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第11話
つまりは父さんや父さんの友達とバンドのまね事もしていたのだけれど、それはクラスメートには内緒にしていた。あくまでも目立ちたくない、嫌われたくない気持ちが大きくて、言うつもりもなかった。
両手で包み込んだそれがだいたい温もったところで、僕は本格的に演奏を始めた。
少し掠れたような音が出るのはポケットに入れていたせいで、埃 か何かが詰まってしまったからだろう。
(どうしよ……)
まあ、別にいいかとあれこれ考えていたのはここまでで、気付けばいつの間にか僕は自分が奏でる音に陶酔 していた。
自画自賛じゃないけど、好きな曲を演奏するのは気持ちいい。誰にも聞かれていないし、ちょっとだけ歌ってみたり。
「ラララ……」
僕の歌声とブルースハープの音色が青い空に溶けた。英語の歌詞で、わからない部分はラララで。こんな趣味があるって知ったら皆、どんな顔をするだろう。
この町にある学校のクラスは一学年に一つだけ。つまり、クラスメートは皆、幼稚園から同じ顔ぶれだ。
目立ってしまうととかく反感を買いやすくて、それが嫌で今まで来た。かけてる眼鏡もそれほど度数が高いわけじゃなく、近視といっても授業中に黒板を見るのに必要なぐらいだ。
ブルースハープの腕前にしても歌にしても、特別上手いわけじゃないし。僕ぐらいの人は大勢いるし、ただ、音楽が溢れる環境に育ったお陰で皆より少しだけ出来るだけだ。
いつしか夢中になっていた。周りの音も全く聞こえない。この場所にいるのは僕だけで、この広い空も青い海も僕が独り占めしてる。
ゆっくりと目を閉じた、その時、
『ビートルズ?』
日本語英語の発音の抑揚 のない声じゃなく、流れるような正規の英語の発音で誰かが言った。
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