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第18話
不思議に思ってジョンに目線を移したら、ジョンは真っ赤な顔でふいと顔を背けたっけ。今になって思えば、その頃から僕のことを特別に思ってくれてたのかな。
その日は日曜日。朝食を食べ終えた僕らは父さんがやっている喫茶店の方へ行き、当時、まだ作成途中だった音楽スタジオを見学させてもらった。
「いいね。パパさん、あっちはステージ?」
これまた興味津々なようで、ジョンはきょろきょろとあちこちをうろついて父さんも合わせて三人でセッションしたり。
父さんと僕がエレキギター。ジョンはブルースハープとアコースティックギター。歌はそれぞれがそれぞれのタイミングで歌い、楽しい時間を過ごした。
とにかくジョンは、ギターも歌も上手かった。それから、ブルースハープも。年齢的には無理があるけど、本当にジョン・レノンの生まれ変わりなんじゃないかと思うくらいに。
父さんと三人、セッションを始めた曲はロックのスタンダードナンバー。ジョン・レノンがソロアルバムでカバーしている曲で、時間を忘れて没頭したっけ。
どうして忘れられたんだろう。どうやって記憶から消してしまえていたんだろう。
封印していた蓋を開けると湯水のように、あの頃の記憶が溢れて来る。
君と過ごした三ヶ月と短い期間。君はいろんなものを僕にくれたよね。僕は君に何かをあげることができたかな。
その日の夕方。僕らは再び浴衣を着込み、秋祭りに出掛けた。漁師町特有のささやかなもので、おみこしを担いで海に練り込むお祭りだ。
体力に自信のない僕らは見学側に回り、大人に混じって先頭で担ぐ村田にエールを送った。褌 一つの姿は見ているこちら側は寒いのに、額に球の汗が浮かんでいる。
「かっこいい。村田」
「うん。ほんと」
「ジュン、ある?」
「ん?」
「おみこし持ったこと」
担 いだことがあるかってことなんだろう。少し笑って、首を横に振る。
「ジョン。持ちたい?」
「うん。けど無理。だからジュンと一緒に見る」
そう言って僕らは手を繋いだ。人込みの中、誰にも知られずこっそりと。
今思えば君は、激しい運動は見学していた。君の命のカウントダウンは着実にゆっくりと、その時もされていた。
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