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第1話 ブルーサファイア・ミカエル
『優しい悪魔』と言われる『セーレ』
ソロモン72柱の悪魔の一人。醜い姿が多い悪魔達とは違い美しい青年の姿をしている。
その姿のせいか、優しい性質を持ち、召喚者の望みをなんでも叶えてくれるという噂が広がり迷惑している。
『優しい悪魔』という触れ込みに惹かれ、リスクを負わずに望みを叶えて貰おうとする浅ましく愚かな人間達に召喚される。
緩く波打つ黒髪、額から生える大きく捻じれた山羊角、ややつり上がった目には獣の光彩を放つ金の瞳、悪魔としては物憂げで優し気な雰囲気で召喚者の前に立つ。
誤解されたまま召喚される事は不本意で、不機嫌で倦怠感が隠せない。
面倒極まりなく馬鹿馬鹿しいけど端正な口元から獣の牙を覗かせて、召喚者に決まった口上を言う。
「神様は願い事を聞くだけで何もしてくれないけど、悪魔は対価を払えば願いを叶えてくれるのよ。」
彼の望む対価を払える者に願いの成就は約束される。
ただ、それは召喚時の彼のご機嫌にもよる。
――――――――――――
-王都イルハン シュミット伯爵の邸宅-
「おい!話がちがうぞ!優しい悪魔なんだろ!セーレはっ!」
アタシを召喚した魔導士とその雇用主がモメている。
召喚されたのは豪奢に華麗に飾りつけられた部屋。贅をつくしたもてなしを受けるも、寝起きで召喚されたアタシはすこぶる機嫌が悪い。さっさと帰ってもうひと眠りしたい。
まあ他の乱暴で醜い悪魔に比べれば優しくてすっごい綺麗な方だけどアタシは普通に悪魔なのよ。
優しいを前提で呼ばない欲しいわ。すっごい迷惑。
「もう一度言うわ。対価はアンタの一番大切なものを頂戴。体の一部でもいいわ。目とか腕とか足とか。」
どこぞの富豪か貴族と見える醜い豚が震えあがっている。
その姿が哀れで滑稽。ちょっと面白くなってきた。
「神様は願い事を聞くだけで何もしてくれないけど、悪魔は対価を払えば願いを叶えてくれるのよ。今すぐ、目をくり抜くとか腕とか足とかを切り落としてくれたら、どんな願いでも叶えるわ。簡単でしょ。すぐ出来ることよ。」
「ヒぃぃっ!それだけはご勘弁を!」
(覚悟が足らねぇ豚だな。安いもんだろうに。)
「じゃあアンタの奥方とか子供のでもいいわ。」
「ヒぃぃっ!それもどうかどうかご勘弁を!」
深紅の絨毯に汚い額を擦り付けていた豚が思いついたように顔を上げ隣の魔導士を掴む。
「貴方様をお呼びしたこの者をお好きになさって下さい。」
悲鳴を上げる魔導士を差し出そうとする姿が醜すぎてすっかり興ざめ。
「そんなおっさん要らないわよ。帰るわ。覚悟が出来たら呼んで。」
帰ろうと立ち上がったら豚が食い下がって来た。
「私には、まだ大切な物がたくさんあります。どうぞそれをご覧になってからご一考を。私の宝石達を呼びなさい。」
後ろに控えていた従者達が連れて来たのは12歳前後の美しい少女達。宝石と呼ぶだけあって皆美しい瞳をしている。
まあこの醜い豚の愛玩動物なんだけどね。早く帰りたいから妥協することにした。
「じゃあアンタの一番大切な子をいただくわ。誰?」
「イブニングエメラルド・レリエルはいかかでしょうか。」
差し出された明るい緑の瞳が美しい少女は恐怖で泣き出している。
大泣きしている子をどうこうするのは全然楽しくないのよね。
10人はいる少女の中で目立たないところに立されている子がいて、この豚の一番のお気に入りと直感したの。
この子がいいわと指さすと豚が取り乱してきた。
「ブルーサファイア・ミカエルはご勘弁を。」
(悪魔呼び出す男が天使の名前使うんじゃないわよ。)
「いいじゃない。碧い瞳がきれいよ。」
「この子はダメです。愛想が全然ありません。面白くもなんともありません。」
「アタシむっつりした子好きよ。いい加減にして帰るわよ。」
犠牲を払わずに望みを叶えようなんて本当に醜い豚だわ。
「アナタも災難ね。」
二人きりになった部屋で白いドレスを着た少女が深紅の絨毯に膝まづく。
さて豚を困らせたくて選んだこの子。どうしようかしら。
すっごく面倒だけど、あの豚に悪魔との契約の愚かさを分からせなきゃね。
あの豚が一番拘っているのは瞳。まあ、瞳なんてもらっても意味ないんだけど。
「瞳を頂戴。」
少女にナイフを渡して椅子に座った。
まあ、どうせ出来やしないわ。
いくら飼われているからってそこまで義理立てする必要もないし。
泣いて許しを請う姿を眺めてから帰ろうかしら。
「ふふ。出来ないでしょ。怖いよね。泣いたら・・・」
白いドレスに血が飛び散った。
少女が刺さったナイフを動かそうとした所で手を掴んだ。
「ちょっとあんな豚の為に覚悟ありすぎよアンタ。」
「抗わないだけ。欲しいんだろ瞳。あげる。」
痛いだろうにまた手をを動かそうとするから止めた。
「いらないわよ。食べても美味しくないのよ。」
なんで手を掴んでしまったのかは分からない。
助けたかった訳でもない。
醜い人間が多すぎて、そんな醜い人間に手を貸す自分が嫌だったから?
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