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不器用な初恋のその後12

 月華との話が一段落したところで、天王寺と城咲も戻ってきた。  よく見ると天王寺は少し疲れたような顔をしていて、一体二人で何の話をしていたのかと心配になる。  目聡い月華は、天王寺が持っている紙袋に目を止めた。 「何その紙袋、お土産?」  城咲が答える。 「レシピだ」 「レシピ?」 「ましろの好きな料理と、体調ごとに必要な食材、それを季節ごとに」 「……一、そのレシピは、私がいただきますね」  聞いていられなくなって遮ると、城咲は眉を寄せる。 「いや、お前がするんじゃ意味が」 「意味?私の体調管理のことなら、私が知らなければそれこそ意味がないです。何故、私ではなく彼に話すのですか?」 「……すみません」  思わず詰め寄ると、城咲は苦い表情で謝り、それを見た月華がふきだした。 「やーい、怒られてやんの!」 「うるせぇ」  焦って少し言いすぎてしまったような気もする。  心配してくれる城咲の気持ちは有難いけれど、天王寺にはただでさえ迷惑ばかりかけているのだ。この上、食にも神経質な面倒な奴だと思われたくない。  微妙な雰囲気になってしまって、どうしよう、と思っていると、月華が「まあ千駿も座って、いただいたお菓子をいただきつつ、少し話をさせてよ」と仕切り直してくれたので、その場は気まずくならずに済んだ。  その後は、当たり障りのない話をして、月華が「悪いけど、そろそろ時間だから」と切り上げたところで、屋敷を辞した。 「ちー様、その…私が至らないばかりに、申し訳ありません」  天王寺が車の後部座席に大量のレシピの入った紙袋を置くのを見て、思わず謝る。  咄嗟に城咲を怒ってしまったが、そもそもましろがしっかりしていないから、未だに食生活の心配などされているのだ。  呆れられていないだろうかと恐る恐る窺うと、天王寺は「いや……」と首を横に振った。 「今日は、お前が大切にされていたことがわかってよかった」 「それは……はい。月華と出会ってからは、ずっと、私は大切にされていました」  月華との会話を思い出しながら肯定すると、天王寺は眩し気に目を細めた。 「もしお前が疲れていなければ、この後引っ越し先の候補地に考えている場所を見に行かないか?」 「行きたいです!」  ここからだと少しかかるぞと言われ、大丈夫ですと頷く。  遠いのは恐らく、天王寺のオフィスにも『SHAKE THE FAKE』にも近い場所を考えてくれたからだろう。  天王寺と一緒にいる時間は、あっという間に過ぎる。  話をしているうちに、車はコインパーキングへと滑り込んだ。  車を降り、先導されて少し歩くと、天王寺は住宅地の中にぽっかりと空いた、更地の前で足を止めた。  そこには関係者以外が立ち入らないようテープが貼られ、不動産会社の看板が立っている。  ましろは目を瞬き、念の為確認した。 「……ここ、ですか?」 「今日は車出来てしまったが、駅からほぼ曲がらずに来られるからお前でも迷いにくいだろう。近くに大きい道路もないから、静かだし」 「い、いえ、場所はとてもいいところだと思いますが、家を…建てるのですか?」  何か問題が?と聞き返されて、天王寺が今住んでいるような賃貸マンションの内見をするのかと思っていたと素直に伝える。 「俺一人なら賃貸で十分だが、集合住宅はまず動物可の物件にすると選択肢が狭まるし、カーポートがあれば月々の駐車場代もかからなくなる。長い目で見れば、そう悪い買い物ではないと思う」  全て正しくて、ましろは「そうですね」と小さく頷くことしかできなかった。  確かに、マンションだと隣の部屋との距離も近く、仕事柄どうしても夜中に出入りすることになるましろは、大丈夫なのだろうかと気になっていた。  芸能人が借りるような、防犯、防音に優れた億ションと呼ばれるような高級マンションをずっと借りておくよりは、安く済むのかもしれない。  けれど、世間知らずなましろにも、それが天王寺にとって小さくない買い物であることはわかる。  家を建てるというのは、長い人生のうち、何度もやることではないだろう。  これは、今の自分たちに適切な買い物なのか。  天王寺は、後悔しないだろうか。  ましろの至らないところを一番よく知るのは天王寺だと思うけれど、まだ一緒に暮らしてみたことはない。  ましろ自身のことだけではなく、この特殊な立場についても、対外的に気を遣うことは多いと思う。  一緒に暮らすことが、思った以上に大変で、疲れてしまったら?  自分は彼に、取り返しのつかない選択をさせてしまってはいないだろうか。

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