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第7話

 大澤はそんなことをまったく気にかけることなく、祐樹の髪から手を離して笑いかけた。 「元気だった?」  さわやかな笑顔というにはほんの少しニュアンスの違う笑顔。 「…はい」  祐樹は警戒心もあらわに、こわばった顔で大澤の顔を見上げている。昨日の今日で一体どういうつもりなのか。  祐樹の警戒と不安に満ちた目線を捕らえて、大澤が落ち着いた声で尋ねた。 「ところで、体操服は見つかった?」  しんとした教室でその声はよく響いた。そして質問の内容に、今度は祐樹だけでなく揺れていた教室内の空気がかちんと固まった。 「え?」 「体操服だよ。昨日、一緒に探したけど見つからなかったから、心配してたんだ」  落ち着いた声が教室の隅々まで響き、祐樹の警戒心レベルがどんどん上がっていく。 こいつ、わざとか。これを聞かせにわざわざ教室まで来たんだな。 「…すみません」  何をしにきたのかは理解したが、大澤がどういうつもりかわからず、ひとまず謝罪を口にする。 「祐樹は謝らなくていいんだよ。それで見つかったの?」 「いえ、まだです」 「そう、心配だね。こういうことはよくあるのかな?」  大澤はやさし気な態度を崩さないが、それはすでに昨日、話したことだった。  一緒に体操服を探しながら、大澤に訊かれるままに、入学以来、体操服やリコーダーやペンケースなどがちょくちょくなくなること、だからトイレ以外で祐樹は席を外さないこと。持ち物はできるかぎり鍵のかかる個人ロッカーに入れていることを話したはずだ。  でもそれをわざわざ、教室内で暴露させる意味はなんだろう。大澤の意図が読めず、祐樹はひたすら困惑していた。 「…時々」  昨日、話してしまったので嘘をつくことも今さらできず、祐樹は仕方なく口を開く。  教室中の人間がこの会話を聞いていると思ったら、羞恥で怒鳴ってやりたいくらいだったが、大澤の視線がやわらかくて声は小さくなってしまう。 「そう、時々。それは困るよね。じゃあ、これからそういうことがあったら、俺に言って」 「はあ?」  素で声をあげてしまい、あわてて「どうしてですか?」と言い直す。 「俺が一緒に探してあげるから」  その台詞にはやさしい笑顔がついてきた。  うさんくさいことこの上ない。祐樹の警戒アラートはなりっぱなしだ。一体、この人は何がしたいんだ。

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