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第26話

「でも何か悩んでるんだったら、相談に乗るからな。遠慮しないで言ってこいよ」  優しげな王子スマイルは健在で、相変わらず人目をひきつける。  おまけに大澤の声が恋人に向けるような甘さを含んでいるような気がして、祐樹はちょっと困ったふうにあいまいに頷いた。  大澤が高校を卒業してからは会うのは年に数回になったが、彼はいまも祐樹をお気に入り扱いしている。 「って言ってもお前は言ってこないんだろうけどな」  あまり見たことのないさみしげな顔をするから、祐樹は居心地悪く目線を落とした。 「そんなことないです。頼りにしてます」 「そうか? いまさら気ぃ遣わなくても、いやまあ…やっぱ少しは成長してんのかな。中等部のころだったら、そうです、絶対相談しませんとか言ってただろ」  それは否定できなくて、祐樹はちょっと唇をとがらせた。中等部のころは王子と姫などとカップル扱いされていたせいもあり、それがいやで必要以上に大澤には冷たい態度を取っていた自覚はある。  もちろんそんなことは大澤にはバレバレで、その態度を咎められたことはなかったが、こうやって高校生と大学生になってからのほうが親しみを感じているのは事実だった。  祐樹が体も心も成長して、精神的に対等になりつつあるせいかもしれない。 「いまはそんなこと言いませんよ」 「へえ、俺もちょっとは信頼されるようになったんだ?」 「なに言ってんですか。先輩のことは昔から信頼してるし感謝もしてます。…うまく言えないだけで」  祐樹が思い切って告げると、大澤が目をみはって大きな手で口元をおおった。頬がじわじわ赤くなり、やばいとつぶやく声が聞こえた。 「たまに素直かと思えば、そんな殺し文句を…。ほんと、タチ悪いな」 「わかりました、もう言いません」  つられたように自分の顔も熱くなるのを、そっぽを向いてごまかした。  夕食も誘われたが、明日の課題もできていないので断ると大澤はあっさりまたなと笑って夕方の雑踏に消えていった。それを見送って電車に乗る。  電車のなかで女子大生らしいふたりと目が合って、さりげなくそらしながらふと夏休みの出来事を思い出した。

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