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第12話

「え」  目が合った。目の前に広がる空と海と同じ色をした瞳の持ち主と。僕が歌っていた曲はビートルズの代表作。夢中で歌っていたせいか、僕は近づいてきた彼の気配に気づかなかった。 「すき?」  少し舌足らずで危なっかしい片言日本語でそう聞かれて、どきりと胸が跳ねたっけ。 「ビートルズ」  そう言われて、初めて自分のことが好きかと聞かれているんじゃないことに気づく。 「あ、うん。好き。大好き」  思わず声が上ずってしまった。初めて交わした会話は好きかと聞かれて好きと答えたそれで、今思い出しても何故だか胸が苦しくなる。  顔を上げた僕の視線のその先で、お日さまを背負った彼が笑っていた。  ねえ、ジョン。君は僕の歌に惹かれたと言ってくれたけど、だとしたら僕の気持ちが通じたんだね。  あの時の僕が歌っていたのはラブソング。ただただ君と話をしてみたくて、その歌にありったけの思いを込めて。  ようやく彼の視界に入った僕は緊張して、上手く喋れなかった。彼の片言の日本語での質問に、『うん』『そう』と答えるか、ただ首を横に振るだけ。 「なまえ。なに?」  そう聞かれて少し悲しくなったっけ。確かに目立たない僕だけど、出会ってからはずいぶん経つのにって。 「木田」  なんとか笑顔を作ってそう言うと、 「ちがう。ファーストネーム」  木田は知ってるよと言われてホッとするも、一瞬なんのことかと考えてしまった。 「ああ。純」 「6がつ?」  彼と僕との会話はいつもこんな風。最初の頃は要領も得なくて、一つの会話にずいぶんと時間が掛かった。 「えっと、確かに六月生まれだけど……」  彼に聞かれて初めて気づく。英語で六月は確かに『ジュン』で、もしかして僕の名前を決める時に両親は、このことも含めて名付けてくれたんだろうか。 「六月の『JUNE』じゃなくて、漢字で書くとね。こう」  そう言って、生徒手帳のメモ欄に『純』と書く。 「えっとね。漢字の意味はピュアとか……」  そう言った瞬間、急に恥ずかしくなった。  純粋なんて、とんでもない。僕は彼のことをピュアの反対、不純に歪んだ気持ちで見ていたのだから。

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