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第5話 進展(4/7) ちょっとエッチ
器をすすいでいるユーベルの背中に、不意に後ろからアルの腕が伸びて、胸の中に閉じ込められた。
緩くて、簡単に振りほどける力なのに、背中に伝わる熱さに縛り付けられて動けなかった。
「じゃ、邪魔…なに?」
「あったかいな、ユーベル」
うなじに顔を埋められて、擽ったさから身をよじりそうになるのを誤魔化すように、濡れた手がタオルを強く握り締める。
他人の温度に不慣れなのは、あの子だけじゃない。
ユーベルもまたそうだった。
「でしょうね…」
動揺を見せないように呆れた素振りをして手を拭くユーベルの首元に、吐息がかかる。
心無しか早まっていく呼吸が耳に届いて、つられて鼓動が早くなっていく。
「…あーえーっと、ちょっと、やることがあるから、離してくれない?」
「やだ」
胸の音が耳に入らないようにあえて明るく尋ねたのに、食い気味に拒否されて、アルの手がまさぐるように身体を這った。
反射的にビクンと全身を強ばらせたユーベルが、平静を装うのを忘れて動揺を見せる。
「っ…ちょ、っと、何してるの」
アルからの返事はなくて、代わりにかぷっと、首筋を甘噛みされた。
「……っ!」
次いで、ぬる、と舌が這わされる感覚に、今度こそふるっと身をよじった。
喉を突いて出そうになる声を堪えて、息を詰まらせているこめかみに、アルが囁く。
「…なぁ。俺のこと、飼ってよ」
「…は、はい!?」
口を開いたと思ったら、何を言ってるんだこの人は…と振り返ろうとすると、苦しいほどぎゅうっと抱き締められて、また動けなくなった。
どうにか穏便に逃れられないか必死に考えを巡らせようとすると、今度は耳の端をつぅぅ、と舌先がなぞる。
「ふぁ…っい、いい加減っ…離してってば」
上擦った声が喉を通り抜けて、アルの耳を甘やかに擽った。
しまった、と唇を噛み締めるユーベルを追い詰めるように、耳たぶが唇で挟まれて、濡れた舌がじっくり丹念に形をなぞって、ちゅぷ、と奥まで入り込む。
「――っ! 、…!」
ぞくぞくぞく、と、ユーベルの背筋を快感が駆ける。
意地で声は押し殺せても、声にならなかった吐息が零れる。
ゆっくり舌を出し入れされて、ぴちゃ、くちゅ、と音を立てられると、脳髄から甘く痺れていく感覚すら覚えた。
びくびくと小刻みに震えながら必死に声を押しとどめる様子を見て、アルは堪らなく興奮した。
自分がどれだけ興奮しているかわかるように、密着しているユーベルの尻に硬くなった自分自身をぐぐっと押し付けて、耳元に囁く。
「ユーベル、わかる? 俺、すっげー我慢してるの」
「はぁっ…、はっ、離してっ…!」
熱を溜め込んだ吐息が解放される。
アルが顔を覗き込むと、じわりと潤んだ瞳で睨み付けられた。
くらりと眩暈がするような衝動で顎を掴んだアルは、貪るように舌を合わせた。
ぬるぬると擦り付けて、唾液を啜って、ちゅ、ちゅ、と何度も繰り返す。
「んぅっ、は…っ、んんっ…!」
少し苦しそうな声がぞくぞくと猫の耳を震わせる。
何度も何度も想像した行為が現実となりつつあることに、アルは夢中になっていた。
ユーベルから発せられる声も吐息も、全てが愛おしい。
快感に飲まれていく様にますます昂って、ユーベルの股間に手を伸ばした。
ほんの少しだけ、指先が掠めた瞬間に、
「――ッ!」
「痛っ…! いってーっ!!」
ユーベルが、アルの舌を思い切り噛んだ。
瞬間的に二人が離れて、沈黙が落ちる。
呼吸を整えるユーベルの背中を見つめながら、アルの頭の上には疑問符がいくつも浮かんだ。
なんで?ここまできてどうして?嫌がることしたかな?そもそもそういうつもりなんて無いのか?と半ばパニックで心当たりを探っていると、ユーベルが口を開く。
「あの…、ご、ごめん…つい…びっくりして」
後ろ姿のままそう言われると、不安で堪らなかった。
側まで寄って、強引に振り向かせる。
目を合わせたがらないその顔は、深く傷ついているように見えて、アルの胸がズキンと痛んだ。
「あ…俺の方こそ、ごめん…」
「いや、んん…と、みっともないとこ見せたよね。忘れて。…って、忘れるわけないね…、ごめんなさい」
自嘲気味にそう言って自分の顔をパン!と両手で挟む不自然な行動は、どう見ても空元気を出そうとしていて、アルは頭を掻いた。
「…お茶でも煎れてやるよ」
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