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エルネストとリヒャルトは並んで、山の中腹から轟轟と火を上げる倉庫と工場を見下ろしていた。すべての部隊からは撤収完了の報告を受けている。怪我人が少数出てしまったが、命に別状はないらしい。
「まったく、あなたという人は。やはり、甘い」
リヒャルトが呆れ顔で言った。その白い頬は炎に照らされている。
「まさか、自分の命を狙った奴らを逃がすなんて」
エルネストは鼻で笑った。
「あいつらは金に目が眩んだだけのただの善人だ。……俺は、そう信じている」
「エルネスト……」
「それよりおまえ、脚の具合はいいのか」
「え、ええ、これくらいの怪我、ゴダール青年団では日常茶飯事でした。杖は奴らの油断を招くための偽装です」
そこまで言って、リヒャルトは躊躇いがちに俯いた。
「エルネスト、私は……ゴダールの元で、人を殺すための様々な訓練を受けてきました」
思い詰めた表情でエルネストを見つめる。
「それでも……それでも、私はあなたの傍に、太陽の国に、居てもいいですか……?」
エルネストはその肩を抱き寄せた。
「おまえの腕があればもっと早くにあいつらを始末することもできたはずだ。だが、おまえはしなかった」
言いながら、その碧い瞳を覗き込む。もう冷たい色など見えはしない。
「おまえは、俺に委ねた」
「……ええ」
リヒャルトは辛そうに眉を顰める。
「あなたの大切な人たちを、私も最後まで、信じたかったのです……」
エルネストは夜空を振り仰いだ。
「おまえのその技術は、これから、人を助ける術に変わる」
「エルネスト……」
リヒャルトの瞳が潤んだ。
「好きです、あなたが好きです、エルネスト。どうしようもなく」
雪片が舞い下りてきた。この冬最後の雪だと、エルネストは思った。
「ああ、俺もだ」
そう応えて、金色の髪に唇を押し当てる。
「『俺たちの国』はまだ、始まったばかりだ」
***終わり
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