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《番外》「と、いう夢を見た」赤い糸編 -5
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気怠い身体をなんとか動かして、保健室のベッドに腰を掛けたままワイシャツのボタンを留めていく。
目が覚めたらすぐに帰れるようにと、教室から制服や鞄を持ってきてくれていたらしい。
おかげで、すぐに着替えられて助かった。
傍には、オレのブレザーとネクタイを持った誠人が立っていて、ただ服を着ているだけのオレの様子をじっと見ている。
そんなに見られると、緊張するんですけど?
ちらりと視線を向けると、神妙な表情をしていた。
学校の保健室でこんな事しやがって、少しは反省でもしているのかと思いきや、口を開いて出てきたのは全く別の言葉だった。
「今更だけど、頭大丈夫?」
本当に今更だな!
つーか、言い方!
オレの頭の心配をするなら、最初から労われよ。
グイグイ突っ込んでくるなよ。
まぁ、途中からオレもグタグタにはなっちゃったけど。
でもあれは不可抗力だ。
好きな相手が、目の前で自分に欲情していたら引き摺られるだろ。
「それは大丈夫だけど……」
今は、頭より別の所が大丈夫じゃない。
かなり体力を消耗してしまったから、ちゃんと家まで帰れるか自信が無い。
許されるなら、このまま保健室のベッドで眠ってしまいたいくらいだ。
言い淀んだのが気になったのか、誠人の手がオレの顎に触れて、俯いていた顔を上げた。
目が合って、ボタンを留めていた手が止まる。
ついさっきまでギラギラとしていた誠人の目は、今は心配そうにオレを見ている。
あんなに求めてくれていたのが嘘のような、冷静な瞳で。
少し寂しい、と思ってしまうのは身勝手だよな。
「気分が悪いなら、言って」
もうっ。
こいつは、本当にそういう所がズルイ。
強引な時と、甘やかす時の差が激しい。
あれだけ激しく動かしておいて、気分も何もないだろ。
「そういう事はヤる前に聞けよ」
言いながらボタン留めを再開して、最後の一つを留め終わるのと同時に後悔した。
どんな思いで、オレが起きるのを待っていてくれたんだろう。
怖かったんじゃないか、と思い至って申し訳ない気持ちが溢れる。
またオレが忘れていたら、と考えなかった訳がない。
目が覚めた時の誠人の表情を思い出して、また胸が痛くなった。
「……心配掛けて、ごめん」
誠人の手からネクタイを引き抜いて、着たばかりのワイシャツの襟に掛ける。
ブレザーも受け取って袖を通した。
手早く身支度を整えてベッドから立ち上がった。
「もう平気だから」
「本当に?」
「本当に!」
意地になって強がってみたけど、脚がふらついて誠人に凭れ掛かってしまった。
それを支えてくれる誠人が微かに笑ったような気がして、めちゃくちゃ恥ずかしい。
しかも、腰に手を回されて身動きが取れなくなってしまった。
「……平気、だから」
「ん」
賭けてもいい。
絶対に「こいつ平気じゃないな」と思われている。
情けない。
「今日は、泊まっていくだろ?」
ご機嫌な誠人の提案はとても魅力的だった。
誠人の家に連れ帰ってもらってそのまま寝てしまえるなら、フラフラの身体にとても優しい。
しかし、気になる事が……。
何の脈絡もなく、どうして泊まるかなんて訊かれたのだろう。
もう既に決定事項だと言わんばかりに。
と、不思議に思っているのが分かったらしく、誠人が「ふっ」と笑った。
「さっき、約束しただろ」
「約束?」
そんなの、したっけ?
覚えが無いんですけど。
「帰ってからも、しようって」
疑問の返答は、顔を寄せて囁くように言われた。
紛れもなく「さっき」、保健室で致したくなくて咄嗟に出た説得のセリフが脳裏に蘇る。
つーか、オレは言ってねぇし!
「『も』って言ったのはお前だろ! オレは、帰ってから『に』しようって意味で!」
一文字違うだけで、全く意味が違う。
都合の良いように解釈すんな。
保健室でしたくないから帰ってからにしよう、って言ったんだ。
今日はもう、ここでしたから帰ってからは無いんだからな。
分かったな!
という決意は、耳朶をなぞる舌の感触に打ち消されてしまった。
「ひゃ……っ」
着たばかりの制服の上から、誠人の大きな手が身体の線を確かめるように撫でる。
ダメだ。
もうこれ以上はできない。
のに、誠人がその気になったら拒めない。
混ぜられた体内が、もう誠人を恋しがっている。
ぎゅっと誠人の制服を掴んで息を吐く。
熱が集中する前に離れないといけないのに、余韻が邪魔をして身体が動かないから困る。
「泊まらない?」
誠人は残念そうにそう言って、両手でオレの頬を包み込むように触れる。
ズルイ。
そんな顔されたら、こっちが悪いみたいじゃないか。
おまけに、大きな手が気持ち良くて、もっと触って欲しくなるし。
オレがそういうのに弱いと知って、こういう事をしてくる。
悔しい。
けど、嬉しい。
「…………泊まる」
仕方がないので了承してやると、誠人は満足そうに笑って甘いキスをしてくれたから、やっぱり意地は張るものじゃないなと思った。
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ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
イチャイチャは書いていて楽しいので、つい長くなってしまいます。
少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです。
以下は、瀬口が体育館でボールをぶつけられた後の、藤堂、伊原、上野の行動メモです。
話として書くことは無いと思うので、こそっと載せておきます。
○藤堂
バスケットボールを投げてきた上野にブチギレ。
元はと言えばお前がこっちに来るからいけないんだろ!と伊原にマジギレ。
その勢いで、駆けつけた塚本にもキレ気味に瀬口の見た赤い糸の夢の話をばらす。
○伊原
瀬口が倒れてしまったのは自分の責任だと感じて、実は保健室の前の廊下で正座して猛省している(声は聞こえていない……多分)。
保健室から出てきた瀬口に死ぬほど驚かれた上に、「何してんだよ!」と滅茶苦茶怒られる。
足元の覚束ない瀬口を心配して家まで送ると申し出るが、塚本に威嚇されて断念。
○上野
アクシデントとは言え瀬口を保健室送りにしてしまい、塚本からの粛清という名の指導(物理的なやつ)があるのではないかと怯えて過ごすが、瀬口の「そういうの止めろよ」の一言で放免される。
が、その後、塚本に遭遇する度に冷たい視線で刺されて生きた心地がしないので、どうせなら一回くらい投げられて落ちておいた方がマシだったと後悔する。
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