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第23話

 天王寺が「本当に腹を満たす以上のものでなくて悪いが」と言いながらダイニングテーブルに並べたのは、綺麗に盛り付けられたボロネーゼだ。 「美味しいです。このソースはどうやって作るのですか?」  ありがたくいただきながら、あんなに短時間でこんな……と感心したましろを怪訝そうに見た天王寺は、キッチンから持ってきたパッケージを見せてくれる。 「湯煎するだけだ。誰にでもできる」 「あ、コンビニエンスストアで売っているのを見たことがあります。これはこんなに美味しいものだったのですね」 「……………………それでも一応コンビニくらいは行くんだな」 「お友達にくっついていくだけなのですが、色々なものが売っていて楽しいです」 「友達、か」 「今度、自分でも買ってみますね」 「まあ、急いでいる時にはあると便利だがな……袋を開けるときに火傷をするなよ」 「き、気をつけます……!」  やりそうだと思って真剣に頷いたのに、何故、疲れたような顔をされてしまったのだろうか。  ましろが食べている間に、自分の分をさっさと食べ終えた天王寺は、しばらく黙っていたものの、「そういえば」と立ち上がった。 「お前に預かってほしいものがある」  こんな風に改まって頼まれるなんて、なんだろうか。  天王寺はベランダに続く窓を開けると、何かの鉢を持って戻ってきた。 「これは……」  白い陶器の鉢には、観葉植物が植わっているのだと思われるが、ほとんど葉がなくなってしまっている。  微かに残っている葉や茎には何かに喰われたような痕が見られ、受け取りながら虫だろうかと確認した。  これほど葉がなくなってしまっている場合、虫の姿を確認できないということはまずない。  しかし、虫が這っている様子はなく、土も健康そうだ。  何があったのかと視線で問いかけると、天王寺は苦々しげに頭をかく。 「先日、人から譲られたものなんだが、うっかりその辺に置いておいたらシロがこんな風にしてしまって」 「猫ちゃんは草を食べるのですか?」 「草食動物のように栄養素として必要としているわけではなく、毛玉を吐くためだとか、消化を助けるためとか、口に入れた時の感触が好きだとか、食べる理由は諸説あるようだ。食べない猫もいるらしいが……うちのは好きだったということだろう」  そういえば、花屋に行くと「猫草」が置いてあることがあるな、と思い出す。  キャットニップのような、猫の好む香りのものかと勝手に想像していた。  食べるものだったとは。 「これは……テーブルヤシですか?」  観葉植物には、毒があり口にすると危険なものは多い。  テーブルヤシに関して毒があるときいたことはないので、食べてしまったとしてもその点は安心できる。 「この状態で、よくわかるな」 「い、いえ……」  感心されてつい照れてしまったが、特に専門的な見立てではない。  テーブルヤシは育成しやすいため、よく見かける観葉植物であり、あとは僅かに残った葉から容易に推測できたと言うだけのことだ。 「お前なら、こいつを元気にできるんじゃないか」 「大丈夫……だと思います。少し弱っているようなので、すぐに元通りにはならないかもしれませんが、テーブルヤシはとても丈夫ですし、根が傷ついているわけではないので、なにもしなくても、適切な世話をしていれば新しい芽が出てきます」 「うちに置いておくと、またいつシロに狙われるかわからない。回復するまでに置く場所を考えておくから、預かってくれないか」 「あ……も、もちろんです。その、できる限りのことはします」  実際、水加減に気をつけて寒過ぎない場所に置いておくくらいしかできることはないのだが、どんな些細なことでも、天王寺に頼ってもらえたことが嬉しい。  感動していると、音もなく忍び寄ったシロが華麗にダイニングテーブルの上に乗ってきて、ましろは慌てて小さな鉢を天敵から庇うように抱きしめた。

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