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第70話

「っあ……」  試すようにそっと触れた唇はすぐに離れ、思わずこぼれた吐息を奪うように、今度は深く重なる。  するりと入り込んできた舌に、ましろも恐る恐る舌を絡めた。  ずっと、天王寺の気持ちがわからず、求めることも応えることもしてはいけないと思っていたけれど、もう、素直に自分の気持ちを伝えてもいいのだ。 「……ん、ふぁ……、んん」 「……っ……、ましろ」  欲しがるように舌先を吸うと、至近の体温が上がった気がした。  密着しているので硬くなったもの同士が擦れて、反射的に逃げそうになった腰を、回った手に再び強く抱き寄せられる。 「んんっ……!」  唇を合わせたまま、天王寺は体勢を入れ替えた。  ましろをベッドに縫いとめるように覆い被さり、反応している場所をぐっと押し付けられる。  びくんと敏感な身体が跳ね、キスとその刺激だけで弾けてしまいそうで、危機感を覚えて身じろぐと、天王寺は顔を離した。 「、…悪い、苦しかったか?」 「……は、……っ」  気遣ってもらっても、本当のことを言うのが恥ずかしくて、ましろは真っ赤になって黙り込む。  上手く息ができてなくて苦しかったのも事実なので、そう言って誤魔化してしまいたくなったが、それでは何の解決にもならない。 「あ、あの……こ、このままですと、お借りした服を、汚してしまいそうで…………」  小さくなっていく声を、近いからだろう、天王寺はきちんと拾い上げてくれた。  そんなこと、と額に宥めるようなキス。 「別にいくらでも汚していい…が、あまりお行儀の悪いことをして、お前に呆れられてしまうと困るか」  優しい声音に促されるまま、服を剥ぎ取られ、隔てるもののない素肌が重なり合った。 「もっと、お前に触れてもいいか……?」  上手く言葉が出なくて、こくこくと何度も頷く。  直に感じる体温、身体を辿る熱い手と唇。初めてするわけでもないのに、ゾクゾクする感覚と身体の奥から湧いてくるような熱さを持て余し、ましろはどうしていいのかわからなくなってしまう。 「ち……さま……、」  心許なく呼ぶと、ぎゅっと手を握られて、ほっとする。 「……恐いのか?」  天王寺やこの行為を恐れているのだと誤解されないかという不安はあったが、ましろは素直に頷いた。 「ちー様に触れていただくと、嬉しくて、気持ちが良くて……どうにかなってしまいそうで、少し……恐いです……」 「俺も、お前に触れる時は、お前への想いが強過ぎて、壊してしまうんじゃないかといつも恐い」  いつもそんな風に思っていたなんて、と、俄かに信じられない想いがしたが、そっと頬を撫でた手は、彼の言う通り微かに震えている。  天王寺も同じなのだと思ったら、そういうものなのかもしれないと少し安心した。 「それでも結局、お前に触れたい欲に負ける」 「ぁ………!」  胸に顔を伏せた天王寺が、尖ったそこに甘く歯を立てる。  吸われ、舌で転がされると、素直な声がぽろぽろとこぼれ出てしまって恥ずかしい。 「ん、ぅ…あっ、あ…、あっ」 「…もっと、お前の声を聞かせろ」  欲望を抑えたような掠れた声にドキドキして、息が上がってしまった。 「わ、わたしも……、」 「……ん?」 「ちー様の声が…もっと…、聞きたいです…」  不意に顔を上げた天王寺が、驚いたような顔をしていたので、変なことを言ってしまったかと焦る。 「あ、あの、ごめんなさ…、んっ」  天王寺は「謝らなくていい」と、軽いキスで言葉を遮った。  そして、何故か苦笑いのような表情を作り。 「、……お前が言ったんだからな。笑ったり引いたりするなよ」 「……え……?」  それは一体、どういう意味なのだろうか。

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