1 / 75

第一章 お兄さん、悪い人でしょ?

 薄明るい照明の下、相良 丈士(さがら じょうじ)はオンザロックのウイスキーを飲み干した。  軽やかなジャズのピアノが流れる中、丈士はグラスの中を見つめる。  考えるのは、今日大学の講義をずる休みした罪悪感などではなく、この残った氷を口に含むかどうか、だった。  そこへ、新しい酒が丈士の前に差し出された。  顔を上げると、見慣れたマスターが微笑んでいる。 「あちらのお客様からです」  マスターの見る方へ目を向けると、小柄な少年が手を振っていた。 「いいの? 未成年じゃない?」 「一応、成人しておいでです」  丈士がウイスキーのグラスを手に取ると、それを合図に少年はカウンターの端からこちらへ席を移って来た。 「飲んで飲んで。僕からの、奢り」  やたら人懐っこい笑顔だ。  栗色の髪は、ナチュラルツーブロックマッシュ。  色白の肌に、くるくるとした瞳。  なだらかな鼻梁の下には、形のいい唇が。  ふるいつきたくなるような、美少年だ。

ともだちにシェアしよう!