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第5話 進展(1/7)
真っ白な雪の日。
厳しい冷え込みで大聖堂の人々も震える中、暖炉の前で固まって動けない人物が居た。
頭に何か乗っていると思ったら、後ろ向きにへたりこんだ猫の耳だった。
「おはよーって、…猫さん? 朝早くから居るなんて珍しいね」
「おあよー…さ、寒くて、動けないん…」
「寒いの苦手なんだ」
苦笑いするユーベルに、アルは青ざめた唇で笑いごっちゃねえ…と呟く。
「…前々から気になってたんだけど、どこで寝泊まりしてるの?」
「…医務室とか外」
「はぁ!?」
アルはたまにしか見かけない。
食事の時間には毎度しっかり食堂に居るのに、夜になるとどこかへ姿を消してしまうから、大聖堂では生活していないようだった。
掴みどころのない恋人の私生活に疑問がないわけじゃない。
でもさすがに、この季節に外で寝るなんて馬鹿じゃないのかとユーベルは眉間に皺を寄せた。
当のアルはぶるぶる震えながら、雰囲気を察して鼻で笑ってみせた。
「嘘だよ」
「それが嘘でしょ。馬鹿」
アルの張った見栄は一瞬にして見破られた。
それから、まったく、と一言残したユーベルが居なくなり、少しして戻ってきたその手には毛布と温められたミルクがあった。
「ほら、これ飲んで」
ほっこりと湯気の立つカップがアルに渡される。
「おぉぉ、サンキュー…」
カタカタと波打つミルクを口に運ぶその背中に、ふわりと毛布が掛けられる。
「温まったら礼拝に参加してね。たまには顔出さないと」
面倒臭いなぁとぼやくアルを見たユーベルが毛布を引っペがすと、震えるアルは渋々参加することを了承するのだった。
礼拝が終わる頃には聖堂内もすっかり温まり、アルは普段通りの元気を取り戻していた。
珍しく参加したことにより神父からのお小言もなく、気分よく暖炉の前でぬくぬくしていた時だった。
近くを通りがかったクリスが、アルに気付いて物珍しそうに寄ってきた。
「いいご身分ですね、猫野郎…ごろごろしてる暇があったら、ユーベル様の爪の垢でも煎じて飲んだらどうです?」
「うるせー色白野郎。猫がごろごろして何が悪い」
「ごろごろ出来るのは飼い猫だけです。首輪でもしますか? そこの柱に繋いであげますよ。まあ、猫野郎には野良の方がお似合いですけど」
「うっせーなもう! 突っ掛ってきやがって、蝋燭もやしって呼ぶぞ!」
「ろ…蝋燭もやし!? 白い物を掛け合わせただけじゃないですか! センスも語呂の悪さも幼稚です、幼子レベルです。お坊っちゃんとでも呼びましょうか?」
「おっまえ…!」
せっかくいい気分で暖をとっていたのに、クリスのせいで台無しだった。
興をそがれたアルは腰を上げて、温かい大聖堂から極寒の空の下へヤケクソで飛び出して行った。
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