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第15話
どうして消してしまえたんだろう。どうして君がいたことをなかったことになんて、そんなひどいことができたんだろう。君と過ごした毎日はあんなにも楽しくて、僕にたくさんの笑顔をくれたのに。
いつだったか、君は本当は夏休みの間に来たかったってそう言っていたね。
「そらに大きな……」「打ち上げ花火?」
「そう、それ。見たかった」
浴衣を着て団扇 を片手で持って、縁側に座って風鈴の音を聞きながら。
後日、聞いた話によるとジョンは来日直前に体調を崩してしまったらしく、結局は夏休みを病室で過ごし、9月から日本へやって来た。打ち上げ花火や夏祭り、海水浴も楽しみにしていたらしく、しょんぼりと肩を落とす君がなんとも子供のように可愛くかった。
「じゃあさ。土曜日、うちに泊まりに来る?」
思わず言ってしまったら、間髪入れず、
「えっ、いいの?」
と、ジョン。
ぴょこんと尖った耳を立て、ふさふさのしっぽを振ってる場面が目に浮かんだ。ジョンはなんだか犬のようだ。180センチを越える長身だから、大型犬ってところだろうか。
子供の頃、少しの間だけ親戚から預かっていた子犬を思い出した。ジョンという名前の豆柴で、とても人懐っこい犬だった。奇しくも同じ名前の彼も真っすぐで、素直で、きらきらと好奇心で瞳を輝かせて、
「じゃあ、ゆびきり!」
覚えたばかりの指切りをねだる。
幸いその約束は、ちゃんと守ることができた。僕は針千本を飲まなくて済んだ。ただ、僕が呼んだのはジョンだけのはずだったのに、どこで嗅ぎ付けたのか村田も一緒で、
「よしっ。ジョン、行くぞっ!」
「ばうっ!」
夕暮れの砂浜。意気投合した二人が砂の上をはしゃいで駆け回るのを見て、僕はただお腹を抱えて笑った。
夕暮れから三人で散々、はしゃいだ。
「ワオ、イッツ・ビューティフル」
「わあ、綺麗」
「そだな」
夕闇が迫り、夕日が地平線へ沈むのを飽きることなく眺めた。
すっかり夕日が沈んでしまい、辺りを闇が支配する頃、
「いくぞー」
村田は間の抜けた声でそう言って、近所の店で買った花火を打ち上げてくれた。
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