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第3話 クリスの恋(1/8)

もう何年も前のことだ。 幼いクリスはいつも一人ぼっちでいた。 生まれついての真っ白な髪と、誰よりも白いその肌のせいで、産み落とされた瞬間から忌み子と嫌われ、強引に修道院に預けられたのだ。 彼の不運はそれだけに留まらない。 なるべくして内向的な性格に育ったため周りと馴染むことが出来ず、結果修道院に来てから卒院するまでの数年間、誰一人として彼と口をきいた者は居なかった。 黙々と神の教えや書物から得る知識を蓄えることに没頭した彼は、成績は極めて優秀ということで、卒院の際に大聖堂へ配属されたのだった。 10に満たない年齢で司祭として大聖堂へ配属されるのは異例のことだったので、周囲は大いに色めきたった。 見た目のせいもあり、あからさまな好奇の目に晒されることとなったクリスは、恐怖のあまり大衆の前で大号泣するという失態を犯す。 その瞬間から、彼への腫れ物扱いが始まった。 中には精神疾患を疑い、面白がってからかう心ない者もいた。 唯一味方をしてくれていた、教会側に所属する老齢のシスター、ヒルダが居たが、クリスは心を開けずにいた。 彼にとっては、ただ生きることが苦痛だった。 そんな折、国境にある都市より、若干12にして司教にまで登り詰めた少年が大聖堂へ赴任してくるという噂が立った。 なんて異例続きの年なのだと、しかし前の子は変わり者だったから、今回も…と人々が好き勝手に噂を楽しんでいるところへ、彼はやってきた。 周囲の好奇の視線など気にもせず、小さな身体で堂々と人々の前に立ち、神父の紹介に従って挨拶をする少年は、物陰からそっと様子を伺うクリスには眩しく、その場を逃げるように立ち去るしかなかった。 自分も、あんな風に出来ていたなら。 彼を見ると苦しくて堪らなかった。 彼が来てから数ヶ月が経つと、大聖堂の人々はすっかり尊敬の目で彼を見るようになっていた。 クリスのことなど忘れたかのように。 しかしクリスは、それが心地良くもあった。 誰からも興味を向けられない生活は平和でもあったからだ。

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