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第2話
もっとも祐樹のほうは女子に間違われることには慣れていて、その呼び名を聞いてもクールに顔をしかめただけだった。
そして性格も姫とは呼べない程度には負けず嫌いで気が強く、腕っぷしも強かった。聞けば男ばかり四人兄弟の末っ子で、家ではとっくみあいのケンカも日常茶飯事だと言う。
その祐樹姫は中等部三年になると、あれよあれよという間に背が伸びて170センチを超え、顔立ちも男らしくとは言えないものの中性的なきれいさが加わって、少なくとも制服を着ていれば女子に間違われることはなくなった。
高等部に入ると、周辺の女子高生から「きれいでかっこいい」とアイドル的に騒がれるようになり、とうとう王子さまの呼び名がついたというわけなのだった。
「恥じらいはいつの時代も必要だよ、祐樹。デート相手があんまりストレートに欲望あらわに押して来たら引くだろ? そこはじょうずに隠していかないと」
「そう?」
河野の発言に祐樹は首をかしげている。
「押されても別に引かないけど?」
「バカ、なんで男のお前が押される前提なんだよ。お前が押すほうだっての」
「…ああ、そっか」
そういいながら、それでもよくわかっていない顔だった。男の欲望などこれっぽっちも感じさせない祐樹だから、それも仕方ないかもしれない。
こいつってオナニーとかすんのかな、と河野は思い、なんだかいけない想像をした気分になって、あわててその質問を頭のすみに追いやった。
「ああ、でも祐樹の彼女って年上なんだっけ? 大学生ってやっぱ大人な感じするよな。もしかして押されまくってんの?」
「別にそんなことないけど。ふつうだよ」
上品な顔に困ったような表情を祐樹は浮かべた。
「もう行かないと。待ち合わせ、遅れるから」
「おう、引き留めてごめん。また明日な」
河野と別れ、廊下を歩きながら祐樹は考える。
自分は押されまくっているのだろうか。
それは否定できないかもしれない、と思う。
というよりも、自分が三つも上の女子大生と付き合っているという事実自体、祐樹にはなんだか現実感がないのだ。
そもそも付き合おうよと声をかけてきたのも相手からだったし、デートも初めてのキスもうまく向こうが誘導してくれた自覚はある。
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