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第23話
「じゃあ、ぜひ考えてみて。高校生? きみくらい若い子の発想はほんとに豊かで、こちらが驚かされることも多いんだ」
女性的な顔立ちではないのに彼の雰囲気のやわらかさは、華道師範という職業柄だろうか。
女性相手が圧倒的に多いだろうから、そのせいなのかもしれない。
「この作品が気に入ったのなら、よかったら見学に来てみて? べつに無理に入会しろなんて勧誘はしないから」
名刺の地図を確認する。
祐樹の学校からなら30分くらいで行ける場所にある。
でも本当に見学に行っていいものなんだろうか。
迷いながら首をかしげる祐樹に、東雲は無理に押しては来なかった。
「祐樹、ここだったのか。姿が見えなくなったから探したぞ」
大澤が小部屋に入ってきて、祐樹の向かいに立つ東雲に気づいて足を止める。
「すみません、先輩。この作品の出品者さんなんだって」
祐樹の言葉に、目の前の紙細工の街に目をやって、大澤がへえと目を見開いた。
東雲がそつなく会釈するのに、大澤もかるく頭をさげて挨拶を返した。
「きれいな街ですね。なんかすごくはかなげなのに、でも目を引くというか」
大澤の感想に、東雲はありがとうございますとにっこり笑う。
「きょうはふたりで来られたんですか?」
「ああ、はい。友人がチケットをくれて、彼女は生け花をしてるんですけど、俺たちはぜんぜんなじみがなくて」
大澤が照れくさそうに説明する。
綾乃が生け花をしているとは祐樹は知らなくて、そうだったんだと思いながら大澤と東雲が花卉の使い方について話しているのを聞いていた。
東雲の声は人に説明しなれている人間のそれで、やわらかいようで張りがあった。訓練を受けたアナウンサーのような耳になじむ話し方をする。
それを心地よく思いながら、祐樹は手のなかの名刺をブレザーの胸ポケットにしまった。
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