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第5話

「いや、伝言頼まれた。今日ムリになっちゃった、ごめんなさいってさ」  綾乃は大澤の大学の一年後輩だ。先輩である大澤を足に使うとは。 「そうなんですか、わざわざすみません」  祐樹はぱっと頭を下げた。 体育会系の動きだった。祐樹がずっと空手を習っていたことを知っている大澤は、そんな祐樹を見て大らかに笑う。 「いや、いいよ。ちょうど本屋に用事もあったんだ。待ってるあいだに済んだし」  書店の紙袋を抱えてみせる。 「それに祐樹の顔も見たかったしな」  大澤がこういうことを素で言うから、姫と王子などと呼ばれたあげくにカップル扱いされることになったのだが、彼はいつも涼しげな顔で祐樹に会いに来た。  からかう軽口も揶揄する目線も気にしないで、いつもまっすぐに祐樹を見て笑った。 そういうところは羨ましいくらいだった。自分にはとてもできそうもない。 「先週も会った気がしますけど」 「そうだな、今週は初めて会うよな。元気だったか? 俺に会いたかっただろ?」 「まあふつうです」 「相変わらず、なつかないな。そういうときは、先輩、おれも会いたかったです、だろ」 「いや、ないです。ていうか綾乃さん来ないんだったら、帰ってもいいですか?」 「こらこら、わざわざ伝言持ってきた先輩に、お礼のドリンクもおごらないつもりなのか?」 「じゃあ、仕方なく」 「仕方なくってなんだ」  軽口をかわしながらさりげなく大澤は祐樹の右前に立って、彼氏ポジションで人ごみを抜ける。 「先輩、おれももう175センチあるんで、そんなふうにかばってもらわなくても大丈夫です」  大澤が在学中、祐樹は160センチしかなかったので、いつも背中にかばうように歩いてくれていた。その癖が残っているのだ。 「ああ、なんか祐樹の目線がこんなに高いのって慣れないな。中等部のころはちっちゃくてかわいかったのになー」 「そうですか? あんまりかわいかったとは思えませんけど」 「外見の話な。性格はかわんないな」 「すいません、かわいげなくて」 「自覚あんのか。ほんと、なつかなかったよな。今もだけどさ。なあ、そんなに俺ってやな奴?」  大澤が前を向いたまま問いかける。 「べつにいやじゃないし、嫌いではないんですけど」 「けど?」 「苦手なんです」  祐樹は正直に告げた。  それを聞いた大澤は怒るでもなく、おおらかに笑っている。 こういうところが大澤といて気が楽なのだが、自分にはない心の広さにいらいらするのも事実だった。 「いまさら?っていうか、いまだに?」  以前、同じセリフを言ったことを覚えていたらしい。もう三年も前のことだ。 「ええ、いまだに」  祐樹のまじめな返事に、大澤は声をあげて楽しそうに笑った。

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