2 / 32

第2話

出会いは春。 新入生が入って、賑やかな校舎を移動教室へ行くのに歩いていた時だった。 昨夜、明け方まで恭弥に求められ、寝不足と疲労でフラフラだった。 階段を登っていた時、貧血で意識を失ってしまう。その時 「危ない!」 そう叫んだ声が聞こえた。 消え行く意識の中、陽だまりのような温かい瞳と目が合った。 (誰?…) 考えるよりも先に、僕は意識を失った。 幼い頃、祖母が自分から息子を奪った「相楽家」が憎いと話していた。 僕が生まれ、Ωだと知って祖母は泣いた。 「あぁ……又、相楽家の犠牲にされる」 と。 僕は呪われた子で、呪われたΩで生まれた。 名前もきっと、一生太陽の元には出られない日影の身だから「月夜」なのだ。 どんなに太陽に憧れても……僕は太陽にはなれない。 陽だまりで微睡むような穏やかな生活を、許されない呪われた血を受け継ぐ呪われた子。 この呪いは、いつ解けるのだろうか? 僕は暗闇の中に居た。 『大丈夫だから、泣かないで……』 優しい声が聞こえた。 その声は温かくて、僕の胸にほんわりと灯りが灯る。 温かい手が僕の頬に触れて、そっと涙を拭う。 (優しい声をした温かい手は……誰?) ゆっくりと頬から離れた手を、縋るように掴んだ。 目を覚ますと、そこは保健室のベッドだった。 「大丈夫?」 保健医の石井医師(せんせい)が顔を覗き込んで来て、僕の顔色を見る。 「はい……」 頷いて、手に何かを握っているのに気付く。 誰かの制服の上着だ。 「あぁ、それ。鵜森君を運んで来た子の上衣だよ。知り合い?」 そう聞かれ、制服の内ポケットの刺繍に目を留める。 『日浦太陽』 と記された名前に、自分とは対象的な名前だと苦笑いを浮かべる。 制服からは、晴れた日に干したお布団から香るお日様の匂いがした。 思わず抱き締めて、見知らぬ人の香りを嗅いでみると、何故か胸がぎゅっと切なくなった。 すると石井医師(せんせい)が飛び込んで来て 「鵜森君、抑制剤は?」 そう叫ばれて、驚いて石井医師(せんせい)を見上げると保健室のドアが荒々しく開いた。 「遂に来たか」 恭弥が嬉しそうにニヤリと笑い、僕の身体を肩に担ぎ上げて歩き出した。 「相楽君、待って!その匂いを撒き散らしたら危険だから!」 石井医師(せんせい)の言葉に、自分が今、ヒートを起こした事に気付いた。 恭弥は舌打ちすると 「ここでヤッても、俺は構わないけど?」 って言い出した。 すると石井医師(せんせい)は恭弥を睨みあげ 「ふざけるな!とにかく抑制剤を今、用意するから……」 と、歩き出した先生の肩を掴み 「此処で暮らしたいなら、余計な事すんな!」 そう言うと、恭弥は僕を肩に担いだまま歩き出す。 「恭弥、待って!上衣、返さないと……」 そう叫んだ僕に、恭弥は手にしていた上衣を奪い取り、その場に投げ捨てた。 「相楽君!」 必死に引き止める石井医師(せんせい)の腕を払い 「ずっとこの日を待ってたんだ!邪魔すんじゃねぇ!」 恭弥はそう一喝すると、そのまま学校をあとにした。

ともだちにシェアしよう!