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番外編 大澤王子の特別な恋愛

 大学1年の6月、大澤は驚く相手から告白を受けた。同じテニスサークルの同級生の男からだった。  彼は別の高校のテニス部に所属していて、試合などで顔を合わせていたから高校生のときから知り合いではあった。ただ、彼のほうが1学年年上だったから、あまり接点はなかった。  彼は一浪して大学に入ったそうで、それで大澤と同級生になっていたのだ。  新入生ガイダンスで顔を合わせ、もともと顔見知りだったこともあって同じテニスサークルに入って親しくつき合うようになった。 「きみが同性に興味ないのは知っているんだけど」  彼は整った顔にほんのすこし照れた表情をのせて淡々と言った。 「よかったら、僕とつき合ってみませんか?」  言われた大澤は、相手の落ち着きぶりに、これはどういう意味だろうと真剣に考えた。 「あの、それは恋愛として?」  大澤の戸惑った問いかけに彼は静かにうなずいた。  正面から告白してきたものの、その表情はどこか冷めたような感じがあって、ああ、と大澤はその心情を読み取った。  彼は最初から期待していないのだ、と。断られる前提で告白しているのだ。  騒がしくなく上品な感じがあるけれど、とっつきにくくはない彼は女性にも人気があった。それなのに、こんなあきらめた静かな表情で気持ちを告げるのかと、大澤は胸が痛くなった。 「いいよ、つきあおっか」  大澤の返事に、彼は大きく目を開き、え?と声を出して固まった。 「でも俺、同性とつきあったことないし、きみを友達として好きだけど、まだ恋愛感情に発展するかもわからない。それでもよければ」  大澤の慎重な返事に、彼は目に見えて肩の力を抜いて、ほっとした表情を見せた。 「ありがとう。それでも十分だよ。二度と顔を見せるなって言われる覚悟もしてたから」  大澤がOKしたのは、彼のまじめな一途さを知っていたからだ。授業態度にもテニスのプレイにもそれは表れていて、彼はなんでも手を抜かずに一生懸命だった。  その一途な態度が大澤の心を動かしたのだ。  大澤が忘れていると思っているのだろうが、彼が高3の夏の大会で、大澤はコート脇の水場で彼に話しかけられたことを覚えていた。  引退間際の彼は、大澤にどこの大学を受けるか訊いてきた。テニスの試合でそんな質問をされたから、たまたま忘れなかったのだ。  失礼ながら彼の高校のレベルを考えれば、この大学に合格するのはかなりの努力が必要だっただろう。  一浪してまでこの大学に来たのはあのときの会話のせいだとは言い切れないが、もしかしてそうなんだろうか。  一途な彼をかわいいとは思うけれど、このつき合いがどういうふうになっていくのか、まだわからない。ぎこちなく微笑む彼に、大澤は笑顔を返して大きく息を吸った。    完

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