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第15話:ミスコンは誰だ!?
今日から新学期、俺はいつものごとく、朝に弱いです。
「あぁーっきぃ?」
うぅー、もうちょっと寝たい。治弥が俺に声を掛けながら、肩を揺らしてきているのは、判ってるんだけど……、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ寝たい。
「明都くん? 起きないとちゅうしちゃうよ?」
「!?」
「やっと起きた」
「~~っ!? 馬鹿治弥ぃー!」
治弥の言葉が眠気ながらも耳に届き、俺は咄嗟に目を開いていた。開いた視界には、治弥が俺の顔を覗き込んでる姿が写る。治弥は俺と目が合うと、目を細めて笑っていた。そんな治弥に軽く睨み付け、俺は悪態の言葉を述べる。ベッドから上半身を起き上がらせると、その視界の片隅には、苦笑いをしている昭二の姿が映った。
「昭二も、治弥を止めてよ!」
「花沢が楽しそうで止められないな?」
どうゆうこと!! 治弥は、ベッドの梯子に足を掛け、ベッドの上で起き上がった俺に目線を向けながら、俺と昭二のやり取りを笑って聞いてる。
「もう、起きるよ」
俺は治弥に目線を向けそう言うと、治弥は俺の頭を撫でながらまた笑った。
「おはよう」
もう……、最近の治弥はいつもニコニコしてる。俺が何を言っても、いつも笑ってくれている。あの実家に帰ってからだけど……。
「おはよう」
治弥に挨拶を返して、俺はベットから起き上がった。
「着替えたいんだけど?」
ベッドを降りて、クローゼットを開け、自身の制服を取り出すと、治弥は笑顔のままでその俺の制服に手を掛けてくる。お互いに制服を手にしたままで、俺は治弥に向けて言葉を言い告げる。
「また、手伝ってあげようか?」
「いいってば、もう!?」
治弥が口角を上げてそう言ってくるから、俺は治弥から自分の制服を奪い返し、そのままの勢いでバスルームへと駆け足に移動した。もちろん、捨て台詞は忘れずに。
「治弥のばーーかっ!」
実家から寮に帰って来てからの、最近の朝は、こんな感じに始まります。
-1-
可愛いなー、もう本当、可愛い。
「顔緩みすぎ」
「しょうがないじゃないか」
始業式も終わり、ホームルームまでの休憩時間。今日は始業式だけで授業もないからか、クラスメイトも晴れ晴れとした表情を浮かべながら雑談に精を出している。最近の明は本当に可愛くて愛しくて、朝の出来事を思い出していたら、いつもの様に朋成に指摘を受けてしまった、俺。
「幸せそうで何よりです」
「幸せですよ、幸せ」
そんな俺の反応を見てか、朋成は可笑しそうに笑いながらも言葉を返してくる。
「ところでさ、あれ書いた?」
「あれ?」
俺の席の机に寄り掛かりながら、朋成は突如問い掛けてくる。朋成が言わんとしている内容の意味が判らずに、俺はそのまま問い返してしまっていた。
「ミスコン投票」
「あー……、どうしよう」
そう言えば、始業式始まる前にプリント配られたっけ……、帰りまでに考えて記入しなくてはいけないんだよな。
「何も考えなければ、明都くんなんだけどなー」
「それ、絶対ダメだからな」
「って言うと思って、まだ白紙」
朋成の言葉に俺は、有無を言わさない勢いで返してしまうと、それを予想していたのか、朋成は白紙の投票用紙を、ひらひらとなびかせながら、俺の視界に入るように見せてくる。
「……って言っても、他に思い付かないんだよな……、朋成って書こうかな」
可愛いと言えば、明しか思い浮かばない俺の頭。他の人を書く宛てもなく……。本当……、誰って書けばいいんだろう。
「なんでだよ!?」
「害がなさそう」
俺がなんとなしに言った発言に朋成は反応を示し、机に寄り掛かって居たのを立ち上がり、俺の机を軽く蹴りながら言い告げてくる。本当、朋成って書いたらなんの害もなさそう……、もちろん、俺に対して。
「明都くんって書こう……」
そんな俺の考えが理解出来てるのか、朋成は俺に暫く目線を向けてくると、俺の筆入れからシャーペンを取り出しては投票用紙に書き込もうとしていた。
「うそ! ごめん、やめて!」
もちろん、全力で止めさせて頂きましたが……。
-2-
「明都は誰って書くんだ?」
席に座り、朝、配られたミスコンの投票用紙に、今書き込もうとしていると、前の席の昭二が後ろを振り向き問い掛けてくる。俺はその声に気付き、投票用紙に向けていた目線を上げた。
「んー……、平良先輩かなー」
「平良先輩か……」
俺の知り合いで可愛いって言ったら、平良先輩が思い浮かんだ。尭江先輩も夏休みの時の合宿で、可愛い一面を目にしたから、どっちか悩んだりはしたんだけど、平良先輩のあの容姿とかを考えると、平良先輩かなとか思ってしまう。
「昭二は?」
昭二もまだ書いてないみたいで、俺の机の上に並ぶ、無記入の二枚の投票用紙。
「思い当たるのが明都しか居ないんだけど、書いたら花沢に恨まれそうだし……」
「恨まれるって……」
問い掛けると、そんな返答が返って来て、俺は思わず呆れた声で述べてしまった。
「俺も宝探し参加出来るなら、間違いなく明都って書いてる」
「えええ!? 他にも居るよ!」
間違いなくって、断言されても……。俺じゃなくたって、この学園には可愛いって思う子は、いくらでも居ると思うけど……。本当……、男子校に不具合な子が廊下を歩いてたりするのが、この駿河学園だし……。
「少なくとも、このクラスの連中は明都って書くだろうな」
「なんでーーー」
それでも、昭二はクラス全体に目線を流しながら、言葉を漏らしてくる。本当……、なんでそうなるのかな……。
「これ、ミスターコンテストだったら花沢一位かな」
「それは……、そんな気がする」
未だに衰えない治弥の人気は、身に染みて判ってるから……、治弥、ヤキモチ妬いちゃうから俺には隠してるけど、告白受けてるの知ってるし。同級生にも、上級生にも、他校の女の子にも、良く声掛けられてるの何回も見てるし、きっと治弥になるだろうな……。昔っから、本当、治弥はモテる。
「なんで、そっちはやらないんだ?」
確かに、どこの学校でも両方やるか、まったくやらないかってののどっちかな気がするけど、この駿河学園はミスのみの、選出が伝統になってるらしい。
「なんか、平良先輩、個人的に人気投票はするって言ってたよ」
「は? 個人的にってなに……」
「さー?」
実家から寮に帰って来た時に、たまたま平良先輩に会って、そんな事を言ってた。俺がそれを昭二に伝えると、昭二は目を瞬かせてそう問い掛けてくるけど、俺はやるってのしか聞いてないから、答えなんて返せるわけもなかった。
-3-
「なに? 人気投票って」
投票用紙を記入して、クラスにひとつずつ用意されている投票箱へと提出してから、朋成と共に明の席へと移動すると、そんな会話が耳に入って来て、俺は思わず明に問い掛けていた。
「あ、治弥……、ミスコンもう書いたの?」
俺の声に気付いた明は、俺を見上げながら問いかけてくる。
「あぁ、まあ……」
「……誰って書いたの?」
「え? 明の名前は書いてないよ」
「ん……」
明の問い掛けに答えると、明は困惑な表情を浮かべると、小さく頷いていた。
「それはそれで複雑って顔してるね」
「…………朋成くん、当てないでよ」
朋成が明の表情を見て、解説するように言葉にすると、明は朋成に目線を向けると、口を尖らせながら言い告げていた。
「書かなくても明だって思ってるよ」
「んんん……、そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
俺が言い聞かせるように言葉を述べると、明は首を左右に振りながら言い返してくる。その意図が理解出来ずに、俺はさらに問い掛けてしまっていた。
「他は誰にするのか、気になるんだよね」
「……うん」
朋成はそんな明に気付いたのか、そう言葉を告げると、明は頷きながら答えていた。なんとそれは……、非常に可愛いじゃないですか……、明都くん。
「……可愛い」
「可愛くない」
思わず言葉を漏らすと、俺は明に目線を向けられながら、否定の言葉を述べられてしまった。
「朋成って書いた」
「え!?」
素直に記入した名前を教えると、明は目を瞬かせながら驚きの表情を浮かべ、朋成へと目線を向けていた。
「……マジで書いたのかよ」
「その手があるか……」
朋成に睨まれたが、それに反応したのは明だけじゃなく、五十嵐も納得したように、投票用紙に書き始めようとしていた。
「ちょ……、止めなさい君たち」
書こうとしていた五十嵐から、手にしていたシャーペンを朋成は奪って、書こうとしているのを止めていた。
-4-
なんとか、ミスコンの投票を終えて、ホームルームも終わり、俺達は生徒会室に向かっていた。始業式が終わったら集まるように、伝言をもらっていたから。
「それで、人気投票ってなに?」
治弥はさっきの人気投票の話が気になっていたのか、歩きながら問いかけてくる。
「平良先輩がね、個人的にやるって、生徒会室の前に回収箱置いてあるらしい」
廊下を歩き生徒会室に向かう為、第一校舎と第二校舎の間にある渡り廊下へと足を踏み入れる。一旦外へと出ると、夏の独特な生暖かい風が頬を掠めてきた。
「あー、それ聞いた。強制ではないから書きたい人に書いてもらうとかって」
俺が聞いた内容の範囲で説明すると、朋成くんもその話を聞いていたのか、説明に補足かのように付け足してくれた。
「あの人……、また何やろうとしてんだよ」
渡り廊下を歩きながら、治弥は溜息交じりにそう言葉を漏らしていた。人気投票が気になった訳じゃなく、いつも突拍子もない事を言い出す、平良先輩のやる事が気になっていたみたいだった。
「ああ、なんかそう言えば箱置いてあったな」
第二校舎に入ると、徐にそれを思い出したのか昭二が言葉を告げてきた。
「去年もやってたらしいよー、奥村先輩に尭江先輩、牧、咲先輩は15位以内に入ってたらしいって、和が言ってた」
第二校舎の廊下を歩きながら、朋成くんが説明してくる。今日は授業もないので、放課後の第二校舎には、部室へと向かう生徒達が行き交っていた。生徒会室は二階にあるから、俺達は渡り廊下からそのまま二階を歩き続ける。渡り廊下の出入り口を真っ直ぐ進み、その突き当りに生徒会室が存在している。
「去年から、生徒会で色々やってるから目立つんだろうな……、あの先輩たち」
朋成くんの説明を聞いて、治弥はそんな事を述べていた。中学の時も平良先輩は、突拍子もない事を言い出す事が多かったが、その突拍子もない事を必ず実行しては、学校のイベントを盛り上げてくれていた。きっと、俺達が入学する去年もそんな感じで、この学園を盛り上げてきているのだろう……、そんな想像が治弥が言うように、俺にも浮かんでしまっていた。
生徒会室の扉が目に映り、なんだか、その扉を見ると先輩達の顔が思い浮かび、俺は去年の先輩達を想像すると、自然と笑みを浮かべてしまっていた。
-5-
「じゃじゃ~ん!!」
生徒会室に着くと、俺達が到着したのが最後だったみたいで、俺達を待っていたかのように、平良先輩は視界に映るように、机の上に二つ折りの無数の紙を散らばらせた。
「全校生徒から集めました!」
「これなに?」
俺は、散らばせられた紙に目線を向けつつも、いつもの席へと腰をおろしながら平良先輩に聞くと、奴はニヤッと口角を上げて笑ってみせる。また、何を企んでるんだこの人は……。
「ミ・ス・コ・ン」
あぁー、さっき書いたやつね。
平良先輩は人差し指を立てて、顔の前で左右に振らせながら言った。ホームルーム終了後、即座に教師陣から、回収をしていたらしい投票用紙。
「開票は生徒会の仕事、早く始めようぜ?」
尭江先輩は机の上に置いてある紙を一枚取り、それを開きつつ面倒そうに言葉を吐き捨てる。
「あっ、泉だ」
尭江先輩は開いた紙の中身を俺の方へと向け、書いてある内容を見せて言い告げてきた。そこには確かに、整った字で“1年A組 泉 明都”と書いてあるのが目に写った。
「結果によっては、宝探しの盛り上がり方が違うからな?」
牧先輩も、紙を一枚手に取りながら、その中身を確認しては言葉を言い告げる。宝探しの賞品が、このミスコンで選ばれた”生徒の口付け”と、合宿の時に決定している。それが誰になるかは、この開票で何が何でも決まってしまう。ミスコンで選ばれた生徒って事は、全校生徒から支持されている証拠でもあるから、妥当な理由ではあるが……。それもこれも、突拍子もない事を言い出す、平良先輩の案。
これは、明が選ばれません様に……、って願うしかないな?
隣の席に着き、一枚ずつ紙を広げている明に、目線を送りながら、俺はそう思わずにはいられなかった。
-6-
「わぁ、平良先輩モテモテ?」
「明ちゃん程ではないよ?」
皆が紙を広げ終わった後、尭江先輩は読み上げられる名前を、ホワイトボードに正の字を書きながら集計を始めていた。平良先輩の名前が数多くて、俺は思わず平良先輩へと尊敬の眼差しを送ってしまっていた。
「本当……、読めば読む程、平良と明都くんばっかだな?」
尭江先輩の隣で名前を読み上げながら、牧先輩は開いた投票用紙を、集計しやすいように重ねていた束を手にして、バサバサと音が発つ様に指で弾かせながらそう同意するように呟いていた。平良先輩の方が多いから……、俺じゃない。
「……でも、これおかしくないか? 牧に一票も入らないって、三年の先輩方に人気っ……!?」
尭江先輩はホワイトボードをペンで軽く叩きながら言い出したが、途中で言葉を詰まらせていた。尭江先輩の目線を辿りながら目線を移すと、その先には咲先輩がちょっと怖い笑顔を浮かべていた。
……咲先輩、何か仕組んだんですか?
「……何をしたんだ? 咲?」
「俺は何もしてないけど? 牧?」
牧先輩の問いに、咲先輩は何食わぬように満面な笑顔を浮かべて答える。その顔を見て、牧先輩は溜め息を漏らしていた。
「……卑怯だ」
そんな様子を見ていた治弥は小さく呟いていたから、俺は顔を覗き込むと苦笑いを浮かべてから、軽く頭を二度叩かれた。俺は治弥の意図することが判らなく、首を傾げてしまっていた。
「これで最後、おっわり」
「あらぁ~、これは」
「まさかの?」
治弥の様子が気になって目線を向けていたが、生徒会執行部の皆が次々と口を開くのが耳に届き、俺はホワイトボードへと目線を移した。
…………あれ?
『同票?』
奇跡的に164票ずつで、俺と平良先輩は同票一位だった。
-7-
同票? マジかよ!? 明と平良先輩が同票!? なにこれ、どういう事……。
「……あ!」
あ?
まさかの同票でその場が騒然としている中、徐に声を上げる人物が一人。その人物は、席から立ち上がり、ホワイトボードに向かって歩いていく。尭江先輩の側まで行くと、無言でペンを受け取っていた。そのまま無言で、ホワイトボードに書き入れる。
「俺、投票するの忘れてた」
「か、和!?」
和は、明の名前の下に並んでいる正の字に、一本付け足し正の字を完成させていた。よって、明は165票、平良先輩は164票で、明がミスコン優勝……決定。
「そんなの有りかよ!?」
「確かに和は、面倒だから投票してないって言ってた……」
不正ではない? と平良先輩は言葉を付け足して、首を軽く捻りながら言い告げる。不正じゃないけど、後から入れるのってどうなんですか!?
「……これが、結果でいいのか?」
尭江先輩はホワイトボードに目線を送りながら、確認するように皆に問い掛けると、生徒会執行部員は頷いている。俺の隣にいる明は、その結果が信じられないのか、目を瞬かせて自分の名前に目線を送っていた。
「じゃ……、泉が賞品で決定な?」
まじかよ……。明が本当にミスコン優勝するなんて……。
「治弥……?」
俺は、目の前の机に頭を伏せて、脱力感から項垂れてしまっていた。そんな俺を見てか、明は俺に声を掛けてくる。明は、本当……、誰にでも懐っこくて、他人に不信感ていうものを持たないから、ほとんどを聞き入れる。そんな性格も、女の子みたいな容姿も……、身長が低いのも、全部可愛い。
「明が可愛いから悪いんだ」
「え!?」
こんなに可愛いからいけないんだ。明の頭を撫でながら、俺は本気でそう思った。
-8-
「いじけてる奴はほっといて、結果発表のプリント作ろう?」
「………」
ミスコンの結果に驚いている場合じゃなかった。治弥が、あれから机に突っ伏したまま動かない。
「治弥?」
治弥の腕を握りながら、顔を覗こうとするけど、腕が邪魔して治弥の顔が見えない。そんなに嫌なんだ? 不謹慎だけど、ちょっと嬉しいかも……。
そんな事を思ってると、治弥は机に顔を伏せたまま、目線を俺に向けた。皆に気づかれないように、俺を指で手招く。なんだろうと思い、顔を近付けると、治弥は一瞬、触れるだけのキスをしてきた。
「~~っ!?」
皆は、結果をどう発表するかで口論中、俺達には気付いてない様子。だからって……、誰かに見られたら、恥ずかしいじゃん!?
「……明に誰かが触れるなんて、想像つかない」
治弥は小声で、俺にだけ聞こえるように言葉を発する。そんな事を言われても……、俺だって矢駄よ。治弥以外とキスするなんて……。治弥としか、キスした事ないのに……。
「俺も……、やだよ、治弥以外となんて……」
「んー……」
俺がそう言い返すと、治弥は目線を泳がせて何か考えているようだった。
「先輩! 宝探しのトラップ、俺、考えても良いですか?」
治弥は急に顔を上げ、立ち上がると、結果発表の口論をしていた先輩達にそんな事を言い出した。皆治弥に視線を集中させている。治弥の問い掛けに、顔を見合わせた先輩達は、暫くしてから親指を立ててこちらに向け、OKの合図を出す。
「断然に面白くしてよ!」
平良先輩がそう告げると、治弥は自身の強く拳を握って、ガッツポーズをして見せていた。
「誰も宝を見付けられなくしてやる」
先輩達から許可をもらい、安堵の表情を浮かべながら席に座り直すと、治弥はそう小さく独り言のように言葉を漏らした。生徒会役員は参加出来ないから、出来る限りの邪魔をするという事かな?
-9-
絶対に、阻止してやるっ!?
「治弥?」
皆が結果発表等を考えてる中、俺は一人宝探しのトラップを考え、ノートにペンを走らせていると、明は隣に座り顔を覗き込んでくる。そんな明に目線を向けると、明は俺の目を離さずにずっと見て来ていた。
「俺が参加出来ればいいんだけどな?」
「???」
俺は明の頭を撫でながら、そう言うと明は不安そうに首を傾げてくる。参加して、勝てる自信はある。参加出来ないってのが、一番もどかしい。再びノートに目線を戻し、トラップの内容に頭を巡らせる。
「開会式で発表しよう!」
目線を落としていると、突如、平良先輩の声が間近に聞こえて来て、俺は顔を上げていた。顔を上げると机を挟んで目の前に平良先輩が立っていて、俺に声を掛けていたらしい。
「は? 何が?」
「ミスコン優勝に決まってんじゃん!」
俺が問い掛けると平良先輩は、さも当たり前かのように言い切ってきていた。今はミスコン優勝とかって、言葉は耳にしたくない。俺は深く溜め息を吐き、平良先輩へと目線を流していた。
「あぁー! また、そういう顔で俺を見る!」
平良先輩は俺の前の机に正座をしたかと思ったら、おもむろに俺の両頬を掴み、捻るとそのまま引っ張り出した。
「いって!? 何してんだよ!」
「治弥が面白くないって顔をしてると、明ちゃんが暗くなるんだって!」
平良先輩にそう言われて、明を見ると明は眉を下げながら、俺の顔色を伺うように視線を送ってきていた。明と目線が絡み合い、俺は明に向けて頬を緩ませ笑みを見せると、花がパァーっと咲いた笑顔を見せてくれた。あぁ、可愛い。
「治弥?」
「ん? なに?」
明は俺の腕に手を掛けたかと思うと、俯いて俺の名を呼ぶ。俺はそれに返事を返すように問い掛ける。
「俺、大丈夫だって? 頑張るから」
明は、小さくそう言葉にしていた。いや、明が頑張っても、どうにかなる問題じゃないんだけど……。
-10-
次の日の朝になっても、治弥の様子は変わらなかった。食堂で朝食をしていても、テンションの低い治弥は、無言のまま朝食を口に運んでいた。
「まだ、機嫌悪いの?」
俺がそう問い掛けると、治弥はおかずである厚焼き玉子に箸を刺しては、目線を俺に向けてくる。
「……明の注目度を侮っていた」
「注目度?」
「可愛さを侮っていた」
「……朋成くん、治弥がおかしくなった」
治弥と会話を続けていると、頭が可笑しくなりそうで、俺は助けを求めるように、向かいに座っている朋成くんへと、目線を向け言葉を言い告げていた。
「大丈夫……、昨日の生徒会の集まり終わってから、ずっとこれだから」
「……不憫だなー」
苦笑いの表情を浮かべ、左右に首を振りながら朋成くんは、そう言葉を返してきていた。そんな様子を見ていた昭二は、他人事のように朝食を口に運びながら、言葉を漏らしていた。
「暗号とかさ……、すっげー難しいの考えてやる」
朝食を食べ終わった治弥は、その食器を横にずらしてテーブルの上を整理すると、スマホをポケットから取り出すと操作しながらそう呟いていた。隣に居る治弥の手元を覗き込むと、スマホに文字を打ち込んでいた。
「手伝う?」
「あ、和」
突然声を掛けられて、顔を上げ振り向くと後ろには和くんが立っていた。和くんはそのまま、近くの開いてる席の椅子を持ってきて、俺達の居るテーブルへと座った。
「ここのカップルには、俺、毎回いいようにされてる気がする」
そんな和くんに治弥は冷たい目線を向けて、言葉を投げかけている。
「悪かったよ……、平良とかノリノリでやりそうだったから……さ」
和くんは片手を顔の前に立てては、治弥に謝罪の言葉を述べながら、言葉を付け足していた。
「……ノリノリでやるだろうな……」
「だろ?」
和くんの言葉に想像が付いたのか、治弥は暫く無言になると、同意するように深く頷き返していた。
「せめて、違う人に入れてあげれば良かったのに」
「朋成とか?」
朋成くんが和くんに言い告げると、戻って来た和くんの返事には、驚いたように目を見開いて、目線を送っていた。
「……なんで、皆、俺って言うんだよ……」
呆れた表情で溜息交じりに、朋成くんは言葉を吐き捨てる。
「だって、俺の初恋だし」
「ええええ!?」
さらに続けた和くんの言葉には、俺も治弥も、昭二でさえ、驚いて声に出してしまっていた。
「…………は?」
該当の本人も、目を瞬かせて驚きの表情を浮かべているが、言った本人は満足気に笑みを浮かべていた。びっくりした新事実……。
-11-
「和の初恋っ」
「笑うな……」
俺は思わず、朝の事を思い出しては、出てきてしまう笑いに堪えているのに必死だったが、そんなのも朋成にはバレているようで、軽く睨まれてしまった。
「そうだ、和に失礼だろ」
「それもなんか違う」
「いや、だってさ」
放課後、文化祭も近い為、これから生徒会活動は、毎日のように行われる。文化祭の開会式セレモニーの生徒会枠、ミスコン発表の段取りを体育館でしていた。
「朋成くん知らなかったの?」
「初耳だよ」
「結構アプローチしてたんだけどなー」
「それも初耳」
話題はやっぱり、朝の和の初恋の相手が朋成だったという事。
「こいつ、根っからのノンケだから、ダチとしての感情でしか受け取って貰えなかったんだよ」
「他人の事は鋭いくせに、自分の事は無頓着なのか……」
話題の中心的人物、朋成を囲んでは俺達は会話を進めている。主に、俺と和と朋成だったが……。
「朋成はそうだなー」
「……うるさいな」
体育館の中では、忙しくなく、生徒会執行部のメンバーは段取りの打ち合わせをしている。
「平良の事好きになった時は、速攻気付くから驚いた」
「あれは、判りすぎ」
「5人でなに話してるのー? ほら! 自分達の役割分担に戻って!」
そんな会話をしていると、平良先輩は俺達の元へと駆け寄って来た。そんな平良先輩に俺達は目線を向け、集中させてしまっていた。現恋人の初恋は、恋人の現友達である朋成。という複雑な関係性。知らぬが仏だな……。
「な、なに?」
和は、平良先輩の頭を軽く触り、立ち位置へと向かって行くと、その後を昭二は無言で平良先輩の頭を何度か撫でてから立ち位置へと向かって行った。明は平良先輩に笑みを向け一礼をしてから、立ち位置に向かう。
「な、なんなんだ!?」
何が起こってるのか判らないといった様子の平良先輩は、撫でられた自身の頭を抑えながら叫んでいた。
「なんか……奥村先輩、すみません」
「ええええ!? なに!?」
朋成は朋成で、平良先輩に突如、謝罪の言葉を述べると、そのまま立ち去って行く。
「平良先輩も色々あるんだな」
「…………なんなんだよーー!!!」
残された俺は、平良先輩に目線を向けたままで、そう言葉を漏らしてしまっていた。
-12-
「明ちゃんは、最後だから舞台袖で待ってて」
「俺……、何もしなくていいんですか?」
ステージの舞台袖で、俺は平良先輩にそう言い告げられては、手持ち無沙汰になってしまう。
「発表する前にバレないようにしないと」
「……判りそうだけどな……、照明組は昭二くんリーダーで合図しながらやって」
「へーい」
牧先輩が昭二に指示すると、昭二は照明器具がある場所へと移動していった。
「司会は牧と尭江でいいのか?」
「俺も照明やりたい、司会やりたくない」
「尭江、そういうの上手いから司会」
「上手くねーし」
確認するように咲先輩が言うと、尭江先輩は嫌そうな表情を浮かべたままで答えていたが、牧先輩にまで言い告げられてしまう。
「観客黙らせられるの尭江くらいだろ」
それでも言い返している尭江先輩に、咲先輩は付け足すように言葉を発していた。
「音響は、朋成くんリーダーね」
「はい」
役割分担を確認するように平良先輩が言うと、朋成くんは頷いて答えてから、音響室へと移動していった。音響室は舞台袖の端に二階観客室へと通じる階段があり、その途中に音響室が設置してある。
「治弥くんと和くんは、ミスコン入賞者の誘導で」
「ステージに出るタイミングの、合図とかでいいんですよね?」
ミスコン入賞者のメンバーが書いてあるプリントを手に持つ治弥は、それに目線を落としながら問いかけていた。
「本人確認もね、呼んでたから、もう少ししたら集まると思うから確認しといてね」
「……10位からやるんだ」
牧先輩が言い告げると、和くんは、治弥が持っているプリントと、同じ内容のプリントを持っていて、それに目を通しながら言い出していた。
「そのうち生徒会執行部員、三人上位」
「聞きたくない」
治弥がメンバーの確認をしていると、おもむろに言い出していたが、その言葉に反応を示したのは、尭江先輩だった。尭江先輩は両耳を手で塞いで、目を瞑りながら言い出していた。
-13-
執行部って学園の中心的存在だから目立つんだろうなー……、入らなきゃ良かった。入らなきゃ、明がミスコン優勝とかしなかったんじゃないだろうか……。
「治弥? 何してるの?」
開会式セレモニーの立ち位置確認と段取りの打ち合わせも一通りに終わり、今は照明器具や音響設備の確認をしている中、関係のない俺は二階観客席でその天井を見上げていた。体育館の競技スペースとはまた違い、観客席の天井は若干低く出来ている。
「んー? 暗号隠すのに、いい場所ないかなって思って」
「隠すんだ……」
明もやる事がないのか、俺に着いてきては、二階観客席に来ていたが、俺の行動が何か判らずに問い掛けて来ていた。それに答えると、明は驚いたように言葉を漏らしていた。
「辿っていってもらって、最終場所で宝物探してもらう」
「何ヵ所?」
明にも判るように宝探しの簡単な詳細を説明すると、明は理解出来たのか問いかけて来ていた。
「4……、5、んー……、6ヵ所が妥当かな、制限時間3時間だし」
「6ヶ所も回るの!?」
「移動時間平均5分として、暗号解く時間が15分、トラップ回避する時間が10分……、最終場所まで辿り着けたとして宝探す時間は与えない」
三時間という制限時間を考えれば、6ヵ所が妥当だろう。宝を探せなくする為に多くするのは簡単だが、それでは先輩達からの許可がもらえない。
「…………????」
「明都くんが着いていけてないよ、治弥」
「え?」
頭の中で考えていた事を口にしていたが、いつの間にか来ていた朋成に明の状況を言われて、俺は漸く明の困惑していた表情に気付いた。
「時間の計算出来なかったんじゃないか?」
「昭二、うるさい」
いつの間にか、一旦休憩となっていたらしく、五十嵐までも2階観客席に来ていて、会話を聞いていたみたいで、言い告げた五十嵐に、明は睨みながら言い返していた。
-14-
「んー……」
「んーー?」
今日の生徒会の活動も終了して、俺と治弥は図書室へと来ていた。図書室の設置されている席に座り、テーブルの上には色んな本が並べられている。ノートに向かいながら治弥は唸り声を上げるから、俺は治弥の顔を覗き込み問い掛けていた。
「いや」
「???」
傍に置いてある本に手を伸ばしては、治弥はその本を開きながら短く返事を返してきた。
「考えれば考えるほど難易度を高く出来るから、じっくり考えてる」
「あんまり難しいと、宝探しの意味なくなるんじゃないの?」
俺は治弥の隣の席に座り、一緒にその本を覗き込みながら言い告げていた。
「……その宝はなんだと思ってるんですか、明都くん」
「……あ」
俺が言うと、治弥は本から目線を俺に変え、言葉を漏らしてきた。俺はその言葉を耳にして、事の経緯を思い出し、思わず声を漏らしてしまった。
「ま、楽しんで貰えるようには考えるけどな……、文化祭だし、でも絶対最後までは辿り着けなくする。それくらいいいだろ?」
俺の声を聞いては、治弥は目元を緩めて、俺の頭を撫でながら言い聞かせるように、言葉を繋げていた。
「……うん」
「絶対……、触らせたくない」
治弥は椅子に座り直すと、俺の方へと向きを変え、そのままきつく俺を抱き締めてきた。
「うん」
俺はそんな治弥の背中に腕を回し、身を任せるように寄り掛かった。
「俺の宝物なんだから、明は」
「……うん」
髪の毛を弄るように頭を撫でられ、俺はその大切そうに撫でる治弥の手付きに、心底、安堵感を抱いていた。心地よく安心する、治弥の暖かい手の温もり。
「もう……ほんと、平良先輩、恨む」
「はははっ」
さらにきつく抱きしめられると、治弥の言葉が耳に届いて、俺は思わず笑ってしまった。
-15-
「……何してるの……、二人して」
「わあ!? 朋成くん!?」
突如、朋成の声が聞こえてきて、ノートに書いているシャーペンへと目線を向けていたが、俺は顔を上げ確認すると、そこには朋成がテーブルを挟んで向かいに立っては、俺達を見下ろしていた。
「ちょっと、暗号を作ってた」
「あ、そうなんだ……」
慌てている明を他所にそう返答すると、朋成も気にした様子もなく、言葉を返してきながら、そのまま向かいの席へと腰を降ろした。
「え!? 朋成くん納得しちゃうの!? 治弥! 離してよ!」
そんな様子の朋成に、明は慌てた様子で、俺から離れようと身を捩らせている。そう、明は俺に甘えるように同じ椅子に座り、座るというか足の間に居て座っていた。俺は椅子に深く座り、明はその同じ椅子に浅く座っている。明を包み込むようにしながら、俺はテーブルの上に置いてあるノートへと、シャーペンを走らせていた。
「やーだ」
身を捩らせている明を他所に、俺はそう言い告げながら、離すつもりはない。
「うーーー」
「ずっとこうやって囲ってて居たいな……、誰にも触れさせずに……」
「……うっ」
わざとらしく、唸り声を上げる明に、俺は明の腹辺りに手を回しては、抱きしめながら言い告げると、言い返せないのか言葉を詰まらせていた。
「文化祭終わるまでは、こんな感じになっちゃいそうだね」
「……恥ずかしい」
朋成は、俺達の様子を見て、含み笑いを我慢しているようにしながらも、そう言い告げて来ていた。
目の前にある明の後頭部。後ろから明の顔を覗き込むと、恥ずかしいのか頬は若干火照らせていて、覗き込む俺へと目線を向けて来ていた。俺と目が合うと、明は離れようとするのを諦めたのか、俺の胸にそのまま寄り掛かってきて、明の重みが伝わって来た。
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ノートに書かれている字を俺は、目で追いかける。治弥が書いてる字は、俺には理解が出来ない字。字というか、文章というか、数字というか、ローマ字というか、とにかく全部が理解出来ない。
「…………」
「どうした?」
俺が黙ってそれを見ているからか、治弥に問い掛けられ、後ろの治弥に目線を向ける。
「治弥の書いてるやつが、全然判らなくて」
「暗号だからな……」
もう一度、並べられている字へと目線を下ろすが、やっぱり意味が判らない。
「んー……、判んない」
「ははっ……、でもこれじゃ、判る奴には判るんだよなー」
「俺、全然判んないのに」
治弥はその中の一つをシャーペンで丸く囲みながら、納得していない様子で言い切っていたが、その丸で囲んだローマ字も俺には理解が出来なかった。
「…………科学室?」
そんな様子を見ていた朋成くんは、ノートへと一緒に覗き込むと、暫く考えていたかと思えば、疑問符を付けながらもそう言い告げてきた。
「やっぱり判るか」
「なんで判ったの!?」
その答えが当たっていたみたいで、治弥はその暗号ともとれるローマ字の羅列を、シャーペンで二重線を引いていた。
「携帯のキーボタン?」
「そう、それ」
「????」
もう、まったく二人が言ってる意味が判らない。
「ほら、明都くん、キーボタンを平仮名打ちにしたまま“AACEI”って打ってみて」
朋成くんは俺の目の前に自身のスマホを置き、メールの新規作成画面を開いてくれる。言われた通りに一つ一つ丁寧に打ち込む。
「…………、あ、かかくしつになった」
画面の文字は”かかくしつ”と打たれていて、俺はそのまま復唱するように声に出していた。
「濁点付けたら科学室ってね」
「へー……、これで簡単なの……」
全然、思い付かなかった。これで簡単と言い切る二人が、凄いだけとかじゃないのかな……、とか淡い期待を抱いてみるけど、俺、頭硬いのかな……。
「明には難しいだろうけどね」
「バカにしたでしょ」
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「してないよ」
「した……」
明には判らないのは仕方がないって意味で言ったのだが、明には通じず。そんなところも可愛いって思っているから、どうも頬の緩みは収まらない。俺の足の間に居ながら椅子に座り、そんな状況でも明はムキになって、俺に悪態を付いてくる。
「してないって」
「絶対した」
この堂々巡りの言い合いはどうしたらいいのだろうか……。朋成はもうそんな様子の俺らが面白いのか、傍観者を決め込んで、本に目線を向けたままで、笑いを堪えている。
「……明、可愛い」
「はぐらかさないで!!」
だって、可愛いものは可愛い。
「…………ところで、君ら二人は、いつまでそうやってるつもりなんだ」
言い合いをしている間に、五十嵐も図書室に来ていて、俺らの様子をただ見ていたが、どうも気になってしまっていたのか、漸く口を開いてきた。
「……!?」
「せっかく、明忘れてて、自然にしてたのに思い出させんなよ」
でも明は今の俺達の状況を忘れていたようで、五十嵐の言葉で思い出したのか、目を見開いて周りを見渡し始めていた。
「もう降りるーーー!!」
「だめ、もうちょっと」
「うううう!!!」
椅子から立ち上がろうとする明を、俺は腹に腕を回して抱き締め、もちろんだけど、俺は離れようとする明の行動を阻止していた。
誰にも触れさせたくない、明は俺だけの宝物だから。
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