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第69話

 背後にシャワーの音を聞きながら、貸してもらったルームウェアを身につける。  ふうと吐き出した息は、何だかちょっと熱い。  これは十分に温まった……と考えるべきなのかどうなのか。  風呂が沸き、どうしようと逡巡している間に強引に浴室まで連れて行かれたが、しかし一緒にシャワーを浴びるようなことにはならなかった。  天王寺はましろの服を脱がすと、「ここにいるから、気分が悪くなるようなことがあれば声をかけろ」と浴室に押し込んで扉を閉めた。  恥ずかしいと言ったから気を遣ってくれたのだろうか。  ほっとしたような、拍子抜けしたような複雑な気持ちで入浴を始めたものの、扉一枚向こうに天王寺がいると思うと、何だかそわそわして、体が熱くなってのぼせそうになったため結局早々に上がってしまった。  恐る恐る浴室から出ると、やはり予想よりも早かったのか、ちゃんと温まったのかと訝しまれてしまい、必死で頷いた。  「確かに血色が戻ったな」と顔色を確認してくれた天王寺は純粋に心配してそばにいてくれただけなのに、邪念の多い自分が恥ずかしい。 「俺もシャワーを浴びたいから、ベッドに行って寝てろ」  そう言ってバスタオルを押しつけた天王寺は、浴室に消えた。  髪と体を拭いて服を着ると、言われた通り寝室に移動して、ベッドに横になる。  時間は深夜を通り越し明け方と呼ばれる時間にさしかかっていて、一晩のうちに色々なことがあり、とても疲れているはずだが眠気はない。  借りた服もベッドも天王寺の匂いがして、ほっとするような落ち着かないような、ドキドキしながら天王寺を待っていた。  足音がして、控えめに名前を呼ばれ、ドアが開いたのでぱっとそちらを見る。 「……眠れないか?」  眠っていた方がよかったのだろうか。  天王寺が何故か寝室に入ってこようとはせず、戸口から話しかけているのを不思議に思っていると。 「すぐには眠れなくても、横になっていた方がいい。俺は向こうのソファで寝てるから、何かあったら起こせ」 「えっ………」  そのまま行ってしまう気配に、ましろは慌てて飛び起きる。 「ましろ?」  急いで駆け寄ると、天王寺は驚いた顔で抱き止めてくれた。 「どうして……わ、私はまた何か……」 「落ち着け。一瞬で絶望した顔になるな。そういうことじゃなくて、今日は流石に、一緒に寝てお前に何もしない自信がないだけだ」 「え」  どういう意味か、天王寺の言葉の意味を考えたら頬が熱くなった。 「で、でも……」  想いが通じ合ったのだから、何でもしてもいいのではないだろうか。  何故遠慮されているのかよくわからずもじもじと見つめ返すと、天王寺は難しい顔になった。 「今は色々あったせいで興奮していてわからなくなってるかもしれないが、疲れてるはずだ。これ以上無理をしたら明日体調を崩すかもしれない」  心配してくれているのは嬉しいが、体調が悪いことよりも一緒にいてもらえないことの方がましろは嫌だ。 「わ、私は、ちー様になら何をされても平気です」  そういうことを言うなと小さく叱った天王寺だが、一つため息をつき、折れてくれた。 「ちゃんと警告はしたからな」  促され一緒にベッドに入ると、すぐにぎゅっと抱きしめられる。 「ましろ……お前、随分あったかいな」  低い声を耳元に吹き込まれただけで背筋を怪しい感覚が走り、ましろは赤くなった顔を隠すように目の前にある胸元に顔を埋めた。 「これはその……、ドキドキしてしまって……」 「それは、期待されていると思っていいのか?」 「も、申し訳ありません…」 「何で謝る」 「こんな……貪欲で、呆れられてしまうのではないかと不安です」  それでも密着した天王寺の身体も熱くて、鼓動も早いような気がするから、逃げ出さずにいられる。  ましろ、と呼ばれ、恐る恐る顔を上げると、優しい瞳に唆すように覗き込まれて、そこから目をそらせなくなった。 「貪欲というほどどんなことを期待したのか、言ってみろ」 「い……一緒にいて、抱き締めてもらって…」 「それから?」 「そ、それから……………、」  何をどうして欲しいと、具体的に考えていたわけではない。天王寺以外の誰にも恋をしたことがなくて、経験がなさすぎて、どんなふうに伝えればいいかわからない。 「たくさん……愛していただけたら……」  何をされても平気だと言ったのは、本当の気持ちだ。  わからないから、素直に思ったことを伝えると、至近の瞳が細くなる。 「今言ったことは、全部俺のしたいことだから、お前は『させてやってる』くらいの気持ちでいればいい」  柔らかく笑った、彼の整った顔が近付いてきて、唇が重なった。

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