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第4話

 じつは深いキスしたあとにすこし怖くなって、大澤に「キスしたけどこの先はどうなりますか」と質問したら、面白そうに笑いながら、くだんの返答をもらったのだ。  そんなことでうろたえるなんて、お前のほうがそのうち綾乃においしくいただかれそうだな、と。  その大澤の顔を思い浮かべて、祐樹は複雑な気分になる。二年前、大澤が高等部を卒業するまで、王子という呼び名は大澤のものだった。  高等部の首席で生徒会長を務めるような人で、王子の名にふさわしい端正な外見をしていた。テニスで鍛えたしっかりした体格、すこしくせのある黒髪はつややかで、切れ長の目が印象的だった。  その大澤王子は祐樹姫がお気に入りだと、大澤が卒業するまでの二年間、ふたりはまるでカップルのような扱いを受けていたのだ。  もちろん、つきあっているとかそんな事実はなかったし、大澤には他校の彼女もちゃんといた。それでも大澤王子と祐樹姫の組合せは校内でずっと有名だった。  事の発端は、中等部入学直後から始まった、ちょっとした嫌がらせだ。  それに気づいた大澤が、祐樹のナイトよろしく頻繁に中等部の教室までやってきて見守ったせいで、そんな扱いになったのだ。  祐樹姫には大澤王子がついている、と学校中が認識して、嫌がらせはじきにおさまった。  その大澤が高等部を卒業し、その後の一年間で祐樹の背は15センチも伸びて、高等部に入ったら今度はじぶんが王子などと呼ばれている。  なんともおかしな感じだった。  性別が変わったわけでもないのに、姫から王子になるなんて。どんなおとぎ話だよ。みにくいアヒルの子もびっくりだ。  駅前の人ごみを抜けて、駅直結の大型書店に入る。  そこがいつも待ち合わせの場所だった。雑誌でも見て待っていれば相手が遅れても気にならないし、駅前で立っていると綾乃も祐樹もお互いにナンパされるのが面倒だからそうなった。 「早かったな、祐樹」 「大澤先輩? 今日、一緒に行くんでしたっけ?」  さわやかに声をかけられて、祐樹は目を見開いた。  元王子がにこやかな笑顔で立っていた。待ち合わせは綾乃だったはずだ。

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