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第10話 猫の迷い-後編-(14/20) ※R18
アルの余計な一言のせいで、浴室から戻ってきたユーベルはむすっとしていた。
それは、照れ隠しと緊張が相まってのことだった。
それもそうだ。
これから何をするのか、知らないわけじゃない。
お互いの性格を考えて、自分が受身側なのだろうなと自覚のあるユーベルが緊張するのも当然だった。
何せ、それ用の身体じゃないのに受け入れるわけだ。
大きな不安と、期待に応えたいという想いと、ほんの少しの好奇心とが、不機嫌そうなユーベルの胸中でせめぎ合っていた。
「…入ってきたら? 温かい内に」
「おー、そうするかな」
顔を合わせようとしないユーベルの背中に答えて、入れ替わりでアルが浴室に向かう。
ユーベルの気まずそうな様子を、内心で初々しいなぁと笑ったアルはいつも通りにお風呂を済ませて、ほかほかの上機嫌で部屋に戻った。
火照った頬をひやりとした空気に撫でられて、風の流れてきた方を見ると、窓際で夜空を見上げるユーベルが居た。
「寒っ…風呂上がりに冷えたら風邪ひくぞ」
「…うん」
生返事をして動こうとしないユーベルの後ろに寄り添って、アルも夜空を見上げてみる。
「星か」
「うん。あの時と形は違うけど、ちょっと思い出して」
「あー…」
話をする二人の息が白い。
頭に浮かぶのは、満天の星の下でお互いの立ち位置が少し変わった、あの夜のことだった。
あれから季節が巡って、星模様はすっかり様変わりしていた。
「悪い、覚えてない」
「えー…」
アルの一言に密かに胸を痛めたユーベルが苦笑する。
「あの時はすっげー緊張してたから、星の形なんて覚えてねーよ」
「…なんだ、そういう意味か」
あの、思い出すと気恥ずかしくもある告白のことを忘れたのかと早とちりしたユーベルがほっと安堵すると、アルが後ろから包むように抱き寄せた。
「綺麗だな」
「うん。また見に行きたいな」
「ん…今度な」
冷えた頬に手が添えられて、振り向いた唇が重なる。
目を閉じて受け入れるユーベルが腰に手を回すと、アルはキスを続けながら窓を閉めた。
唇が、舌が、触れ合う箇所が、これから至る行為への期待でお互いの鼓動を高め合う。
暫くの間アルが求めるだけキスに応えて、息を継がせないしつこさに音を上げた唇が苦しさに喘いだ。
「んぅ、ふ…、っは、…な、長い…!」
「へへ…好きなんだもん」
「だもんって…ん」
話している最中にも、アルが啄むようにキスを仕掛ける。
「…キス魔」
「呼んだか?」
ぼそっと呟いた声に、アルは何故だか嬉しそうにしてユーベルの手を引いた。
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