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第14話
どこまでも青い空と澄んだ空気。それに、目の前に広がる海があの頃の僕らの全てだった。
「ロンドン、か。遠いね」
フェンス越しに眼下に広がる青を眺め、思わずぽろりと零してしまう。短期留学生のジョンは当然、留学期間を終えれば帰国する。この海を渡って、ずっとずっと遠くの国へ。
「くる?」
「え」
「ロンドン。いつか」
案内するよとジョンは笑って、少しだけジョンが住む街の話をしてくれた。ジョンの両親がビートルズが拠点としていたアビー・ロード・スタジオの近隣に移住したのは、両親が結婚した直後のことだったらしい。
ジョンの両親もうちの両親と同じように大人になってもバンド活動を続けるほどの音楽好きで、ジョンも子供の頃から自然と音楽に触れていた。ブルースハープやギターも僕と同じように父親から教わっていて、そうなると屋上では自然とセッションが始まった。
アコースティックギターを持ち込めればよかったが、ギターは目立ち過ぎて無理だった。だから、どちらかが歌えばもう一人がハモニカを吹いて応戦する。
「ラララ……」
英会話ができない僕だけど、歌詞になると話は別だ。分からない所は『ラララ』でごまかしながらも、僕らの音楽は空へと消えていく。
ジョン。君は分かっていたんだね。案内するよと言ってくれたけど、それは叶わない夢だって。
それでも君は笑って、僕は無理矢理、君に約束させてしまった。
「ほんと? 約束だよ。じゃ、指切りげんまん!」
「ゆびきりげんまん?」
君はそれをどう思ったのか、それでも笑って指切りしてくれた。
ねえ、ジョン。僕と過ごした短い時間、君は幸せだったのかな。僕は君に出会えた。それだけで幸せだったと断言できるよ。
結局は君が急に帰国したことが悲しくて、君を忘れようとしてしまったけど。
「よう、木田。久しぶり」
「あ、村田くん。村田くんもうち受けてたんだ」
「あのさ、ジョンって覚えてるか?」
「……あ、うん」
「ジョンさ。帰国したその日に亡くなったらしいよ」
中学の卒業式以来だったかな。久しぶり会った村田にそう言われた。
「え」
大学の入学式。三年振りぐらいに顔を合わせた講堂で。
その一言をどうしても信じたくなくて、子供だった僕は、その一言と一緒に君と過ごした日々の記憶までもを消してしまった。
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