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第10話
キスを落としながら、恭弥が僕の足を肩に担いで一気に挿入した。
「あぁっ!」
仰け反った僕の首に噛み付き、恭弥が腰を激しく打ち付けて来る。
Ωが狂わせているのか?
αが狂わされているのか?
答えは僕には分からない。
ただ分かっているのは、僕の身体は人を狂わせてしまうって事だった。
僕が出会った頃の恭弥は、優しかった。
育ちの良い、利発そうな少年だった。
鵜森の人間だからと、蔑む相楽の人達から僕を守ってくれていた。
『月夜、今日から俺がお前の番だ』
5歳で相楽家に連れて来られた日、恭弥はそう言って僕に手を差し伸べた。
『番?』
意味の分からない僕に、恭弥は僕の手を握り締めて
『ずっと一緒に居るって事だ』
そう言って僕の手をずっと引っ張ってくれていた。
恭弥は和風のちょっと冷たい印象を与える顔立ちだったけど、笑うと目が無くなって優しく見える。
いつでも、どんな時でも僕をの手を引いてくれていた優しい恭弥。
その関係が崩れたのは、中学に上がる少し前。
恭弥が夢精したらしく、相楽家の習わしで現当主の相手である鵜森の男が、次の当主へ男の抱き方を教えるのだ。
その日から、恭弥は変わってしまった。
初めて恭弥に抱かれたのは、恭弥が精通してからひと月後だった。
いつも通り、部屋で眠っていた僕を強引に抱いたのだ。
無理矢理身体を開かれる痛みに、僕はただ黙って恭弥が満足するのを待つしかなかった。
あの日から、恭弥は僕の意思とは関係無く無理矢理身体を僕の身体を開き抱き続けた。
そう…、まるで人形を抱くように僕を抱く。
相楽の人間だから、鵜森の人間を従えなければならないのは分かっている。
でも、力尽くでなかったら…もう少し僕達の関係は違っていたのかもしれない。
だって、僕は初めて出会った時、恭弥の美しさと優しい笑顔に心を奪われていたから…。
差し出されたあの手を、ずっと握って行こうと決めていたのに…。
氷のような関係は、そんな感情さえも失わせていく。
もう、あの日の僕達には戻れないんだと、僕はぼんやりと考えていた。
何回目かの放出を終えた恭弥が、ぐったりとした僕を抱き締めて泣いているようだった。
僕は意識が朦朧としていて、何故、恭弥が泣いているのか分からない。
そっと恭弥の頬に手を伸ばすと、恭弥が僕の手を掴んで掌にキスを落とす。
「月夜…ごめん」
その言葉は、夢なのか現実なのか分からない程に小さくて、聞き取れないくらいの声だった。
いつの間に、恭弥はこんなに悲しそうな顔をするようになったんだろう。
僕達は、何処で道を間違えてしまったんだろう。
朦朧とした意識の中、僕はゆっくりと瞳を閉じた。
『俺が月夜の運命の番だよ』
何処かで声が聞こえる。
『止めろ!月夜は俺の番だ!』
幼い恭弥の声が泣いている。
『でも…きみは月夜の運命の番じゃない』
『止めろ!止めろ!止めろ!!!』
悲鳴に近い恭弥の声。
目を開けると、保健室の天井が見えた。
(あぁ…、恭弥が運んでくれたのか)
夢の声が頭の中でこだまする。
あれは…いつの記憶?
思い出そうとしても、記憶は暗い闇の中へと吸い込まれていく。
目の上に手の甲を当てて溜息を吐くと、石井医師 が顔を出した。
「目が覚めた?」
心配そうに顔を覗き込まれ、僕はゆっくりと身体を起こす。
「先生は…何処まで知っているんですか?」
ぽつりと呟くと
「何処まで…とは?」
と、首を傾げられた。
「僕達の事、家の確執の事」
僕の言葉に、先生は小さく笑って
「さぁ…。知っているのかもしれないし、知らないのかもしれないよ」
そう答えて僕の顔色を見て
「大分良いみたいだね。それから、これ」
って、僕の手に薬の袋を手渡した。
「きみが飲んでいる抑制剤は、かなり弱い薬だ。もう、これに切り替えた方が良い。病院には、行ってるの?」
そう聞かれて、首を横に振る。
「ずっと…相楽の家から渡されている薬を飲んでいます。ただ、避妊薬に関しては…実家からこっそりもらっていますけど…」
と答えた僕に、先生は深い溜息を吐いて
「なるほどね。これ、避妊薬も含まれているから」
そう言われて僕は俯く。
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