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不器用な初恋のその後9

 他に足りないものはないかと聞かれて大丈夫だと答えると、天王寺は「ならそろそろ出るか」と踵を返す。  それでプレゼントのことは有耶無耶になってしまい、ましろは少し釈然としない気持ちでいたのだが、ビルから出た途端、目の前に現れた光景に、そんな気持ちは吹き飛んでしまった。  建物の中にいた時はわからなかったが、外は既に暗くなっており、駅ビルの正面入り口前の広場には、中央にイルミネーションのツリーがあって、電飾を巻かれた周囲の木々と共に、キラキラと宝石のように瞬いている。 「ちー様、とっても綺麗です!」  一際輝くツリーを指差し、思わず子供のようにはしゃいでしまった。 「こういうのは、お前が住んでるところの方が綺麗なんじゃないか」  見慣れているらしい天王寺は、ここは特にイルミネーションが有名な場所でもないと苦笑している。  確かに、たくさんの人が歩いているが、写真などを撮っている人もそうはいない。  ましろの住んでいる場所の方が、観光地としては有名なので、綺麗な場所は沢山あるのかもしれないが。 「でも…たくさんの人が見に行く場所じゃなくても、ちー様と見るイルミネーションが一番綺麗です」  誰と見るかなのだと思う。  天王寺は「そうだな」と同意してくれて、寒い中、しばらく一緒にイルミネーションを見るのに付き合ってくれた。  十分楽しんでから、そっと隣の天王寺を見上げる。 「……ちー様」 「何だ?」 「実は、昼間月華に電話をしました。その…ちー様が昨日言ってくださったことで…」 「……彼はなんと?」 「込み入った話をしたいから二人で家に来て欲しいと……。ちー様、お忙しいとは思いますが、後日お時間をいただけますか?」 「もちろんだ」  力強く頷いてから、天王寺は「……込み入った話、か」と呟いた。  少し表情が固いのがわかって、ましろは申し訳ない気持ちになる。 「私の立場は…少し普通の人とは違うものなので…そういう意味で、ちー様にご迷惑をおかけすることがあるというのに…昨日は、自分の気持ちだけで返事をしてしまいました。ごめんなさい」  碧井に言われるまで、自分の立場について全く認識していなかった。  これでは彼の本当の気持ちに気付けず、背を向けさせてしまった子供の頃と同じだ。  己の浅はかさについ俯くと、そっと手を握られた。  視線を上げると、優しい瞳に覗き込まれて、ぎゅっと胸が詰まる。 「ちー様…、」 「昨日は…お前がすぐに頷いてくれて、嬉しかった。…ただ、一緒に暮らしたいというのは、俺がそうしたいからだ。もしもそれに何か、困難が伴うとしても、それは俺が望んですることだから、そんなことは気にしなくていい」 「ちー様が、したいから……」 「俺は、自分が望む未来のために力を尽くす。それが、お前の望みと重なっていれば、嬉しいと思う」  ああそうだ、彼はこういう人だ。  いつも、目先のことで精一杯のましろのもっとずっと先を見ていて、その道を示してくれる。  天王寺らしい言葉に、ましろは彼の手を握り返しながら、小さく頷いた。 「私も…ちー様と同じだったら嬉しいです」  視線が重なり、しかし天王寺はさっと視線を外すと、ましろの手を引っ張った。 「どこかで夕食をと思ったが、適当なところで買って帰るか」  どうして目をそらされてしまったのだろうと少し悲しい気持ちでいたら、不意に近づいてきた顔に、早く二人きりになりたくなったと囁かれて、頬が熱くなる。 「そ、そうですね、きっと、シロも待っていますから」 「……そうだな」  繋いだ手はそのまま、何となく足早になってしまうのが、ましろは少し恥ずかしかった。

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