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第7話 流行り風邪(7/12)
大聖堂にある蔵書の記述で、見た覚えがある。
志半ばにして力尽きた魔術師の亡霊、レイス。
未練がそうさせるのか、死してなお生にしがみつこうとする亡者。
どこから紛れ込んだのだろうか、大聖堂を訪れる人々に病を処方し、宿主から力を奪ってせっせと蓄えていたその姿は、通常で確認されているものより三倍はある大きさだった。
蓄えたものが重いのか、浮くことが出来ずに、黒い靄を引きずるようにして部屋の奥からズルズルと近付いてくる。
「おおお!? 太り過ぎだろ!」
「だから言ったでしょう、油断しないでって」
再び霊魂が二人に向かって飛んできた。
アルがひらりと避けて、ユーベルが片手でバチンと受け止める。
動きは鈍いが、その分力強いようだ。
痺れた手をプラプラと振り払うユーベルが、ヒュンと飛んできた追撃の二発目を肩を引いて躱した。
「いたた…思ったより重いよ、受けないように気を付けて」
「だろうな。あんま時間かけないで行くぞ」
加護と、防護と、肉体強化。
まるで数でも数えるように三つの呪文を一気に唱えながら、アルが駆けた。
呼び出された精霊を拳に宿し、距離を詰めたレイスの胸骨にガツンと捩じ込む瞬間に、すかさずアンデッドを無に還す呪文を重ねる。
「“安らかに” 大人しく寝とけ」
『グギュッ! …ギヒッ! ヒーッヒヒィ!!』
精霊の齎す光の雨がレイスへ降り注ぐ。
照射された霊魂の肉がざわざわと波立って、目玉のない双眸から笑っているような悲鳴が響く。
「やったか!?」
「それやってない時に言うやつ!」
光の雨が止んでも、変わらず佇むレイスがそこに居た。
逆上した様子で大声で笑い、宙に漂うボロ布を鞭のように薙ぎ払う。
『ゲハハハッ! ゲギヒャヒャヒャ! 良イ、良イ、活キガ良イ! 我ガ術式ノ源ト成レ!』
「やっぱ無理か」
「でしょうね…ってただの小手調べのくせに」
しなって襲い来るボロ布と、乱発される霊魂を受けないようトントンと足を運びながら、ユーベルは賛美歌の一節を口にした。
口上に合わせて、彼の周りを仄青い光が覆う。
次いで、髪に隠されていたイヤリングを片方だけ取って、アルに向かって放り投げた。
「猫さん!」
「はいよ」
光を宿したイヤリングを器用に受け取って、アルは自らの猫耳にぱちん、と着けた。
すると、イヤリングから光がふわりと広がって、アルを包み込む。
薄膜のようなそこから一筋の糸が伸びた先は、ユーベルのイヤリングに繋がっていた。
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