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第77話

 開店の時間にはなったものの、本日一人目の客はまだ来ないため、碧井とバックヤードで雑談を続行することになった。  こういうこともよくあることで、だからこそ海河も長期休業にすることに躊躇いがなかったのだろう。  もちろん、いつ指名が入るかわからないので、プライベートほどリラックスするわけにはいかないが、この時間を使って、碧井に先日の一件について説明することができた。  ましろの様子などから既に大体察していたようではあったが、本人の口から聞けたことで、碧井はほっとした様子で祝福してくれた。 「……そっか、話してくれてありがとう。大変だったみたいだけど、ましろが無事で、天ちゃんとのこともうまく行ってほんとよかったよ」 「今回のことでは心配をかけしてしまって……、ミドリ、たくさん力になっていただいて、本当にありがとうございました」  そんなの気にしないで、と碧井は少し照れくさそうに笑う。 「ハクは大事な親友だから、手助けするのは当然でしょ」 「ミドリ……」 「これからは、ハクを守る役目は天ちゃんにお返しするけど、友達なのは、ずっと変わらないから。困ったことがあったらいつでも言ってよね」 「……はい、頼りにしていますね。これからも、宜しくお願いします」  困った時に碧井に相談できるということが、今までどれだけましろに勇気をくれたことか。  改めて言われると照れるな、と頬を掻いた彼に、感謝の気持ちがちゃんと伝わっていますように、と祈った。 「……で、クリスマスにはなんかプレゼントとかするの?」  恥ずかしい話はもうおしまい、と、碧井は話題を変えた。  そんなに照れなくてもいいのにと思いながら、ましろも応じる。 「何かしたいとは思うのですが、何をあげたらいいかわからなくて」  その時。 「神は言いました……プレゼントは自分にせよ、と……」  ましろの座るソファの背から、突然八重崎がニョキッと姿を現したので、正面の碧井は目を丸くしてのけぞった。 「うわっ!びっくりしたー」 「こ、木凪……驚きました……」 「クリスマスイブ……それは日本人にとって建国記念日よりも大切な日……」  敏い碧井にすら気配を感じさせず、じっと部屋の中に潜んでいたらしい八重崎は、驚かせたことを謝るでも、得意になるでもなく、淡々と話を続ける。 「愛する人には全裸リボンの自分をプレゼント……大事な場所を覆う包みを解いていいのは彼だけ……ケーキよりも甘い性夜……」 「まあ定番だけど……なんだかあんまりロマンチックじゃないね?」 「ハッピーエンドのその先をトゥルーエンディングにするためには……相互努力は不可欠……つまりプレイの多様性がカギを握ると言っても過言ではない……そして最も人を惹きつけるのは、エログロナンセンス……」 「一つ一つはもっともらしいんだけど、繋げると暴論なんだよなあ……」  相変わらず、八重崎と碧井の会話は難しくてよくわからない。  後で碧井にどういう意味だったのか聞いてみようと思いつつ、ひとまず八重崎にお礼を言うことにした。 「木凪、先日は色々とありがとうございました」  李との会食の時に一緒にいてくれたことも心強かったし、天王寺に連絡をしてくれたことも本当に助かった。  だから、心からの感謝を伝えたのだが。 「……昨夜は、お楽しみでしたね……」  八重崎の口から出てきたのは謎の言葉で、どういう意味だろうと首を傾げる。 「???……昨夜は、普通に仕事で、その後は特に何もありませんでしたが……」 「チッ……最近の若い者は……」  何故か、舌打ちをされてしまった。  なんと答えるのが正解だったのだろうかとしゅんとすると、碧井が隣で「気にしなくていいと思うよ」と慰めてくれた。 「お礼とかはいらないから……これ……よかったら使って……」 「これは?……あ、もしかして」  八重崎から渡されたのは、ラッピングなどに使うと思われる、赤いリボンだ。  天王寺へのプレゼントを包む時に使えということだろうか。  ましろが天王寺に何かプレゼントしたいと思っていることを予想してこんなものを用意してくるだなんて、やはり八重崎はすごい。 「全身は……自分で巻くのは難しいかもしれないから……お宝的なところだけでも……」 「おたから……?」 「こなぎん、純粋なハクに、あんまり変なこと教えないでよ」 「人は……日々性徴していくもの……」 「誤字なんだけど意味はこっちの方が合ってる気もしてくるしどう突っ込んでいいのか悩むからやめてそういうの!」 「???」  碧井は何に苦悩しているのだろうか?  やはり二人の会話はましろには難しい。

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