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第17話

 9月の半ばも過ぎ、季節的にはすっかり秋だった。だけどその夜は僕らにとっては紛れも無い夏で、家にたどり着いた僕らは母さんに浴衣を着せてもらった。 「……なんか、ボクのジュンのとちがう」 「ぶふふっ」  ジョンは父さんの浴衣を着せられた。案の定、丈が短くて笑ってしまう。それでもジョンは嬉しそうに、家の中をきょろきょろと見回していたっけ。  当時の僕の家は古い日本家屋で、襖や畳、縁側なんかの日本特有のものが珍しかったんだろう。ジョンは日本の勉強もしていたらしいけど、軽いカルチャーショックを受けていた。  この町は田舎町で、都会に比べれば日本の伝統や文化も残ってはいる。それでも、どうやらジョンが考えていた日本とは違ったらしく、僕の家に来て初めて日本らしさを感じたらしかった。  縁側に座ってジョンと二人、線香花火に火をつけた。風鈴の音とパチパチと弾ける火花の音をBGMに。  傍らには陶器のぶたの入れ物に入った蚊取り線香。少し肌寒かったけど、僕らは日本の、偽物の夏を楽しんだ。  ねえ、ジョン。君は覚えてるかな。  君を記憶から消していた僕が言うのはなんだけど、あの夜、手を繋いで眠ったこと。本当のことを言うと一睡もできなくて、僕はずっと寝たふりをしていた。  そしたら、最初は別々の布団で眠ってたはずなのに、いつの間にか僕は君の腕の中にいたよね。君の熱い視線を感じて胸がドキドキして、僕は目を開けることができなかった。  それからなんか柔らかいものがおでこに当たって、その場所がとても熱くなったこと、君も気づいていたよね。それはイギリスでは挨拶なんだろうけど、日本では少し意味が違うんだ。  くちびる以外の顔中にキスされた僕は、余計に眠れなくなった。  ――翌朝。  それでもどうやら少しだけ眠れたようで、 「おはよ」  そんな声に目覚めてみれば、隣り合わせに並んだ布団の中。右を向けば、満点の笑顔の君と目が合った。 (……夢だったのかな)  なんて、一瞬思ったけど。 「あら、純。蚊がいた?」 「え、なんで?」 「ほら、ここ。首んとこ」  そう言いながら母さんに手渡された手鏡を覗くと、鎖骨の辺りが赤くなっていた。  当時、まだ子供だった頃の僕には分からなかったけれど、あれって……、あれだよね。  所謂(いわゆる)、キスマークってやつ。

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