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第1話 とりあえず出会いから -1

 入学式というのは基本的に詰らないものなんだろうけど、この学校の場合はそんな簡単な表現じゃ追いつかないくらいに辛い。  男子校だっていうのは承知で入学した訳だから、ある程度は予想していたとは言え、体育館に男がぎっしりって状況はちょっといただけない。  新入生だけで約二百人。それに加えて、在校生代表に教師にナントカって役員に保護者。  一応換気はしているみたいだけど、全く追いついていない。  空気が澱んでくのが分かるんだよ。  慣れないネクタイが息苦しさに拍車をかけている。  小一時間くらいの式だったけど、その何倍にも感じて、終った頃にはすっかりグッタリしていた。  式が終わり、教室に移動する為に体育館から出たら、外の空気がおいしくて、中がどれだけ澱んでいたのかが分かる。  酸素って大切だ。  制服のネクタイを少し緩めて、ハタハタと手で首筋を扇ぐ。 「……っかれたぁ」  無意識に呟いていた独り言は、はらはらと舞う桜の花びら同様、風に吹かれてどこかへ飛んでいってしまう筈だった。 「オレも疲れた」  隣を歩いていたヤツに予想外に拾われて、オレは今まで気にもとめてなかったそいつを見た。  で、固まった。  と言うのも、今まで気づかなかったのが不思議なくらい可愛い顔をしていたから。  低いと気にしているオレよりも身長低くて、色白で、華奢で、髪サラサラで、邪魔なんじゃないかというくらいに長い睫毛の、絵に描いたような美少年。  制服を着ていなかったら、確実に女の子だと思い込んでいたに違いない。  しかし大丈夫なのか?  こんな、いかにも「可愛い美少年」がこんな男子校なんかに入っちゃって、本当に大丈夫なのか?  だって、男になんか全然興味ないオレですら固まっちゃうような美少年だよ。  教師も含めて女なんてほぼ皆無なこの学校で、まともな学園生活が送れるのだろうか。  そんな事をオレが心配してもしょうがないんだけど、せずにはいられない。  その美少年とは同じクラスだった。  出席番号順に座らされて、オレの右隣りが美少年の席。 「オレ、藤堂(とうどう)。よろしくな」  へらりと笑ってよろしくされてしまった。  なかなかイイ奴のようで良かった。  ウチの中学からこの高校来たのはオレだけだから、ちょっと不安だったんだけど、そんな気分を一掃するには十分だ。 「オレは瀬口奈津(せぐちなつ)」  夏に生まれたから、という単純な理由でつけられた名前で自己紹介をした。  でも、そのまんま「夏」じゃなくて、少しでも捻ってくれてよかったと思う。  字だけで見ると女子の名前っぽいのは、もう諦めている。  言うほど嫌いじゃないけど。 「この学校って中等部あるから、ほとんどが顔見知りになっていてさ、高校から入った組はちょっと萎縮しちゃうよな」  藤堂は少し声を潜めて言った。  そうなんだよな。  この高校の半分くらいは中等部からのエスカレーター組だ。  と言っても、半分なのだから別に気にする事も無いんだけど、「もう親友です」って感じの集団とかあると居心地が悪いのは確かだ。 「うーん、でもそのうち馴染んでいくんじゃない?」  と気軽に考えるようにしている。 「まぁ、確かにね」  美少年改め、藤堂は力が抜けたように背凭れに身体を預けた。 「にしても疲れたなぁ。ただ座っているだけっていうのも結構キツイ」 「ああ、入学式ね。確かにあれは軽い拷問だって」 「言えてるー」  藤堂は机に頬杖をつくついでに前髪を掴み上げて笑った。  美少年度がますます上がったように見えたのは気のせいではない。  何度も言うが、本当に心配だ。

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