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第5話 進展(3/7)
「はー、生き返ったー」
ほっかほかになったアルが上機嫌で部屋に戻ると、ちょうど、廊下側のドアが開くところだった。
後ろ手にドアを閉めるユーベルのもう片方の手には使い込まれた銀のトレイがあって、アルに気がつくとぱっと表情が明るくなった。
「あ。もう大丈夫?」
「ああ! 屋根と壁があるって素晴らしいな!」
「ふふっ、何それ」
頬を艶やかに上気させたご機嫌な様子のアルを見て、笑ったユーベルがテーブルにトレイを置く。
器に盛られたトマトベースのシチューから、よく煮込まれたニンジンや鶏肉が顔を出していて、ふわりと立ち上る湯気がアルの鼻をくすぐった。
「め、飯…」
「夕飯のとき、食堂に居なかったからお腹すいてるかと思って」
「あーっ! すいてる! いただきます!」
椅子に飛びついたアルが慌ただしくシチューに食らいつく。
誰も取ったりはしないのに、せわしないなぁと心の中で呟きながら、ユーベルは向かいに座ってアルの様子を観察していた。
「なんか、猫さんって」
「うん?」
食事を続けるアルを、頬杖をついたユーベルが笑う。
「野良猫みたい」
「ぶっふ!」
「うわ! ちょっ…汚いな!」
「げほげほっ! …揃いも揃って人のことなんだと思ってんだ…!」
「どういうこと?」
アルが噴き出した食べかすを拭きながらユーベルは怪訝な目を向けた。
むせ返って涙目になっているアルが、喉に水を流し込んで睨み返す。
「今朝クリスにも同じこと言われたぞ。なんか示し合わせてんの?」
「えぇえっ!? し、知らないよそんなこと!」
「俺のこと影でそう呼んでるとか」
「呼んでないって!」
わざとらしくいじけるアルがシチューのニンジンをスプーンでつつき回す。
今朝のクリスとのやり取りが頭に浮かんで、なんとなく、後先考えずに呟いた。
「首輪があれば外で寝なくて済むんだけどな」
「…はい? どういう意味、それ」
発言の意図がわからず、ユーベルが首を傾げる。
するとアルは残りのシチューを一気に掻き込んで、ごちそーさまと手を合わせた。
「別に、なんでもない。もし俺が凍死したらクリスのせいだと思って」
「…そんなもし、起こったら困るよ」
食器を水場に下げるついでに、ユーベルはアルの頭をコツンと小突いていった。
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