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第1話

「ねえ、ねぇってば!」 風に揺れてふわりと翻る紺色のコート。 だけど彼は振り向いてはくれない。 「恋人ほっといてずっと空みてるって どういうことだよ! お前がどうしてもって言うから ついてきてやったのに・・・」 彼ー・・・ 小鳥遊 星依(たかなし せい)には恋人がいる。 5歳上の、九条 彼方(くじょう かなた)。 彼方と知り合ったのは、とある 天体観測イベントだった。 可愛い子ナンパしようぜ! と、友達に連れてこられた天体観測の イベントで、星依は出会った。 人一倍目を引く大きな天体望遠鏡に、 人一倍目を引く真剣な表情。 その目は真っ直ぐに空に輝く星を捉え 一瞬の変化だって逃すものかと 瞬きすら惜しむように見開かれていた。 あまりに真剣に見入っているから 星依はついつい その彼を凝視してしまっていて すると彼もこちらに気付き、顔を上げた。 やば、と目を逸らそうとすると 彼は、先程の真剣な表情からはまるで 想像できないような、子供のような 無邪気な表情で笑った。 そしてそのまま手招きされて そちらに向かうと、星依に天体望遠鏡を 向ける。 「きみ、星、好きなの?」と。 あんまり僕の方見てるからさ、と彼は笑った。 彼は星依が大きな天体望遠鏡を羨ましがって 見ていると思ったのだろう。 「・・・はい、少し・・・」 星依は別に星が好きな訳ではなかったが 彼と話してみたいと思いうなずいた。 それに彼はすごく嬉しそうに微笑み 「一緒に見よう」と星のとなりに 大きな天体望遠鏡をかまえた。 それが、二人の出会いだったー

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