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第九章・10
丈士の腕枕でまどろみながら、七瀬は寝物語を楽しんだ。
朝ご飯、僕が作ってあげる。
本当? 嬉しいね。
好き嫌いはある?
無いよ。七瀬の作ったものなら、何でも食べるよ。
丈士さんが大学に行ってる間、僕は何をして待っていようかな。
淋しい? ネコでも飼おうか。
「丈士さん、大学出た後はどうするの? 就職?」
「そうだな。できれば……」
ふと、丈士は物思いに耽った。
以前なら、ヤクザになりたかった。
どうせ生きるなら、大きく生きたかった。
莫大な資産を得て、思うがままに生きたかった。
だが、今は違う。
何より心地よい幸せを、安らぎを覚えていた。
「できれば、就職して、働いて、サラリーを貰って」
「普通だねぇ」
「そんなこと、ないさ。傍に七瀬がいてくれれば、人生バラ色なんだから」
「そ、そんなこと言っても、何にも出ないんだからね?」
照れる七瀬をそっと抱き寄せ、丈士ははっきり口にした。
「愛してるよ、七瀬」
「僕も、丈士さんのこと大好き」
悪から離れた二人は、人として歩み始めた。
普通の暮らし。
だがそれは、かけがえのない宝物だった。
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