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不器用な初恋のその後8
『ましろ、どうしたの?彼と幸せ絶頂クリスマス中じゃないの?もしかしていじめられた?』
月華が開口一番、碧井と全く同じことを聞いてくるのでましろは驚いた。
二人の発想は少し似ている。
一度も話していない天王寺とのことを把握されているのには、月華ならば当然のことなので驚きはないが、今更どんな風に切り出したらいいかと不安な気持ちでいたので、軽い調子で彼の方からそんな風に言ってくれたことに、ましろは少しだけほっとした。
「月華、突然かけてしまってごめんなさい」
『ましろからの電話はいつだって嬉しいよ。それで?何かあったの?』
ましろは、天王寺と同居したい旨を素直に打ち明けた。
『なるほど。そうしたら、込み入った話もしたいから、一度二人で僕の屋敷まで来てくれるかな』
「え……、わ、わかりました」
『彼の都合のいい時間を連絡してよ。適当に空けとくから』
後日連絡をすることを約束して、手短に通話を終える。
ましろはふうとひとつ息を吐いて、ソファに腰を下ろした。
月華は快く対応してくれたのに、微かな不安が消えない。
どうしてそんな気持ちになるのかわからず、ぼんやり考え込んでいると、天王寺が帰ってきたので、シロと一緒に出迎えた。
「おかえりなさい、ちー様」
「ああ…、っ痛て、シロ、噛むな」
天王寺はましろに何か言いかけたが、こっちが先だとばかりに、シロが足を噛んで自己主張をしている。
いつもの餌の無心らしく、普段はこの時間にもらえてないだろとぶつくさ言いながらも、食事の時と違うおやつらしきフードを出してあげている天王寺の姿を見ていると、謎の不安はどこかへ行ってしまった。
「ましろ、お前昼は?」
「あ……、まだです」
聞かれて時計を見ると、すっかり昼時だ。
「なら外で適当に食べるか」
「はい!」
天王寺と出かけられるのが嬉しくて、ましろは元気に返事をした。
連れ立って部屋を出たところで、はたりと聞かれる。
「お前は何か、買い足すものとかないか。家に取りに行ってもいいとは思うが、消耗品なんかは買ってしまって置いておいてもいいぞ」
「私は……、今はスニーカーが欲しいです」
真剣に言ったのに、天王寺はぶはっと噴き出した。
「結ぶ練習なら、リボンを買えばいいんじゃないか」
「それは、そうなのですが……」
「まあ、一足くらいは持っていてもいいかもしれないな。革靴より楽だし」
天王寺のマンションから最寄りの駅前は、クリスマス当日ということもあってかとても賑わっている。
目に付いたカフェでランチをとって、その後は駅ビルに入っている靴屋に行った。
ましろは今まで、一人で衣類を買ったことがない。
誰かにセレクトしてもらった中から好みのものを選ぶという買い物がほとんどだったため、種類が膨大すぎて目が回りそうになってしまう。
いくつか気に入ったものの中から天王寺に選んでもらい、その次は、折角買ったんだからそのスニーカーに合うもう少しラフな服を買えと言われて、服を見た。
靴にしても服にしても、さっさと会計を済ましてしまう彼に、自分で買えると主張すると、天王寺はこの外出で、ましろにクリスマスプレゼントを買うつもりだったのだと打ち明けた。
「でも、昨夜……」
ましろをプレゼントした代わりに、ましろも天王寺を貰ったような。
昨晩のことを思い出して、赤くなりながらそのことを訴える。
天王寺は何故か視線を外し、咳払いをしてから答えた。
「まあ、そうなんだが、気持ち的なものだ。受け取っておけ」
「じゃあ、私もちー様に何かプレゼントを買います!」
張り切って、何か欲しいものはないですか?と聞くと、真似をしたと思われたのか、お前、実は意外と負けず嫌いだよなとまた笑われてしまった。
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