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第16話
勿論、本物の打ち上げ花火には敵わない。一瞬、パンと音がしただけで大輪の花が咲くでもない。
それでもジョンは嬉しそうに笑って、ずっと夜空を見上げていた。僕はと言えば、しゃがんで花火に火をつける村田の背中をぼんやり見つめていたっけ。
その背中が思ったよりも大きく、頼もしくて胸がきゅんとなる。
夏が終わり秋が始まったばかり。明日は秋祭りだというのに、なんだかとても切なくなった。
「ああ、これで夏も終わりなんだなあ……」
なんて、とんちんかんなことを思って。
思えばとっくに終わっていた夏だったけど、君がいた夏はあの日に終わったんだね。二人で見惚れた打ち上げ花火。村田が打ち上げてくれた花火そのものより、僕らは満天の星に見惚れた。
君はとても背が高くて、こっそり盗み見た横顔。見ようとしたら、花火と同じに見上げる形になる。
瞬間、指先に触れた冷たいもの。それが君の指先だと気づくのに、数秒と掛からなかった。
どちらからともなく、少しずつ指先から絡めていく指。しゃがんだ村田の背中に気づかれないように、こっそりと二人、手を繋いだ。
今思えばあの時、村田も気を遣ってくれてたんじゃないかな。花火に火をつけない時でもずっと海を眺めて、僕らに背中を向けたまま話していたから。
「それじゃ、おやすみ。また月曜日」
村田はそう言って、ひとしきり遊んだ後に帰って行った。
午前中の授業が終わった僕らが向かった先が海。学校の前のパン屋から買ってきたパンと牛乳を昼飯にして、それから三人でたっぷり遊んだ。
「じゃ、帰ろうか」
「うん」
村田を見送った僕らは、再び手を繋いで僕の家へと向かう。幸い小さな町のこと。夜に出歩く人影もない。たまに自転車のライトが前方に見えたら二人、どちらからともなく手を離した。
それが何を意味するのか、その時の僕らには分からなかった。お互いの国の文化の違いもあるし、きっとお互いに相手の国では、同性でも友達同士で手を繋ぐものなんだぐらいに思っていたんだと思う。
ただ一つだけ言えることは、その時の僕は何故だか繋いだその手を離したくはなかった。
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