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第4話

 あれは中学三年生の夏休みが終わってすぐ、二学期が始まる9月1日のことだ。夏休みに誰とも遊びに行くことがなかった僕は、悲しいかな、全く日焼けをしないまま二学期を迎えた。  ハワイに家族で旅行しただの、キャンプに行っただのの夏休みの楽しい話題で溢れる教室の隅。窓際のちょうど真ん中の中途半端な場所にある自分の席に座り、僕はぼんやりとクラスメートの自慢話に耳を傾けた。  社長の息子で、お山の大将だった佐武くんがオーストラリアに行ったことを自慢していたのをよく覚えている。オーストラリアは雪が降っているのかと聞かれ、そんなに寒くなかったよと笑いながら、日焼けは日焼けでもスキー焼けをしたことを自慢していたっけ。  誰もがみんな小麦色に日焼けしているなか、僕だけが真っ白なことがなぜだかとても恥ずかしかった。 「……あ」  なんとも肩身の狭い気分で窓の外を眺めていたその時、自分よりももっと色白の生徒を見つけた。色が白いといっても日本人レベルではない。風に吹かれて揺れる髪は金色で、遠目から見ても目の色が青いのが分かる。  レベルの問題ではなく、彼は外国人に違いなかった。交換留学生だろうか。確か夏休み前に先生が二学期から留学生が来ると言っていた。 (……彼がそうなのかな)  当然ながら初めて見る顔で、うちの制服を着ているからには生徒に違いなかった。  その白人特有の白い肌は透き通る硝子のようで、金髪も含めた色素の薄さは病的に儚くも見え、彼が校舎の中に消えるまで、飽きることなく彼を見つめていた。  その年は異常気象が続いていて、9月に入ったというのに異常なほどに暑く、連日、30度を越える真夏日が続いていた。 「あぢー」  誰もがみんな下敷きを団扇(うちわ)に見立てて、パタパタと自分を扇ぐ。そうこうしているうちに朝の慌ただしい時間が過ぎ、担任の池間先生がやって来た。 「おらー、席に着けよー」  池間先生は間延びした沖縄なまりが特徴の先生で、散り散りだったクラスメートがそれぞれの席に着く。ざわざわと賑やかな中で始業式の予定やら一通りの連絡事項を伝達した後、 「んじゃ、ちょっと……」  そう言うとドアを開けて顔だけを廊下に出し、 「もういいぞ。入れー」  廊下で待たせてあるであろう、誰かを呼んだ。

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