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第2話

(結婚だと……男同士で。(ゆる)されるのかそんなこと!?) むしゃくしゃとした気分のまま、行きつけの小料理屋の暖簾をくぐる。 「斯波さん、いらっしゃい」 顔なじみで店主の上原(うえはら)に会釈で返し、乱暴にカウンターの椅子に腰を下ろす。 「熱燗と冷奴ですか?」 「あとつまみ、適当に」 「斯波さんご機嫌ナナメだね」 愛想よく笑顔で対応した上原は、すぐさま口にした。 上原と直之は長い付き合いだ。だが、上原でなくても虫の居所が悪いくらいは見て取れるだろう。 「上ちゃん聞いてよ。真人のさ、親友ってのが結婚するんだって」 「おめでたい話じゃないですか」 「それがさあ、男同士だっていうんだよ。そんなバカな話あるか」 直之は手酌で酒を注ぎ、杯をグイッと傾けた。 「──それは、なんとも」 「何でもかんでも自分の気持ちのままに生きりゃ良いってもんでもねえだろうよ。時には自分を偽ってでも、通さなきゃいけない筋ってもんがあんじゃねえの、男には」 更に杯を重ねる直之に、どこか痛いような顔をして上原が答える。 「今は時代が変わったって……ことなんでしょうかね」 「俺の時代なら、駆け落ちか心中くらいしか道がねえと思ったがな。──ああ。ありゃ時代のせいじゃねえか」 「斯波さん……」 ヤケになっているとも思える言いように、上原が消え入るように呟く。 「上ちゃん、もう一本」 瞬く間に空にした徳利を持ち上げてゆさぶる。上原は首を横に振った。 「斯波さんダメです。今はどう飲んだって悪い酒にしかなりません。今日は早く帰って、寝ちまって下さい」

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