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第1話
「男同士で結婚だあ!?なに考えてんだ。アタマ沸いてんのか」
斯波直之 は耳を疑った。我が子の口から出た言葉が、咄嗟に理解できるものではなかった。
「親父には話してない。関係ないから、あっち行けよ」
確かに息子の真人 は、携帯の向こうの誰かに向かって話していた。
真人の大学からの親友が今度結婚するのだと。それも男同士で。
常識外れな話が向こうから勝手に飛び込んできたのだ。反応だってする。
聞かれて困る話を、自分がいる居間で話す方が悪いだろ、直之はそう思う。
携帯を切った長男が直之に向かい直る。
「結婚って言っても籍入れる訳じゃないって。ただ披露宴みたいのをするから、俺がそれに呼ばれたって話で。ゆくゆくは養子縁組とか、するのかもしれないけどね」
空気を変えようとしているのか、そんな聞いてもいない説明をしてくる。だとしたら全くの失敗だ。
「そんな事は訊いてねえ!──胸糞わりぃ。呑み行ってくる!」
直之は仕事から帰ったその足で再び玄関を出た。
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