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第8話 貴婦人の集い(6/7)

ドン!と壁に手が突かれた。 その横に目を見開く顔があって、腕の持ち主と壁の間に閉じ込められる。 「…どう? マリー」 壁に張り付いたマリーは、ほんのり頬を染めて噴き出した。 「っふふ! あはは、だめ! 驚きはしたけど、やっぱドキドキはしないわ!」 「まぁそうよね。あなたと私じゃ、このくらいの距離感どうってことないしね。構図の参考になりはしても、心理描写には生かせないか…」 壁から手を離したフランが考え込むように腕を組む。 「あはっ、じゃあ逆はどう?」 「ん…?」 ドン、と今度はマリーがフランの顔の横に手を突いた。 それからマリーが顔を近付ける。 「素直になれよフラン…」 「……ぶふっ」 マリーの作った声色に、フランが噴き出した。 「あっはは! だめだめ! 笑いは生まれても生きる糧は生まれて来ない! あーおもしろっ」 腹を抱えるフランが目線を落とすと、少し離れたところでドン引きしているステラが居た。 「あ。ステラ」 マリーも気付いて振り返る。 「あ! おかえりステラ!」 「はは…」 やっぱりこの二人に関わるのはやめようかな、と思った瞬間だった。 場所を変えて、私達はマリーの寝室に来ていた。 日中だから同室の司祭はおらず、持ち寄った飲み物やお菓子を床に敷いたシーツに広げる。 「それじゃあ、ステラの仲間入りに…」 「かんぱーい!」 「か、かんぱーい!」 コップにそれぞれ好きな物を注いで、カチンと合わせた。 二人は昼間なのにお酒を選んでいるようで、甘いけどむせるような香りがした。 「よーし、じゃあステラ。それぞれ細かく報告よろしく!」 「は、はい…えと順番に、ユーベル様から…」 私は自分が持っている全語彙力を駆使して、三人分のお祈りの様子を二人に精一杯伝えた。 時折どちらかが興奮して中断しかける度に、もう片方が鎮めたりして、時間は掛かったけどなんとか乗り越えた。 無事に伝えきったところで、一息つこうとコップのジュースを一気に飲む。 「ふぅ…これでおしまいです。どうでしたか?」 二人を見ると、熱心に書き記していくフランを置いて、マリーが私の頭を撫でた。 「よくやった! えらいえらいよー、ステラいい子いい子!」 ほろ酔いで上機嫌のマリーがへらへらと笑う。 こんなことでも、褒められると嬉しくて、私もつられてえへへと笑った。 「…でもね」 急に、マリーの声が真剣なトーンになる。 「ステラの素質が試されるのは、ここからなの」 「…え?」 このあと、私は禁断の領域に足を踏み入れた。 ただ三人の誰が好みか、とか、そういう話だと思っていたのに、私が引きずり込まれたのはもっと闇深く耽美で…魅惑的な世界だった。

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