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第20話

「ジュン。赤いのあげる」  君はそう言って、赤い金魚を僕にくれたよね。 「黒いのはボク」  そう言って、赤と黒、二匹の金魚をビニール袋に入れてもらった。 「あれ、兄ちゃん。それだけでいいのかい」  ざっと見積もっても15匹はくだらなかった戦利品。 「うん。あとはいらない」  君は一瞬、泣きそうな顔をしたけど、夜店の金魚は飼うのが大変だってことを知っていたんだね。きっとすぐに死んでしまうって。  帰り道。黒い金魚を欲しがった理由をジョンは照れながら教えてくれた。 「ジュンの髪と目の色と同じ色だから。とてもきれいな色だから」  黒が綺麗だなんねて初めて聞いた。真っ黒に塗り潰された、この色が綺麗? 「うん。とてもミステリアスで」  ジョンは一瞬真面目な顔をして、 「え、ちょっ!」 「じゃま」  そう言って、僕の眼鏡を奪ってしまった。 「目、かくすのだめ。きれいな目」  言ってみれば僕のはぼんやりと月が浮かぶ夜のような漆黒の色で、ジョンのは太陽が笑っているどこまでも青く澄み渡った空の色だ。 「ジュンはきれい。髪も目も、心もぜんぶ」  君はそう言って、誰もいない神社の境内で抱きしめてくれたよね。 「ボクはきたない。思っちゃだめなこと。いま、思ってる」  片言の日本語でそう言って、ジョンは口をつぐんでしまった。どうしてそんなことを言うのか聞きたかったけど、結局僕は聞けないままで。  ねえ、ジョン。君は自分が汚いって言っていたけど、それを言うなら僕も同じだよ。君は本当に綺麗だった。その顔も、心も、その存在の全てが。  僕はそんな君のことを独り占めしたくて仕方なかった。君が誰かと笑うたび、嫉妬で胸が張り裂けそうだった。少年の僕が初めて経験した感情は、少年の僕を散々苦しめた。 「……ジョン?」  あの時、君は顔を僕の首に埋めて、何か独り言を言っていたね。 『……純。俺、死にたくないよ。生きたい。だから帰ったらすぐ、移植手術の準備に取り掛かる。絶対に約束を守ってみせるから』  君が何を言ってるのかは分からなかったけれど、あの時、僕はとても幸せだった。

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