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第10話

 給食を食べ終えたばかりで、幸い、まだ休憩時間はたっぷりあった。こんな時は一人になりたくて、とっておきの秘密の場所へと向かう。  次の授業は国語で、教室移動はしなくてよかった。少し昼寝もできそうなくらいに時間に余裕もあり、知らず知らず早足になる。  少しずつ生徒で賑わい始める廊下。この町の出身で父さんと同級生の先生とすれ違いざまに、父さんの近況を聞かれた。  目の前の階段を駆けのぼる女子生徒。彼女の短いスカートが揺れるのをなるべく見ないようにしながら、少し仰向いて階段をのぼる。  僕らの中学校は、一学年に一クラスしかないような小さな学校だった。校舎の一階が職員室と保健室で、二階部分に一学年に一つずつ、三つの教室がある。  二階の階段をのぼると踊り場があり、そこにある鉄の重い扉を開けると……、  ――目の前に広がる青。  二階建てと言ってもそれなりの高さがあり、校舎の近くには隣の体育館と特別教室棟しかない。つまりは視界を遮るものが何もなくて、空一面と目の前に広がる海までもが見渡せる。  数年前の転落事故により、屋上を訪れる生徒は少なかった。その日も貸し切り状態で、大きく深呼吸をした。この広い空も青い海も全てを独り占めできる、なんて贅沢な時間。 「んーっ」  大きく伸びを一つ。辺りに人がいないのを確かめてから、学生ズボンのポケットを探った。 「あ、あったあった。潰れてないかな」  ポケットを探る人差し指にかちりと冷たい感触。両手にすっぽりと収まるサイズのそれは、小学校の音楽の授業で使ったものと同じだけど、使用方法や様式が全く違う。  整然と並んだ穴は半分しかなく、一つの穴を吸う時と吹く時で違った音が出せるため、こんなに小さなサイズになっている。  所謂、ブルースハープと呼ばれるハーモニカを手に取り軽く口をあてた。  いきなり音は出さず、最初は音が出るか出ないかの加減で何度か息を吹き込む。これは冷たいボディを温めることで柔らかな音になるからで、子供の頃に父さんから教わった。  父さんは学生時代からバンド活動をしていて、この頃も同級生らと自分の店でライヴをしたりの音楽活動をしていた。  そんな父さんからはブルースハープは勿論ギターも教わっていて、実は、今でもこっそり練習していたり。

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