいつもアホか!?
罵声とも言える歓声を受けながら、ステージの中央まで来ると、俺は牧先輩と尭江先輩の間に明を下ろした。明は不安そうに俺を見上げてきたから、頭を撫でてやる。明の頭を撫でると、一段と罵声は大きくなった。それはそれで、若干腹が立つ。
俺の明なんだから、何したっていいじゃないか。俺は観客席を尻目に、明の頬を軽く撫でてから、そのまま頬へとキスをした。おぉー、おぉー、皆さんよく吠える。 明ちゃんに触るなとか、引っ込めとか……、うん、明は俺のですから、何度でも言うけど。
明は俺の行動に驚いたのか、目を見開いてから顔を赤くし、俯いてしまった。
「……花沢、やり過ぎ」
そのまま、抱き締めようと腕を伸ばすと、尭江先輩に腕を抑えられ止められた。
あ、観客の挑発に乗ってしまった。
-12-
恥ずかしい……、こんなに観客がいっぱいいるのに……。尭江先輩の停止が入った治弥は、そのままステージを降りて、舞台袖へと戻って行った。
「泉……、一言いいか?」
「……えっと」
尭江先輩にマイクを向けられて、問い掛けられるが、なんて言っていいのか判らずに、俺は言葉を詰まらせてしまった。
「あーっきちゃーん」
「え、ええ、あ、はい」
急に耳に届いた観客からの声に、俺は思わず返事を返していた。
「明ちゃん親衛隊、もっと盛り上げてー!」
平良先輩は俺が観客に返事を返すと、その様子を見て観客席へと言葉を投げかけている。緊張している俺へのフォローなんだろうけど……、親衛隊ってなに!?!!???
「明ちゃんくるくる回ってー」
それでも、尚も続く観客席からの声。観客席から届いた声に、俺は首を傾げてしまっていた。
「え? 回る?」
「パンツ見たいのか……」
首を傾げていると、尭江先輩は理解しているのか、そう呆れたように言葉を漏らしている。
「そ、そういうこと!?」
「残念ながら、明ちゃんはスパッツ履いてますよ、皆さん」
尭江先輩の言葉に目を見開いて、俺は思わず声に出し驚いていると、平良先輩は笑って答えてくれていた。
「それでも、見たいなら、ほら」
「た、尭江先輩!?」
平良先輩がせっかくフォローの言葉を言ってくれたというのに、尭江先輩は俺のスカートを平然として捲ってくる。俺は思わす、尭江先輩の手を叩いてしまっていた。
「尭江……、バッチリ見えてもダメだろ、萌えるのはチラリズムなんじゃなかったのか」
「じゃ、泉、ジャンプだな」
俺が叩いた手を摩りながらも、尭江先輩は飛び跳ねろと言わんばかりに、手振りでその行動を促してきている。なんで、こんな事になってるの……。
「ええええ」
尭江先輩の無謀な要求に、俺は拒否を続けていると、体育館に響き渡ったブザー音に、誰もが驚いて体育館の音響施設のスピーカーへと目線を向けてしまっていた。
「先輩3人、明で遊ぶな」
ブザー音が響き終わると、いつの間にか音響室へと行っていた治弥の声がスピーカー越しに耳へと届いてきた。
-13-
まったく、あの先輩方は……。
「台本も打ち合わせも、あったもんじゃないね……っ」
ミスコンの発表も優勝の明をステージへと行かせた事により、俺の出番はなくなり、ステージから降りた足で、朋成の居る音響室へと向かった。音響室から向かうと、そこに設置してある窓からはステージの様子は見易くて、先輩達の様子もバッチリと見えてしまっていた。
「朋成、笑いすぎだろ。ここ、凄い見やすいのな」
「平良先輩が走ってくるのも、面白かったよ」
音響室に設置してある窓は、体育館の本日は観客席になっている競技スペースの方向にもあり、そちら側から平良先輩が走ってくるのも見えていたらしい。
「つうか、なんださっきのCDは……、五十嵐も五十嵐で照明変えてんなよ」
俺は明をステージに運んだ時の事を思い出し、朋成へと目線を向け、思わず、さっきの出来事を嘆いてしまっていた。
「平良先輩にさっき渡されてさー、最初から予想してたみたいだね、明都くんが緊張しちゃうの」
「……侮れない」
平良先輩には最初から予測済みだったという事か……、侮れないな。本当、あの人。ステージで未だ明を巻き込み漫才まがいの事をしている先輩達の姿を視界に捉えながら、俺はそう思っていた。
「でも、良かったでしょ? 結婚式みたいで」
「……それは……、まあ」
明が女装をしているのもあったし……、確かに嬉しかったは嬉しかったんだけどな……。あの罵声ともとれる野次がなければな……。
「動画でも、撮っておけば良かったかな」
「うっせ」
そんな俺の考えが、朋成には筒抜けだったのか、朋成ははにかんだ笑みを浮かべると、俺にそう言葉を言い告げてくるもんだから、柄にもなく、照れてしまった俺は、照れ隠しにそう言葉を返してしまった。
-14-
俺達は、ミスコンの結果発表を終え、観客席に用意していた生徒会執行部用の席に座り、各部活の出し物を観賞をしている。
「あっ、さっきの子?」
俺が声を上げると、隣に座る治弥はステージに目を向け確認し、言葉を発する。
「軽音部?」
軽音部? バンド?
ステージでは、ミスコンで4位を飾った殿宮 黄綺くんが、マイクスタンドを設置しながら、ステージの中央に立っていた。
「軽音部、ボーカル決まって良かったよな」
俺達の前に座っている尭江先輩は、話が耳に入ったのか、そう言葉を漏らしていた。
「去年、凄かったもんねぇ?」
それに続けて、尭江先輩の隣に座る平良先輩が口を開く。二人とも目線はステージへと向けながらも、会話に入ってきていた。
去年? なんだろ?
「牧への口説き」
尭江先輩は、平良先輩とは逆の隣に座っている牧先輩へと、目線を向けながら言い告げた。そんな声が届いたのか牧先輩は、余計な事を言うなと言わんばかりの表情を浮かべると、尭江先輩を流し目で睨んでいた。
「牧ってば、入学早々、一緒に軽音部に入部して、ボーカルやってくれって、誘われてたんだよね?」
そんな牧先輩を他所に、平良先輩は笑いながら説明を付け足している。
「見事に、咲に阻止されてたけどな?」
「牧に言い寄りやがって、あいつら。声を聞かせてとか……、アホらしい」
尭江先輩が言うと、咲先輩は思い出したのか、機嫌悪そうに表情を引きつらせると、冷たく言葉を言い切っていた。その時の事を想像すると、軽音部の先輩方が少し可哀想になったのは内緒。
先輩達の会話を聞いていると、ギターの音が体育館に鳴り響いた。それに合わせて、各々の楽器の音が聞こえると歓声が上がる。中央に居る殿宮くんは目を閉じて、軽音部の先輩達の奏でる前奏を聞いている様だった。右手で、スタンドマイクに手をかけると、両目を開けた。
「すごい……」
殿宮くんが歌い始めると、歓声が一気に止んだ。俺は、その声に圧倒されて思わず声を漏らしてしまっていた。殿宮くんの声は、マイクなしでも体育館に響き渡りそうな、透き通った声だった。顔も中性的だけど、声も中性的。高い音程の歌も難なくこなしている。胸に打ち付けられるような声に、聞き惚れてしまった。
-15-
軽音部の発表が終わると、続いて演劇部の発表。うちの演劇部は、コンクールでも上位を狙えるほどの実力派揃い。
「これって……」
「ロミオ&ジュリエット、明、知ってる?」
明はその劇へと目線を向け、言葉を漏らしているから、そんな明に俺は問い掛けていた。今回、そんな演劇部が文化祭で披露するのに選んだのは、定番中の定番、ロミオとジュリエット。
「また、バカにした……、知ってるよ」
「バカにしてないって」
問い掛けると明は、ステージに向けていた目線を俺に変えて、その目線は鋭く睨まれてしまう。バカにしてるわけじゃないんだけどなー……。
「あ、3位の子だ」
「隣のクラスだから、何回か見掛けた事はあったね」
「ジュリエットの衣装似合い過ぎだな、あれ」
ミスコンで3位になった染谷 凜くん、3位になるだけあって、しかもジュリエットの衣装を身に纏っていれば、女だと言っても疑いようが全くない。明が口を開くと、朋成と五十嵐も続いて言葉を繋げるように言い告げては、目線はステージへと向けていた。容姿も女の子みたいな容姿ならば、声も男にしては高い声で、その声はマイクを使用せずとも、体育館へと響き渡る声量。
「俺、この話好き」
「好きそう……」
明は、そうこういう恋愛ものとか感動ものとか、もちろん恐怖系もだけど、好きなんだよな。明が言うと、朋成は予想が付いていたように言い出していた。
「え? なんで」
「タイタニックとかも好きそう」
「うん、好き」
「やっぱり」
驚いて目を瞬かせている明に、五十嵐が言い、それに明が頷き答えると、今度は朋成と五十嵐は同時に言葉を漏らしていた。
「えー……」
同時に二人に言われてしまった明は、二人の顔を交互に見ながら、小さく声を漏らしていた。
-16-
演劇部に発表が終わると、ステージに並べられるパイプ椅子の数々。次のステージ発表の部活は、吹奏楽部。
「そう言えば、明都、スパッツ履いてるって本当?」
始める準備をしているのをただ待っていると、昭二がおもむろに問い掛けてきた。そういえば、ミスコン発表の時に、平良先輩が暴露してたんだった。尭江先輩に、スカートも捲られたけど……。
「ん? うん、トランクス脱いで履かされた」
「え? ノーパン?」
「ちが!?」
俺が昭二の問い掛けに素直に答えると、意外な言葉が戻って来て、俺は慌てて否定の言葉を述べる。そんなわけないじゃん、昭二ばか。
「今の言い方は、そう思っちゃうよな」
それを聞いていた治弥は、笑いながらもそう告げて来ていた。
「スパッツは履いてるから、ノーパンでもないけどね」
朋成くんも笑いながら、治弥の次に言い出している。そういう事にもなるけど……、まずもって、下着履かないわけないって事にはならないの……。
「トランクスだとごわごわするから、ボクサーパンツ履いてるの、ほら」
なんだか、説明するのも面倒になって、俺は言いながら自身の履いているスカートを捲くり、昭二へと見せていた。
「!?」
見せると昭二は目を見開いて驚きの表情を見せるも、捲くったスカートの中に目線は釘付け……。あれ? 俺、おかしい事したかな。
「ちょっ、明!? なんで捲った!?」
その様子を見ていた治弥は慌てた様子で、スカートの裾を掴んでいる俺の手を離させる。
「え? 見せた方が早いかなって思って……」
とりあえずと、スカートの裾を丁寧に直しながら、俺は治弥にそう返していた。だって、なんか説明するの面倒になったんだもん……。
「…………今ので、1ヶ月位はおかずに出来る」
「変態発言、止めなさい」
その後、鼻の筋を指で自ら挟んでいる昭二に対して、呆れた口調の朋成くんの言葉が耳に届いていた。
-17-
「やっと、着替えられるー!」
開会セレモニーの全部の演目が終了して、照明が明るくなった体育館で、明は両手を上げて背伸びをしながら、そう開放感から叫んでいた。
「着替えちゃうんだ?」
そんな明の様子を見ていた尭江先輩は、女装の明を見下ろしながら、そう問い掛けている。
「え? だって、この後、クラスの方の店番当番なんですよ……」
「店番、その格好でやったらいいと思うよ!」
「しませんよ!」
明が言葉を返すと、平良先輩は笑顔で言い出したが、明は全否定。そうだろうな……、あんまり女装すんの好きじゃないからな……、明。でもあの容姿だから、本人の意思は無視されて、中学から良く女装をさせられてるけど……。
「先輩達は、本当、明を可愛がるの好きですよね」
先輩達の様子を見て、俺は思わず言葉を漏らしてしまう。
「一番可愛がるの好きなのは、治弥くん君だけどね」
「可愛がるというよりも、愛でるに近いだろうけどな」
咲、牧先輩は、それに続いて言葉を発してくる。この雰囲気は……、始まるな、いつものパターン。
「和の妹の服だから、汚すような事はしませんからね、先に言いますけど」
二年の先輩達が、ネタにして会話が広がりそうだったので、俺は先に言い告げる。
「うわー……、先に言ったー、面白くなーい」
「スイッチ入りそうな雰囲気だったので」
言い告げると、混ざれなかった平良先輩は、悔しそうにしながら俺に向かって、言葉を投げ掛けてくる。平良先輩は違うけど、この先輩達との付き合いも半年を過ぎようとしているんだ、扱い方は自然に慣れるというものだ。
「別に汚してもいいし、なんならそれ挙げる、妹、着ないやつ寄越したみたいだから」
「……えええ!?」
生徒会用に用意していたパイプ椅子を手に持ち、体育館の所定の位置に片付けようと運び出している中、まさかの和からの許可が下りてしまい、俺は思わず和に向かって声を出してしまっていた。
「楽しみに使っていいぞ」
「え……っと、ありがとうございます」
明があれを着て、ヤらせてくれるとか、確率にして0に近いけど……、たまに明都くん、俺にも予想外の行動をしてくれる時があるから、もしかしたら、本当……、もしかしたらの確率で、そんな展開になるかもしれないその時の為に、あれを貰っておく事に越したことはない……。
「ってやってるとこだけど、張本人は、呆れた顔して、生徒会室に着替えに行ったからね」
「クラスの屋台に先に行っててだってさ」
当の本人も、この話題への対処の仕方を学んでしまっているのか……、そこにはもう明の姿はなくなっていた。
「…………、明都くん!?」
こうして、文化祭一日目の、午前中に行われる開会セレモニーは、無事に幕を閉じる事が出来たのである。
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