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第25話
「安定期? それはもうドキドキしなくなるってことですか?」
「いや、うーん。そういうわけでもないけど。ある程度、考え方とか癖がわかって落ち着いてくるっていうか…。そうか、祐樹は綾乃が初めての彼女だもんな、まだドキドキの毎日か?」
祐樹はあいまいな笑みを返す。正直、あまりドキドキしたことはない。綾乃といるのは楽しいけれど、友達とのちがいがあまりわからなかった。
そうはいっても男子校の祐樹に気軽な女友達はいないので、比べるのが難しいのだが。
…おれって恋愛テンションが低すぎる? それとも恋愛スキルがなさすぎる?
「先輩の初めてっていつですか?」
「いきなりこんなとこでそういうこと訊く? まあいいけど。高1の春休み」
祐樹のいきなりの質問に面食らった顔はしたものの、ごまかさずに答えてくれる。
「ふうん。ドキドキしました?」
「そりゃするよ。お互い初めてだったし、緊張するし。え、なに、綾乃としようと思ってのリサーチ? だったら無駄だろ」
「そんなんじゃないです。でも無駄ってなんでですか?」
「いや、お前の場合、まぐろになってても綾乃がちゃんとしてくれるだろうから、いてっ」
さすがに腹が立って、テーブルの下の足を蹴ってやる。どれだけ受け身だと思われてるんだか。
「なんですか、それ。おれにも綾乃さんにも失礼です」
「ごめん、悪かった。でもまあ、こういうのは勢いというか、気持ちの問題だから、そういう時が来たらそうなるだろ」
「そういうもんですか?」
「だって祐樹って、初めての彼女なのに舞い上がらないというか、がっついてないっていうか。まあ祐樹がもともとそういうテンションなのは知ってるけどさ」
そういう大澤だって、高校生だった時にがっついているような気配は感じなかった。いかにも爽やかな王子さまという雰囲気で、本来の腹黒さまでも隠されていたものだ。
もっとも中学生だった祐樹が知らないだけで、彼女の前ではまったく別の顔を見せていたのかもしれないが。
黙り込む祐樹を見ながらコーヒーを飲んで、大澤は続ける。
「綾乃をどうこうしたいとか、抱きたいとか思ってるように見えないし。って心のなかまではわかんないけど」
「…こんなとこでそういうこと言わないで欲しいんですけど」
「いやいや、お前が振ってきた話だろ。…まあ、たしかにここでする話でもないか」
昼間のコーヒーショップだ。
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