33 / 109

第5話 進展(1/7)

真っ白な雪の日。 厳しい冷え込みで大聖堂の人々も震える中、暖炉の前で固まって動けない人物が居た。 頭に何か乗っていると思ったら、後ろ向きにへたりこんだ猫の耳だった。 「おはよーって、…猫さん? 朝早くから居るなんて珍しいね」 「おあよー…さ、寒くて、動けないん…」 「寒いの苦手なんだ」 苦笑いするユーベルに、アルは青ざめた唇で笑いごっちゃねえ…と呟く。 「…前々から気になってたんだけど、どこで寝泊まりしてるの?」 「…医務室とか外」 「はぁ!?」 アルはたまにしか見かけない。 食事の時間には毎度しっかり食堂に居るのに、夜になるとどこかへ姿を消してしまうから、大聖堂では生活していないようだった。 掴みどころのない恋人の私生活に疑問がないわけじゃない。 でもさすがに、この季節に外で寝るなんて馬鹿じゃないのかとユーベルは眉間に皺を寄せた。 当のアルはぶるぶる震えながら、雰囲気を察して鼻で笑ってみせた。 「嘘だよ」 「それが嘘でしょ。馬鹿」 アルの張った見栄は一瞬にして見破られた。 それから、まったく、と一言残したユーベルが居なくなり、少しして戻ってきたその手には毛布と温められたミルクがあった。 「ほら、これ飲んで」 ほっこりと湯気の立つカップがアルに渡される。 「おぉぉ、サンキュー…」 カタカタと波打つミルクを口に運ぶその背中に、ふわりと毛布が掛けられる。 「温まったら礼拝に参加してね。たまには顔出さないと」 面倒臭いなぁとぼやくアルを見たユーベルが毛布を引っペがすと、震えるアルは渋々参加することを了承するのだった。 礼拝が終わる頃には聖堂内もすっかり温まり、アルは普段通りの元気を取り戻していた。 珍しく参加したことにより神父からのお小言もなく、気分よく暖炉の前でぬくぬくしていた時だった。 近くを通りがかったクリスが、アルに気付いて物珍しそうに寄ってきた。 「いいご身分ですね、猫野郎…ごろごろしてる暇があったら、ユーベル様の爪の垢でも煎じて飲んだらどうです?」 「うるせー色白野郎。猫がごろごろして何が悪い」 「ごろごろ出来るのは飼い猫だけです。首輪でもしますか? そこの柱に繋いであげますよ。まあ、猫野郎には野良の方がお似合いですけど」 「うっせーなもう! 突っ掛ってきやがって、蝋燭もやしって呼ぶぞ!」 「ろ…蝋燭もやし!? 白い物を掛け合わせただけじゃないですか! センスも語呂の悪さも幼稚です、幼子レベルです。お坊っちゃんとでも呼びましょうか?」 「おっまえ…!」 せっかくいい気分で暖をとっていたのに、クリスのせいで台無しだった。 興をそがれたアルは腰を上げて、温かい大聖堂から極寒の空の下へヤケクソで飛び出して行った。

ともだちにシェアしよう!