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第3話

 相手は大学一年生で高一の自分がどうこうできる自信もないから、リードされるがままなのは事実だった。十代の三学年差はかなり大きい。  でも綾乃さんはべつに、欲望あらわに押してくるってわけじゃないけど。  祐樹は電車の窓に映る自分の顔を見ながら、さらに考える。  四年上の先輩である:大澤喜人(おおさわよしひと)の紹介で出会って、付き合い始めてそろそろ二ケ月。付き合ったのが夏休みだったから、けっこう頻繁に会っていた。  最初のデートで手をつながれて、三回目のデートでキスをした。すべて綾乃がリードした。べつに嫌だったわけではない。なんとなく、ここはたぶんこういう空気なんだよなと流された感じだ。  部屋のまえまで送っていって、別れ際に綾乃が握った手をかるく引いて、目を伏せる仕草を見せた。そっとうつむいた祐樹が顔を傾けたら綾乃がすっと背伸びして、触れるだけのキスをした。ほんの一瞬、唇が触れて離れただけだ。  なんの感想を持つ暇もなかった。  祐樹にとってはファーストキスだったから多少ドキドキはしたが、それだけだ。   その後は、もう少し大人のキスを交わすようになったが、それも綾乃にリードされている。  男子がこんなに受身なままでいいものかとも思うが、綾乃も女の子と付き合うのが初めての祐樹になにかしてもらおうとは期待していない。 「祐樹くんはかわいいね」 とまるでペットか弟のようにかわいがられているというのが正直なところだ。  紹介してくれた大澤にも「そのうち綾乃においしくいただかれそうだな」と言われる始末だが、べつにそれでもいいかとぼんやり思っている。  ただ、自分にそんなことができるんだろうかと漠然とした不安があった。  綾乃は彼女だから、誘われたら断わってはいけないと祐樹は思っている。でも自分から積極的になにか行動を起こしたことはまだなかった。  そもそも「欲望」というのが祐樹にはよくわからない。  河野は欲望あらわに、などと言ったがどうなることが「欲望あらわ」になるのだろう。  キスしたいとか抱きたいと思うことだろうか。  綾乃は顔もかわいいしスタイルもよくて一緒にいると楽しいが、正直に言うと、キスしたいとか抱きたいなどと思ったことは一度もない。

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