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第2話

 王都を囲う結界が完成してから、魔物の量が格段に減った、という噂は教会の敷地内から一歩も出られないイオの耳にまで届くほどだった。  教会内に配備されている護衛騎士から「家の近くに魔物の巣ができてしまい退治できなくて困っていた。結界が出来てからはあんなに恐ろしかった魔物がすぐに退治できるようになった」と感謝を述べられたからである。それも一度や二度ではない。どれほどこの国が魔物に悩まされていたのかが実感として湧いてきた。  今までは男なのにシスターの格好をしている風変わりな聖女、と見られていたが、結界が完成してから周りがイオを見る目が変わったのは明らかだった。  はあ、と自分の部屋に設置されている割れた鏡を見てイオはため息を付いた。  聖女、とは名の通り聖なる乙女のことである。イオはシスター服を着せられてはいるものの、紛れもなく男だ。隠すにはでかすぎる体格、目立つ喉仏、低い声、どれをとっても男にしか見えない。  せめて伝説上の聖女と同じように、金髪の碧眼だったらもう少し周りの見る目も違ったのかもしれない。イオだって未だに自分が聖女だということを信じることができない。長くなってきた前髪を一房つまんだ。色素の薄い茶色と同色の瞳は、この国では黒の次によく見かける色である。珍しくもなんとも無い。  周りの見る目が良い方向に変わってきた、というのはイオにとっては良い変化であった。少なくとも、ただの変態と見られていたときよりかはよっぽど良い。 このまま全てが良い風に変わっていけばいい、イオはそう思って奉仕活動や魔力操作の講義に精を出した。  魔法の授業がイオにとって一番のお気に入りとなった。  この世界には魔法が存在する。とは言っても魔法を使うことができるのは高位の貴族のみだ。貴族特権とでもいうのだろうか。魔法を使うためにはこうして教会に入るか、王都のみに存在するアカデミーに入るかする必要がある。教会に入るにも、アカデミーに入るにも多額の寄付金が必要なのでイオのような田舎の一般市民には今まで無縁だった。  よくよく周りを観察してみたら、部屋は火の魔力を付与された石で快適な気温を維持するようになっていたし、洗濯は水の魔法で汚れが落ちやすくしていたり、植物は伝統的な肥料を与えるのとは別で光の魔法を使って成長を促進させていた。  身の回りが魔力で溢れていると知ったら、あとやるべきことは明確になる。魔力の流れを観察し、どう付与されているのかを理解すれば、自分も同じことができると分かったからだ。  その結果、微力ながら聖なる力を操作することができるようになった。宝石に聖なる力を込めることでお守りとして効果を発揮する。今回のお守りは込められている聖なる力が弱いため晩御飯に好きなものがでてくる、とか、鳥の糞が直撃を避ける、とかそういった「ちょっとだけ幸運になる」レベルだが、それでも途方も無い値段が付けられるだろう。このまま続けていけばもう結界を貼るために公開オナニーをするような恥ずかしい思いをしなくてよくなるに違いない。  「あんなに恥ずかしい思いをしたくない」という思いをモチベーションにイオは魔法を一生懸命学んだ。  一生懸命にレッスンに打ち込み、質問し、成長をしてくるイオに対して講師や共に学ぶシスターたちも好意的に受け止めてくれ、ぎこちないながらもイオは教会に溶け込めるようになっていた。  その裏で、イオを陥れる作戦が進行しているとも知らずに。  数日後、イオは来たときと同じように教会内の祭壇の前に連れ出されていた。  まるで罪人のように正座をさせられ、後ろで無理やり組まされた腕は護衛騎士によって掴まれており、痛みすら感じるほどだ。  イオを囲むように十数人の神官たちがズラリを配置され、無数の冷たい目がイオを一瞥する。  神官長がイオの前に立ちはだかり、響き渡るような大声で宣言した。 「この聖女は異端の疑いがあります!」  ぽかん。開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。  勝手に連れてきて、勝手にオナニーまでさせて何を。あまりにも理不尽な言い分にイオの心の中で炎のように怒りが燃え上がるのを感じる。  神官長は手に持っていた水晶を、まるで猫の頭でも撫でるかのように優しく表面に手を添えた。  途端に水晶が光を帯び壁に映像が投影される。どうやら森の中……それも見覚えがある王都周辺の、ついこの間イオが結界を貼るために公開オナニーをした、あのあたりだ。  映像を、撮られていたのだ。それも知らない間に。  がくがくと抑えることの出来ない震え。これから投影されるであろう映像を思い、イオは絶望した。どのシーンを切り取られていても最悪の未来しか見えない。  映像は、40本目の柱へ向かう時から始まっていた。  休憩のときですら洋服を着させてもらえなかった。全裸で森を歩き、なにか物音がするだけで「もしも何も知らない人がきたらどうしよう」とドキドキしていた。物欲しげにうごめく後孔も、勃起が収まらないペニスも、快楽でだらしなく緩んだ顔も、何度も叩かれて赤く染まった尻も、ビンビンに立った乳首も全てが丸見えだ。もはや立派な変態聖女の出来上がりである。  すでに媚薬を2本飲まされたイオに、何が正しいか、何が悪いか、どうすればいいか、の正常な判断なんてできなかった。  ただ言われるがままに公開オナニーを繰り返し、指定された場所に行く、それだけだった。 『ほら、最後だぞ』  イオは「はー♡はー♡」と上ずった呼吸のまま最後の杭を打つ場所まで来た。  そう言って神官長は、ちょうどイオの股間の下あたりで人差し指を立てた。ここ数日で嫌というほど思い知らされた。これは「自分で入れろ」の合図。ここ数日神官長の指を受け入れ続けたイオの後孔はくぱくぱと収縮を繰り返す。 『は、はひいっ♡神官長様の指、私のケツマンコで食べさせてください♡』  決められたおねだりの文言をうっとりとつぶやきながらイオは腰を落とす。指がすりすりと後孔の縁をなぞり、イオの口端からは期待でよだれがだらだらと垂れていた。  あまりの醜悪っぷりに映像から目をそむけたくなるが、目をそむけると後ろに控えている男がイオの乳首を強い力で握りつぶすのだ。いやでも目をそむけることはできなかった。 「ひぃっ♡」 『あっ♡』  現実のイオの悲鳴と、映像の中のイオの喘ぎがかぶる。  映像の中で神官長の指を一気に入れようとしたところで邪魔が入った。護衛の男がイオの尻を軽く蹴り、入れさせないようにしているのだ。  それに対して神官長は笑顔で「こらこら、そんなことをしてはいけないよ」とたしなめるだけだ。その声にはイオに対する態度と違い、威圧感も恐怖も感じない。それどころか「もっとやれ」と暗に言っているようにすら聞こえる。  そういう神官長もイオに対して陵辱を続けていた。孔の縁を指でくるくるとひっかいたかと思うと、含ませる直前で意地悪なことに指を折り曲げるのだ。 『いやぁっ、いじわる、しないでくださいっ♡神官長様の指おちんぽっ、もぐもぐってさせてくださいっ♡』  ふりふりと腰を振って分かりやすく媚を売った。機嫌を良くすればすぐに与えてもらえるが、彼らの機嫌が悪いといつまでも発情状態でお預けさせられる。  画面からはわからなかったが、この時イオは媚薬を後孔にもたっぷりと塗られていた。何匹もの虫が後孔を這い回り、中に這いずるような感覚をずっと放置され続け、今にも気が狂う寸前だった。たとえ指一本でもいい、咥え込みたい。この疼きをどうにかしてくれるものだったらなんでもいい。そうでないと気が狂ってしまう。  そのへんに落ちている枝でも渡されたらこの時のイオは間違いなく自分の後孔に突き刺していただろう。それほどまでに追い詰められていた。 『乳首だけでイケばいいだろう』  ぐすっ、と鼻をすすりながらイオは自らの乳首に手をのばす。乳首だけでイクのは杭30本目のときにすでに達成していた。 『あんっ♡ちくびぃ♡もっとぉッ♡』  両方の指で乳首をすり潰せば胸の先からビリビリと快楽が広がり、何も含んでいない胎を思わずきゅうきゅう締め付ける。虚しさが増すだけだった。  護衛の男たちが口々にイオのことを「淫乱」だとか「変態』だとか罵った。その全てがイオにとって快楽をより高めるためのスパイスでしかなかった。神官長が耳元で何事かをささやく。一ミリの疑問もなく、映像の向こうにいるイオはその言葉を復唱した。 『はいっ♡聖女なのに、男でごめんなさいッ♡それなのにお尻はオマンコだし、乳首は女の子よりも敏感でこめんなさいぃッ♡変態オナニー大好きな聖女だけど、皆を喜ばせるために何でも頑張るのでいっぱいいじめてくださいッ♡指おちんぽくださいっ♡指おちんぽほしいんです♡もらえないのおかしくなっちゃうんですっ♡』  画面の向こうのイオは、映像を撮られていることも知らずに快楽に蕩けた顔で笑っておねだりをした。  映像はそこで途切れた。 「聖女よ、なにか申し開きはあるか?」 「あの時、媚薬を使われていたんです! 正気では有りませんでした」  イオは慌てて言った。媚薬をもられていなければ、あんな失態を演じることはなかった。もっとも何も事情を知らない人から見てみればただの外で神官長の指を使ってオナニーをする変態にしか見えなかっただろう。 「媚薬?それはなんだ。どんな症状が発生するんだ?具体的に述べよ」 「興奮作用が高められ……、その、ずっとむずむずするんです」  イオの供述に対して神官たちが口々に好き勝手なことを言い始める。ニヤニヤとした下卑た表情を顔に貼り付け、イオが困惑する様を楽しんでいた。 「どこがだ?」 「ワシも鼻がムズムズしますが、あんな恥知らずな事は出来ませんなあ」 「具体的に述べられないのであれば、神官長の証言を採用するしか無いのでは?」  神官たちのその言葉にイオが慌てて言った。 「……! ぉっ、……お、お尻のあなが、ムズムズするんです」 「映像の中ではそんな単語出ていなかったようだが……」 「答えるまでに時間がかかり過ぎでは?一生懸命嘘を考えていたのでは?」 「映像の中ではけ、けつ、まん、…………こと申しておりました」 「声が小さくて聞こえんのう。最近耳が遠くてな」 「映像の中では! けっ、ケツマンコと申していました!!!!」  ほとんど叫ぶようにイオは言った。神官たちが口元に歪んだ笑みを浮かべていた事にも気づかないほど、必死に。  イオは知らなかった。人の悪意を。  自分の利益のためならなんの躊躇もなく他者を陥れる人間たちがいるということを。  イオが公開オナニーによって聖なる力を杭に注ぎ込み、結界を貼った事をこの場にいる全員が既に知っているということを。  彼の育ってきた田舎の村では、イオに対して害する人なんて一人も居なかったのだから。  彼の作った結界は出来が良かった。閉鎖的な環境である教会内でも噂になるほどに、出来が良すぎたのだ。今や街を歩けばどこでも聖女の話が聞ける。  教会は国王に次ぐこの国の柱である。  王族が腐敗すれば教会が正し、教会が腐敗すれば王族が糾弾する。そうやって自浄作用に任せることでこの王国は長らく栄えてきていた。  貴族たちの間では聖女を祭り上げ、現国王に対しての抵抗勢力の象徴として扱おうという意見が出ている。もちろんイオには知る由もないが。  聖女が国民からの支持を得て国王と敵対するような事があれば、王族側からの教会への信頼は失墜する。教会と王族、二本の柱なんていいながらも結局の所ずぶずぶの関係なのだ。 なにより、教会の上位の連中たちが気に入らなかったのは、国民からの支持が「教会」でなく「聖女」という一個人に対して向くことだった。  ……ーーだとしたらどうするべきか。 『徹底的に辱め、人間としての尊厳を奪い、自分たちが圧倒的な優位な立場に立てばいい。聖女の弱みを握り、聖女が表に立つ必要がある時は、まるで操り人形のようにしてしまえ。』 『田舎の純朴な青年を騙すことなんて赤子の手をひねるようなものだ。』  そんな非人道的な神官長のアイディアに対して、誰一人として反対するものはいなかった。

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