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第72話

「そういうもんですか。つき合い長くなると学生でも考えるのかなって」 「そういう奴もいるだろうけど、俺はないかな。まあ結婚は30くらいとかになるんじゃないか。まずは仕事だろ」 「やっぱ就活って大変ですか?」  今年3年生の大澤は就職活動真っ最中だ。 「んー、まあな。自分が何をしたいとか何ができるとか、勉強と違ってそんな明確にわかってないし。行きたい企業が採ってくれるってわけでもないし、しかも入ってみたら全然思ってたのと違うって言ってる先輩とか見ると、何を基準に就職先を選ぶのかって考えるよな」  めずらしく愚痴めいた台詞をこぼしている。 「そういう祐樹だって、来年は受験だろ。うちに来るのか?」 「うーん。おれの成績じゃ、かなりキツイんじゃないですか」  他人事のようにいう祐樹に大澤は顔をしかめた。  2年生になって成績は下降気味だった。  あれこれ余計な悩みに頭を使っているせいだとわかっている。夏休み前の面談でもしっかり復習しておくようにと言われていたが、やる気は出ない。 「見てやろうか、勉強。まだ2年なんだし、今からやれば間に合うだろ」 「いいですよ、そんなの。先輩だって忙しいのに」 「お前、ちゃんと力出せばできるだろ。もったいないぞ。大学は将来に関わってくる。彼女にかまってばっかいないで、ちゃんと自分のこともやれよ」  そういえば大澤は生徒会長で彼女もちだったけど学年首位だったと思い出した。ふらふらしている自分を叱られた気になって、ちょっとへこむ。 「わかってますよ。ちょっとやる気でなくって」  祐樹の成績が落ちたのは決して彼女のせいなんかではないが、大澤にそれを言うわけにもいかない。それでなくても、きわどいところまで知られている。 「とりあえず週一で見てやるから、お前は少し真面目に勉強しろ」  祐樹の言い分に取りあわず、大澤はテキパキと押しつけ家庭教師を決めてしまった。

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