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第7話 流行り風邪(6/12)
寄ってくる屍をアルが軽く蹴散らす。
側で屍が呻く度にエレノアが悲鳴を上げる。
アルの尻尾が苛立ちで揺れて、二人に挟まれて苦笑いをするユーベルが、エレノアを宥めるように屈んで声を掛けた。
「お守りはどう? 何か変わったところはある?」
「えっと…はい! さっきより赤く濁ってます…それに、なんだか空気が重いのです。なんとなく…ですけど」
「どっちの方だ?」
アルに言われて、エレノアは行きたくない方の通路を指差した。
よし、とその石壁の道を進んでいくと、空気が重くまとわりついて来るようで、ますます気分が悪くなってくる。
「うぅ…ひっ、お守りが…!」
ふと視線を落とすと、赤く染まっていただけの石が、赤黒く鈍い光を放っていた。
ぞっとして、足が竦む。
「…近いね」
「近いな」
二人がそう口にすると、通路が行き着く先から、嵐の日の風のような、苦しむような悲鳴と愉悦の笑いが混じったような、おぞましい叫び声が木霊した。
『ヒィ―――ッ! ギッヒハハハッ! 糧ダ…良キ糧ガ来タゾ…! ヒカカッ!』
狭い通路に反響して鼓膜をねぶられているような気持ち悪さと、脳をじわじわと侵食する未知の恐怖が、エレノアに耳を塞がせる。
「よし、さくっとやるか」
まるで平気な様子のアルが首と手の骨をコキコキと鳴らしてユーベルに目配せをする。
「油断しないで。一般的な規格より大きくなってる感じがする」
そう応えたユーベルがエレノアの肩をそっと掴んだ。
「君は壁を背にして、ここに居て。いい? 部屋に入っちゃ駄目だよ」
「はははっはひぃいっ!」
恐怖で震えるエレノアは、言われた通り通路の壁に張り付いた。
中に歩みを進める二人の背中を見ていると、その先で大きな影が蠢く。
「おぉ…思ったよりやばそうだな」
アルが呟く声に反応して、黒く潰れた霊魂が弧を描いて放たれた。
ひらりと躱したアルが、カウンターの要領で精霊を呼び出す呪文を唱えると、召喚された球体の輝きで全貌が照らし出される。
それは、ボロ布を纏った骸骨の形をしていた。
照らされた影がゆらゆらと揺れているのかと思いきや、周りを肉の代わりに黒く蠢く霊魂が覆っていた。
エレノアは悲鳴を上げそうになった口を両手で塞いで、青ざめながら息をひそめた。
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